ユネスコが「軍艦島」展示内容に「強い遺憾」 元島民は怒りの声

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ユネスコとの信頼関係は?

 今回の調査について当事国である日本政府は、ユネスコと韓国政府との事前協議を全く知らされていなかった。それが事実なら、日本政府は加盟国分担率で11%に当たる32億円という拠出金を出していながら、ユネスコとは信頼関係ができていないことになる。

 外務省によると、日本企業の財産の差し押さえを図ろうとしている原告及びそれに寄り添う団体から提示された情報は、そもそも取扱いに注意が必要であることをユネスコも理解したという。当初、報告書には強制動員ネットの情報と組織名が掲載されていたが、ユネスコの指示で大半が削除されたそうである。同様にドイツとの比較も削除された。今回の協議を通じ、ユネスコとのあいだで、情報センターは政治運動の場ではないという合意形成はできた。

 歴史の解釈は「政治」や「運動」によるものではなく、あくまで一次史料や証言を基本に展示されるべきである。歴史においては100人の研究者がいたら、100人の解釈があるのだ。

 情報センターの役割は正確な一次史料を提供することであり、解釈は個々の研究者に委ねるべきである。情報センターは、これからも当事者の言葉を「ありのまま」伝えていく。ユネスコも過去のステートメントを遵守するために「虚偽の展示をしろとはいえない」と述べている。端島を知らない活動家や団体が、プロパガンダ活動により世論を動かし、ユネスコの力を借りて島民に濡れ衣を着せ、人権を傷つけることを許してはいけない。ユネスコが本来の役割に立ち返り、世界遺産から政治を排除することを心から願っている。政治が歴史に介入する悪循環をなくすためにも、情報センターは正確な一次情報や当事者の声を伝えていきたい。

加藤康子(かとうこうこ)
産業遺産情報センター長。1959年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒。ハーバード大学ケネディスクール都市経済学修士課程修了。国内外の企業城下町の研究に取り組みながら、「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録で中心的役割を果たす。2015~19年内閣官房参与。(一財)産業遺産国民会議専務理事。著作に『産業遺産』がある。

週刊新潮 2021年8月26日号掲載

特集「『韓国』『反日活動家』の言うがまま 産業遺産『軍艦島』に『ユネスコ』が『強い遺憾』決議のおかしさ」より

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