銀メダリスト「稲見萌寧」が目指す“飛距離アップ”の落とし穴 宮里藍もマキロイもスランプに

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「過去にどれだけ多くの選手が……」

 東京五輪の女子ゴルフで銀メダルを獲得した稲見萌寧(22)は、霞ヶ関カンツリー俱楽部での戦いを振り返り、こう語った。

「一番感じたことは、ドライバーの飛距離をもっと上げないといけないということ。これからの課題としては飛距離アップが一番です」

 稲見は競技開始初日から飛距離アップの必要性を口にしていた。だが、そんな彼女の言葉を聞いた、キャリアの長いゴルフメディアや関係者たちは、「そうやって過去にどれだけ多くの選手が不調に陥ったことか……」と、彼女の今後を案じていた。実は私も、そんな会話を交わしたひとりである。これまで日本人選手が世界の舞台を踏んだ際に、必ずと言っていいほど痛感し、口にしたのは、自身の飛距離不足だった。

 日本人に限らず、比較的小柄なアジア出身選手の多くは、大柄で筋力もスタミナもある欧米の選手たちのパワフルなゴルフを目にすると、「自分ももっと飛ばしたい。飛ばさなければ」と感じ、飛距離アップのためのスイング改造に着手している。

 その結果、成功例がなかったわけではないが、スイング改造が発端となって負のスパイラルに巻き込まれていった選手は数知れない。ゴルフヒストリーを振り返れば、明らかだ。

「勝ちたい」「勝たなきゃ」

 かつての宮里藍もそうだった。日本ツアー12勝の実績を引っ提げ、2006年から米ツアーに本格参戦を開始した彼女は、面白いようにフェアウエイやグリーンを捉える正確性の高いゴルフを誇っていた。

 しかし彼女は、次はショートゲーム(距離の短いショット技術)、次はパットという具合に技術面の改良を加え、さらには「もっと飛距離を伸ばさなきゃ」とスイングをいじり始めた。

 すべては「勝ちたい」「勝たなきゃ」という一念から取り組んだこと。だが、皮肉にもその一念が彼女のせっかくの持ち味を次々に打ち消していく結果となり、2007年後半には深刻なスランプに陥ってしまった。このときのことを彼女は、後にこう語っている。

「勝てるチャンスが増えて、欲を出し過ぎたことが一番の原因でした。ケガもあったし、いろんな歯車が噛み合わなくなって、結果的にドライバーがおかしくなった。起こるべくして起こったんです……。世界にはいろんなタイプの選手がいる。『それじゃあ自分はどうよ?』って思って、自信が持てる自分のスタイルを早く確立しなきゃって思ったのが(世界に出たときの)最初の印象でした」

 必死になりすぎて、「らしさ」を見失った。それが、ドライバーでほんの数十ヤード先にもまっすぐ飛ばすことができなくなった彼女の大スランプだった。

 その後、宮里は見事に復活していったが、彼女自身のネバーギブアップの精神とゴルフに対する真摯な姿勢から生み出された奇跡だったと言っていい。

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