鉄道業界にも押し寄せる“高齢化の波” 土佐電鉄「200形」は65年以上現役で活躍

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 ハッピーマンデー制度の施行によって、2004年から敬老の日は9月の第3月曜日へと移動した。今年は敬老の日が9月20日となっている。

 高齢化社会を迎える日本は、2020年に65歳以上の人口が3600万人を突破。人口に占める割合も28.7%にまで上昇した。

 高齢化は人間だけの社会現象ではない。鉄道業界でも長寿命化が顕著になっている。

 2013年、国土交通省が主導してインフラの長寿命化計画が策定された。同計画の背景には、高度経済成長期につくられたインフラが一斉に老朽化していることがある。同計画では道路・橋梁・鉄道といったインフラ全般についての対策をまとめているが、特に地方都市におけるインフラの老朽化は顕著になっている。そのため、国土交通省のみならず総務省も市町村にインフラ長寿命化の取り組みを呼びかけている。

 国土交通省や総務省は、定期的に点検することにより、結果的にインフラを長持ちさせるとして、長い目で見れ整備費用も軽減されるとしている。

 鉄道分野に絞れば、インフラ長寿命計画の対象は鉄道施設となっている。鉄道施設とは、駅・線路・車庫・変電所・信号施設・無線施設などで、ここに車両は含まれていない

 言うまでもなく、これら鉄道施設が維持されていても、車両が適切に管理されていなければ鉄道を運行することはできない。

 実際、鉄道事業者には法律に基づき車両を定期的に点検する義務が課せられている。例えば2006年、銚子電鉄は車両の検査費用が不足するという事態に直面した。資金を調達するため、銚子電鉄はインターネットで「ぬれ煎餅」の購入を呼びかけた。これが大きな話題を呼び、ぬれ煎餅は爆発的にヒット。その売り上げによって、銚子電鉄は検査費用を賄った。

 車両にしても鉄道施設にしても、点検や維持管理には莫大な費用が必要になる。国土交通省が提唱するこまめな点検が、長い目で見れば費用の軽減につながることは鉄道に携わる人間だったら誰もが理解している。しかし、現実はそう単純な話ではない。地方の中小鉄道事業者の多くは莫大な検査費用を捻出するために四苦八苦している。

 なにより、鉄道車両に関しては長寿命化を目指すことが必ずしもいいとは限らない。物を大事に扱うことは賞賛されるべきことだが、鉄道会社は多くの利用者を安全、迅速、時間通りに、そして快適に運ぶことを使命として課されている。そこには、通常のインフラとは異なる事情がある。

小湊鉄道のケース

 旧型車両に比べて、最新車両には新しい技術が採用されている。エネルギー効率の向上といった面だけを見ても、CO2は大幅に削減されている。利用者にとっても、快適性や安全性の面から新しい車両の方がメリットは大きい。

 それは理解していても、前述したように地方の中小鉄道事業者では古い車両を使い続けるしかない。千葉県市原市を走る小湊鉄道は、長らくキハ200形という古い車両を使い続けてきた。小湊鉄道が保有するキハ200形は、もっとも古い車両で1961年製。最新車両でも1977年製だった。そのため、車両の更新が課題になっていた。

 鉄道ファンにとって、古い車両はお宝的な存在で人気がある。しかし、鉄道会社・沿線自治体・地元住民が新しい車両を望むことは自然な話だろう。昨年、小湊鉄道はJR東日本から中古車両のキハ40形を購入。中古ながら、キハ40は小湊鉄道にとって久しぶりの新車両として話題を集めた。

 小湊鉄道は車両の更新をしなかったのではない。正確には、できなかった。ローカル線の沿線は、人口減により利用者の減少は続いている。今後も増える見通しは立たない。経営を維持するだけでも精一杯のローカル線に、新型車両を購入できる経済的な余裕はない。新型車両は一両で数億円もする。

 経営の苦しい中小鉄道事業者にとって、中古車両でも軽々と購入を決断できるものではない。図らずも、車両は長寿命化してしまう。

 古い車両でも点検を繰り返して、とにかく長く使い続けることは国土交通省が打ち出した長寿命化ではない。苦渋の決断から、結果的に長寿命化しているに過ぎない。こうして古い車両は使い続けられることになるが、それにも限界がある。

 使用する路線や鉄道会社の方針によっても異なるが、鉄道車両の寿命は20年前後とされている。税制面で見ると、鉄道車両の減価償却期間は電車が13年。電気機関車・蒸気機関車が18年といった具合に細かく定められている。

 これらは、あくまでも会計上における減価償却期間に過ぎない。一定の目安にはなるが、中小鉄道事業者にとって減価償却期間はあってもないようなものなのだ。

 特に路面電車は営業範囲の小さく、総走行距離が短い。そのため、路面電車の車両は長く使用される傾向が強い。

 高知県高知市・南国市・いの町を走る土佐電鉄は3路線を有し、総延長は25.3km。JR各社や大手私鉄と比べれば、その規模は決して大きいとは言えない。それでも路面電車の事業者に限定すれば、国内2番目のスケールを誇る。

 そんな土佐電鉄は、1950年から製造を開始した200形が現役で走っている。もっとも若い200形でも1955年製だから、65年以上も活躍していることになる。

 各地の路面電車は観光需要に応えるため、あえて古い車両を残す場合がある。しかし、土佐電鉄の200形は、そうした観光用のレトロ車両として使用されているわけではない。あくまでも、日常生活の足だ。

 昨年からのコロナ禍により、ローカル線の窮状は深刻化を増した。メンテナンス技術の向上や部品の品質向上が車両の高齢化を成り立たせてしまっているという側面があることは否めない。

 そんな状態が、果たしていいことなのか悪いことなのかは個々の判断によるだろう。しかし、鉄道事業者の本音は新しい車両に置き換えたいという思いが強い。

しなの鉄道の取り組み

 そうした中、長野県のしなの鉄道が注目される取り組みを始めた。しなの鉄道は、1997年に長野新幹線の並行在来線となる軽井沢駅-篠ノ井駅間を引き継ぐ形で開業。

 全国の旧国鉄線を引き継ぐために生まれた第3セクター鉄道は、その多くが経営で苦戦している。コロナ禍以前まで、しなの鉄道は年間で約1億円の営業利益を出していた。この数字は第3セクター鉄道としては上々といえる。それでも1両で数億円もする車両の購入には二の足を踏む。

 そこで今年1月、しなの鉄道はファンドを通じて資金調達する計画を発表。鉄道会社がファンドを活用して資金調達するケースは日本初のため注目を浴びた。

 しなの鉄道の成り行き次第では、資金面で車両の更新を諦めていた鉄道会社がファンドによる資金調達を模索するかもしれない。

 とはいえ、沿線人口が減少に歯止めがかからない今、ファンドを活用して車両を更新する鉄道事業者が一気に増加するとも考えづらい。

 車両の高齢化は、今後も止まる気配は見えない。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮取材班編集

2021年9月20日掲載

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