「褒めたつもり」が逆効果! あなたの無意識の偏見が暴かれてしまう「禁断の3文字」

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 せっかく相手を褒めたつもりなのに、なぜか相手の機嫌を損ねてしまった――こんな失敗をした経験を持つ方も多いだろう。

 普段の会話で何気なく使っている言葉だが、その中には「無意識の偏見が出やすい、危うい表現」があるということを前もって知っていればトラブルを避けることができるかもしれない。

 言語学者の川添愛さんは、著書の『ふだん使いの言語学:「ことばの基礎力」を鍛えるヒント』で、トラブルになりやすい褒め方のパターンを指摘している。

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「偏見」がでやすい表現

 相手を褒めたつもりの言葉でも、その中に込められた意味の中に「相手に喜ばれないもの」が含まれている場合もある。

【相談】先日、今流行りの人工知能に関する講演を聞きにいきました。講師は女性の研究者で、とてもためになる話を聞くことができました。講演が終わった後、講師の方に「面白かったです。女性なのに人工知能の研究やってるなんて、すごいですねえ!」と言ったところ、なぜか気分を害されたようでした。何が悪かったのでしょうか?

 この会話について、「どこが悪いの?」と思った人、「今どきこういうことを言うのはポリコレ的に良くないなあ」と思った人、また「女性差別だ!」と憤慨した人など、さまざまだと思う。ここでのポイントは、相談者の発言における「なのに」である。

「XなのにY」という表現には、「背景的な意味」、つまり「その表現を適切に使うために、事前に成り立っていなければならない内容」がある。それは、「Xは通常(/たいてい/本来ならば)Yではないはずだ」というものだ。

 日曜なのに出勤しなくてはならない。
 →(背景的な意味)日曜は本来ならば出勤しなくていいはずだ。

 小学生なのに、相撲で大人に勝った。
 →(背景的な意味)小学生は通常、相撲で大人に勝てないはずだ。

 いい大学を出たのに、年収が低い。
 →(背景的な意味)いい大学を出ていれば、たいてい年収は低くないはずだ。

 つまり、「女性なのに人工知能の研究をしている」という文には、「女性は通常(/たいてい/本来ならば)、人工知能の研究をしないはずだ」という「背景的な意味」があるわけだ。

 誰かに向けてこのように発言すれば、話し手がそのように思っていることが相手に伝わってしまう。先の例において相談者は、講師の女性を褒めるつもりで発言したのだろうが、女性から見れば相談者の持つ「偏見」が気になって、あまりいい気分がしないかもしれない。こんなふうに、「背景的な意味」というのはけっこう怖いものだ。

「逆接の接続詞」は取り扱い注意

 こういう失敗をしないようにするのは難しい。できることといえば、ここで見た「なのに」のような「偏見が出やすい、危うい表現」に留意するぐらいだろうか。私自身も危うい表現をすべて知っているわけではないが、次のものには気をつけるようにしている。

「(私は/あなたは/あの人は)○○だけれども(/だが)、××だ」
「○○さえ(/すら/でも)××だ」
「(私は/あなたは/あの人は)○○だから(/なので)、××だ」

「だけれども」「だが」は、先に挙げた「なのに」と同類で、「逆接の接続詞」と呼ばれる。逆接の接続詞は「私は『普通はこうだろう』と思っていたが、実は違った」ということを表すため、話し手の思い込みが表面化しやすい。

「○○さえ(/すら/でも)××だ」のような表現は、「○○が××であるならば、○○以外のものは当然××である」という背景的意味を持つ。たとえば「猿にさえ分かる」とか「猿でも分かる」などと言うと、「猿に分かるんだったら、猿ではない者(つまり人間)には分かって当然だ」というふうに、お猿さんたちに対して失礼な偏見がにじみ出てしまう。

 また、理由を表す接続詞を含む「○○だから、××だ」とか「○○なので、××だ」は、話し手が「○○ならば、××だ」という、法則の形をした信念を持っていることを示唆する。たとえば、もし私が「私は言語学者だから、正しい言葉遣いをしなければならない」と言ったら、その裏にある「言語学者ならば(誰しも)、正しい言葉遣いをしなければならない」という信念も表に出ることになる。これは他の言語学者の皆さんにとっては迷惑かもしれない。

 偏見はどんなに気をつけていても言葉に表れてしまうものだが、書き言葉のように何度か見直せる類のものであれば、背景的な意味などに注意しながら推敲するとトラブルを避けるのに役立つかもしれない。

川添愛(かわぞえあい)
九州大学、同大学院他で言語学を専攻し博士号を取得。津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授等を経て、言語学や情報科学をテーマに著作活動を行う。著書に『白と黒のとびら オートマトンと形式言語をめぐる冒険』『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』『聖者のかけら』『ヒトの言葉 機械の言葉「人工知能と話す」以前の言語学』等。

デイリー新潮編集部

2021年9月16日掲載

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