リモートワーク普及にも関かかわらず「東京一極集中」が加速 移住は関東圏がメイン、里帰り出産拒絶で拍車

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 テレワークが東京から地方への移住を後押しし、地域の活性化にもつながると考えた人たちは、とんだ見込み違いであった。いまも地方の人口は減り続け、このコロナ禍で人的交流をせき止めようとしたことが、更なる事態の悪化を招いた。もはや打つ手はないのか。

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 コロナ禍で感染者の多い東京都から「脱出」する人が増え、地方回帰が進む――。こうした予想が少なくなかったが、蓋を開けてみれば全くの見当違いであった。相変わらず東京への人の流れは続き、むしろ地方の人口が減少する結果となっている。

 なぜ、こうも見立てに狂いが生じたのだろうか。そこには三つの勘違いがあった。一つ目の勘違いは、各種アンケート調査において、地方移住に対する関心の高まりがみられたことを鵜呑みにしたことだ。

 内閣府の「第3回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を例にとると、東京圏に住む人を対象として2021年4~5月に実施された調査では、地方移住について「強い関心がある」と「関心がある」の合計で14・2%に上った。「やや関心がある」を含めれば33・2%である。東京23区に住む人に限れば38・1%と4割近い。

 しかしながら、関心を持つことと、実際に行動に移すこととは別である。いざ自分が行うとなると、煩雑さや「地方暮らしのリアル」に腰が引ける人が少なくない。移住して1年足らずで都会に舞い戻る人も多いのだ。

 二つ目は、こうしたアンケート調査結果とも密接に絡むが、テレワークの普及が地方移住の背中を押すとの期待感だ。

 前出の内閣府の調査でも地方移住に関心を抱いた理由の第2位は「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」(25・4%)であった。だが、テレワークに馴染む仕事ばかりではない。夫婦のどちらかがテレワークできない職種の場合にも地方移住とはならない。テレワークに移行したとしても、多くの人は出社が完全になくなったわけではなかった。子育て中の世帯の場合、子供に転校を求めざるを得なくなるため断念した人もいた。

 三つ目は、コロナ禍にあって東京都の人口が減少に転じたことが、いつの間にか「感染を回避するため東京脱出者が増えた」と曲解されたことである。東京都総務局統計部によれば、20年4月の実態をとらえた5月1日現在人口(推計・補正後)の1408万9945人をピークとして、その後は概ね減少傾向が続いたのだがこれは外国人の減少や自然減少による影響もあってのことだった。

 総務省の住民基本台帳人口移動報告で20年の全国の人の動きを確認してみると、「東京脱出」どころか、他の道府県から引っ越して来る人のほうが多い「転入超過」だった。その数は全国最多の3万1125人だ。むしろ、39道府県が「転出超過」となっていた。

 東京都が転入超過となったのは感染がさほど拡大していなかった1~4月の“貯金”が貢献したことが大きいが、要因はそれだけではない。「20年度」として見ても7537人の転入超過であった。

 10代後半から20代の若者たち、とりわけ女性の流入の勢いが転入超過を押し上げたのである。最初の緊急事態宣言が発出された20年4月の転入超過数を男女別に見ると、女性が男性の3・5倍だ。いずれも前年同月よりは減ったが、男性が約80%低下したのに対し、女性は約57%の低下にとどまった。

 4月といえば就職による引っ越しシーズンだ。地方には若い女性が希望する就職先が少ない。東京都の感染リスクの高さを気に掛けながらも、簡単に就職先を変更できなかったことがあったとみられる。

 その後も、女性の上京の勢いが男性に勝っていた。5月は男女とも転出超過となったが、女性は男性の4分の1の水準にとどまった。緊急事態宣言が解除されて男女とも再び転入超過に戻った6月は、女性が男性の2・8倍であった。7~12月は転出超過だったが、どの月も男性の転出超過数が多かった。

 男性のほうが例年に比べて地元に残る人や東京都から離れる人が多く、女性は上京する人、東京都に残る人が多かったということである。Uターンするにしても、男性のほうが地元で就職先が見つけやすく、テレワークに対応できる仕事に就いている割合も高かったという事情もあるとみられる。

地方回帰はまぼろし

「地方回帰」が大きな流れになっていないことは、人口動態のデータでも明確だ。厚生労働省の人口動態統計月報年計(概数)によれば、20年の自然減少幅は過去最大の53万1816人となったが、状況は地方ほど深刻であった。

 人口千人あたりの増減率で、最も下落したのは秋田県の11・5%減だ。続いて青森県(9・0%減)、岩手県(8・7%減)、山形県と高知県(8・6%減)など、すでに人口減少に悩む県で進行していた。

 これは20年だけの特殊な事情ではない。20年国勢調査の速報値によれば、5年前の前回調査と比べて増加数も増加率も東京都が断トツの1位となったのである。

 この5年間で最も人口が減ったのは15万2848人減となった北海道で、新潟県も10万1906人減った。これらを含めて38道府県で減少したのである。このうち33道府県は減少幅が拡大した。

 減少率は、人口動態統計月報年計と同じく秋田県(6・2%減)、岩手県および青森県(5・3%減)が上位に並んだ。秋田県はついに人口100万人を割り込んだ。

 地方自治体レベルでも、1719市町村(東京23区を含む)のうち、人口が増加したのは302市町村に過ぎない。82・4%にあたる1416市町村で人口が減少した。5%以上減少した市町村が50・9%を占め、245市町村は10%以上の激減であった。

 国勢調査というのは、政府の地方創生の成果をチェックする「評価シート」の側面もあるが、これらの数字を見る限り東京一極集中是正を掲げてきた政府の地方創生政策は失敗に終わったと言わざるを得ない。

 政府は東京一極集中の是正の具体策として、政令指定都市や県庁所在地などをダムに見立て、地方から東京への人口流出の“歯止め役”として期待をかけてきたが、こうした「ダム機能」がうまくいっていないことも明らかになった。政令指定都市のうち神戸、京都、北九州、堺、浜松、新潟、熊本、静岡の8市で人口が減ったのである。中でも新潟市は2・5%減、北九州は2・3%減と大幅に落ち込んだ。

 全国の自治体の約半数が5%以上も人口を減らし、政令指定都市でも人口減少が広がり始めているという結果は、出生数を死亡数が上回る「自然減少」と、東京圏などへの流出が同時に進んでいることを物語っている。

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