自宅療養の「コロナ患者」急増で医師会の尻に火 全国ベースの見守り体制を実現するには

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全国ベースの見守り体制を実現するには

 保健所に代わって医療機関が健康観察を行うため、往診専門医や訪問看護師に加え、医師会のメンバーも電話やオンラインでの診療に応じることで、24時間の見守り体制を拡充するというわけだ。しかし、訪問医療に対応できる医師へのアクセス情報が不十分であることから、医師会は早急に、患者にとって不可欠な情報を提供できる体制を整備する必要がある。

 現在、全国の自宅療養者は7万人を超えている。新型コロナウイルス感染者が中等症以上に悪化する比率は20~30歳代で約1%、40~50歳代で約2%と小さい(8月14日付「ダイヤモンドオンライン」)。兵庫県尼崎市で約200人のコロナ患者の自宅療養にかかわってきた長尾和宏医師は、こう語っている。

「24時間いつでも連絡できるよう、患者に自分の携帯電話の番号を教えて、必要なら往診するなどの体制をつくったことで、コロナ患者全員を回復させることができた」

 このような取り組みに各地の医師会の有志たちが協力してくれれば、全国ベースの見守り体制は早期に実現できるのではないだろうか。

 政府は13日、中等症の自宅療養者らが酸素吸入が必要となった場合に備える「酸素ステーション」の整備を速やかに行う方針を示した。だが、喫緊の課題は新型コロナウイルス感染者の重症化を防ぐ手立てを講じることである。

 菅首相は16日、新型コロナ患者の重症化を防ぐ「抗体カクテル療法(点滴薬)」に関し、宿泊療養施設での投与を進める考えを示した。命に関わるアナフィラキシーという副反応のリスクなどから入院患者に限られていた適用範囲が拡大されたことは、一歩前進したといえる。さらに、医師会のバックアップがあれば自宅療養への早期適用も夢ではない。

 厳密な安全性よりも医療資源の有効活用が優先される災害医療の観点から、抗体カクテル療法以上に重症化を防ぐ効果が期待できるのはイベルメクチンである。

 イベルメクチンはノーベル医学・生理学賞受賞者の大村智・北里大学特別栄誉教授が開発に貢献した抗寄生虫薬(錠剤、安価)である。「新型コロナウイルスの人間の細胞内への侵入を妨害し、増殖を抑制する効果がある」との報告が発展途上国で相次いでいるものの、厚生労働省は、「日本と同じような薬事審査の水準を持つ国での承認がない限り、特例承認の対象にはならない」との見解を墨守している。大村氏から直接依頼を受けた医薬品メーカーの興和は、新型コロナウイルス感染症の軽症者1000人を対象にイベルメクチンに関する臨床試験を近く開始する予定だが、実用化の時期は明らかになっていない。

 しかし、医師が「適応外使用」という形で患者に処方することは現状でも可能だ。適用外使用とは、すでに国が承認している薬を別の効能のために使用することだが、副作用が起きた場合、国の救済制度の対象にならないという難点がある。

 前述の長尾医師も「イベルメクチンは非常に効果がある」としており、東京都医師会の尾﨑治夫会長は13日、「医療体制が逼迫した状況下ではイベルメクチンの使用許可を認めていただく段階に来ている」と訴えた。政府は副作用に対する補償を引き受け、災害の現場で活躍する医師が後顧の憂いなくイベルメクチンを処方できるようにすべきであろう。

 コロナ対策の医療対策に充当される「緊急包括支援交付金」は約1兆5000億円が計上されているにもかかわらず、かなりの部分が未消化となっている。これらの資金を活用すれば、災害時でも十分機能するコロナ対策が早期に実現できるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月22日掲載

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