コロナ禍で世界マネーが流入するNFT市場 日本の各省庁は管轄を押し付け合うお寒い現状

ビジネス

  • ブックマーク

Advertisement

 新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中で物流、人の移動が滞っているが、金融市場では総じて好調な相場が続いている。大手証券会社アナリストが説明する。

「日米欧の先進国などが実体経済を下支えするため、財政出動と金融緩和を続けているため、あふれ出たマネーが投資、投機に向かっているのです。大量のマネーは、コロナ禍で今まで以上に需要が広がったグローバルIT企業や先端バイオ企業の株式だけではなく、不動産、資源、さらには暗号資産(仮想通貨)などにも流入しています」

世界に1点だけの価値

 そして今年、新たな投資・投機資金の吸収先として期待が膨らみ始めたのが、音楽や美術のデジタルデータだ。

「これらのデジタルデータには『NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)』という認証システムが使用されています。2010年代に何度か発生したビットコインバブルのように、NFTを使った新たなデジタル芸術品、アイテムの取引市場は、あっという間に膨らむかもしれません」(暗号資産事業に関わる金融機関関係者)

 新たな投資、投機先と見込まれるNFT市場。日本でもこの略称を目にする機会は少しずつ増えたが、デジタル産業や金融業界と縁がなければ、それがどのようなものか理解している人は多くはない。先の大手証券会社アナリストよると、NFTは、ビットコインなど暗号資産を支えている「ブロックチェーン(分散型台帳)」技術を使って著作権や取引の経過を記録する認証技術だという。

「ただし、暗号資産と異なるのは、『代替や等価交換ができない』という点。同じ種類の暗号資産であれば、1ビットコインは別の1ビットコインと同じ価値で交換可能です。一方、NFTは個別の動画や画像、音楽といったデジタルデータに『交換できないお墨付き』を与え、世界に一点だけの価値を与えるのです」

 これまでのデジタルデータは画像でも音楽でもデバイス上でコピーし、SNSにアップできるなど複製は容易だ。コピーや偽造をしやすいことから、デジタルデータ自体に骨董品や芸術品のような「一点もの」の価値を与えることができなかった。

 だが、NFTの認証技術を使えば、どのような音声、動画データであっても、「本物」のお墨付きを与えることができる。世界に1点だけ、あるいは限定100個の32番目の作品といった認証もでき、ブロックチェーン独特の技術によって偽造は極めて難しくなる。ブロックチェーンに詳しい金融関係者は、「デジタルデータ取引の世界は今年に入ってから、NFT技術の登場で一変した」と語る。

「3月にはTwitterの共同創業者のジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)が、2006年に自分が投稿した『世界初のツイート』(”just setting up my twttr”=今、自分のツイッターを立ち上げている、原文ママ)をNFTアイテムとして入札にかけ、291万ドル(3億円強)で落札されました。その直前には、米国のアーティストが作ったデジタル作品のNFTが、入札で6900万ドル(約75億円)の値を付けた。また、米プロバスケットボールのNBAは、NFTを使って選手の名シーンを収めたデジタルトレーディングカードを作成し、ファンや投資家の関心を集めています」

「SKE48」やJリーグのトレーディングカードも

 国内でも、NFTの流行を見込んで、ITや金融の大手企業が続々と動き出している。

 オンライン証券大手マネックスグループの傘下で暗号資産事業を手掛けるコインチェックは今春、NFTの取引市場のβ版(先行版)を提供し、その後、アイドルグループ「SKE48」のメンバーの画像や動画を納めたデジタルトレーディングカードなどの取り扱いも始めた。GMOインターネットグループも同様のNFT市場「Adam by GMO」を展開する予定だ。

 ヤフーと経営統合したLINEでは、傘下のLVCが6月にNFTの取引市場のβ版を始めた。そこでは、LINE独自のブロックチェーンや暗号資産を使ったデジタルコンテンツ「LBgreeen」「LBsky」「LBblue」を取引できるようになっている。8月にはLINE独自のブロックチェーン規格を採用した新興ゲーム会社が、サッカーのJリーグとライセンス契約を交わしたことから、「将来的にはJリーグのデジタルトレーディングカードにLINEが関わるのではないか」と推測されている。

 LINEは今年の冬にも、NFTで取引するデジタルコンテンツをヤフーのオークションサイト「ヤフオク!」で流通させる計画だ。知名度が高いヤフー、LINE連合のNFT参入は、「他社にとって強力なプレッシャーだが、消費者に身近なブランドが動くことでNFT市場が国内で急激に拡大する」(IT企業関係者)と、期待の声もある。

 ベンチャー投資業界では、ライフネット生命保険を創業した岩瀬大輔氏が、香港でNFT取引を手掛ける「KLKTN(コレクション)」を起業した。この夏までに香港の投資ファンドなどから総額400万米ドル(約4億4000万円)を調達し、KポップやJカルチャーのNFTアイテムを提供、販売していく見通しだ。

次ページ:各省庁とも“押し付け合い”の様相

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。