【ブックハンティング】第二次世界大戦勝利を陰で支えた「女性たち」の秘められた物語

国際 2021年09月20日

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 本書は、第二次世界大戦のさなか、アメリカ陸軍、そして海軍の暗号解読者となるべく、東部の名門女子大から召集され、訓練を受け、敵国の通信解読に挑んだ1万人を超えるコード・ガールズ(女性暗号解読者)の知られざる記録をまとめた一冊である。

 コード・ガールズが活躍した1940年代当時、女性は良き娘、良き母であることのみを期待されていた。そんな時代背景のなかで、四年制大学を修了するアメリカ人女性の割合はわずかだった。大学を修了したとしても教師となる道しかなかった、そんな成績優秀な女性たちに目をつけたのが、当時アメリカ陸軍の暗号解読を担っていたウィリアム・フリードマンだ。選ばれし女性たちは首都ワシントンの施設に集結し、最高機密とされる文章の解読に挑むこととなる。兄弟、恋人、友人が銃を手に命がけの戦いを繰り広げる一方で、彼女らは1941年から45年まで、アメリカの運命を左右する通信の解読に明け暮れる。

 日本軍の外交暗号パープルの解読に重要な役割を果たしたのもコード・ガールズだった。これは第二次世界大戦当時の暗号解読において大きな進歩とされている。これにより連合軍は、日本のみならず同盟国ドイツの動きをも詳細に掌握することに成功する。ミッドウェー海戦ではアメリカにとって有利な情報をもたらし大勝利へと導き、ノルマンディー上陸時にはドイツ軍を攪乱させる欺瞞作戦の一端を担った。エニグマ暗号を解読してドイツのUボートの動きを警戒できたのも、コード・ガールズの活躍あってのことだ。日本軍が中立国スイスに宛てた降伏を示唆する暗号文を即座に解読したのも、もちろんコード・ガールズの一人。当時のアメリカ大統領ハリー・トルーマンより先に戦争終結を知ったことになる。

 著者ライザ・マンディは、70年以上にわたって機密扱いになっていた女性暗号解読者についての膨大な記録を発見、精査し、生存するコード・ガールズへのインタビューを行うことで、その活躍を丁寧に描き出している。彼女らにとって暗号解読はやりがいのある任務であり、都会での暮らしは華やかだったということだが、いくら敵国の兵士とはいえ、多くの人の命を左右する情報を扱うこと、戦争に加担しなければ高い能力を活かすことができなかった現実との間で、苦しい思いも抱いただろう。死刑になると思い、長い間何も話せなかったと著者にメッセージを送ったコード・ガールもいたそうだ。

 著者の元には全米の読者から、母が、叔母がコード・ガールズの一人だったことを知り、驚いたという内容の手紙やメールが届き続けているという。今では、コード・ガールとその家族についての物語が掲載されたウェブサイトも存在する。あまりにも長い時を経て、ようやく彼女たちの活躍が日の目を見たことの意味を考えさせられる。

村井理子
翻訳家・エッセイスト。1970年静岡県生まれ。訳書に『ヘンテコピープルUSA―彼らが信じる奇妙な世界』(中央公論新社)、『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(ともに新潮文庫)、『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(きこ書房)、 『黄金州の殺人鬼―凶悪犯を追いつめた執念の捜査録』(亜紀書房)、『エデュケーション―大学は私の人生を変えた』(早川書房)など。著書に『ブッシュ妄言録 ―ブッシュとおかしな仲間たち』(二見文庫)、『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き―おいしい簡単オーブン料理』(KADOKAWA)、『犬がいるから』『犬ニモマケズ』『ハリー、大きな幸せ』(ともに亜紀書房)、『兄の終い』『全員悪人』(ともにCCCメディアハウス)、『村井さんちの生活』(新潮社)。

Foresight 2021年9月20日掲載