韓国大統領選挙に早くも大国が介入 中国は「貿易」で、米国は「通貨」で恫喝

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ワクチン不足で支持率が急落

「韓国は世界で最高の防疫体制を持つ」との文在寅政権の宣伝を信じ「K防疫」と自己陶酔していた韓国人も、ワクチン不足が表面化すると、さすがにおかしいと気付きました。メディアは政府に対し怒りをぶつけています。

 中央日報は「韓国、ワクチン接種完了率でOECD最下位…コロンビアにもリードされた」(8月9日、日本語版)で、韓国の接種率がOECDで最下位であるうえ、世界の平均に達しない唯一のOECD加盟国でもある、と嘆きました。

 朝鮮日報は「モデルナがパンク…「問題無し」と言っていた韓国は空手、日本はファイザーに直行して代替」(8月14日、韓国語版)で、日韓の接種率の差は両国政府のワクチン獲得能力の差である、と断じました。

 読者の書き込み欄も「無能な文在寅政権」への非難一色です。中には「日本と異なり、米国との外交的な立地条件が異なる。文在寅の自業自得だ」といった、韓国の反米路線がワクチン不足の原因だと指摘したコメントもありました。

 韓国ギャラップの8月第2週の世論調査(調査期間は8月10―12日)によると、文在寅大統領の職務遂行への肯定的な評価は前週の41%から36%へと一気に5%ポイントも急落しました。否定的な評価は51%から53%に上昇しています。もちろん、ワクチン不足が原因です。

新たな悪材料「メモリー不況」

――しかし、大統領選挙までには韓国でも希望者全員にワクチンを打ち終わるでしょう。

鈴置:その時は「通貨」で攻める手があります。「『金融危機がやって来る』と叫ぶ韓国銀行 年内利上げを予告、バブル退治も時すでに遅い?」で詳しく説明しましたが、韓国は通貨危機に陥る可能性が高まっている。

 その際、米国は見殺しにすることによって「反米政権は許さない」とのメッセージを韓国人に送ることができるのです。金泳三(キム・ヨンサム)政権末期、1997年の通貨危機が最たるものですが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権に対しても国の格付けを下げて脅したことがあります(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。

 韓国は新型コロナで景気が失速するのを防ぐために2020年春以降、金融を猛烈に緩めた。その結果、株価が日米以上に急騰。もともと投機の対象になっていた不動産はさらに値上がりしました。バブル状態です。

 しかし、新型コロナの流行が下火になるとともに、世界的な金融緩和の時代が終わるとの見方が次第に広がりました。韓国バブルを目指し流れ込んでいたおカネが一気に米国に逆流しかねない。これを恐れた韓国銀行が今年初めから国民に「株を買うな。大けがするぞ」と呼びかけていたのです。

 ここに新たな悪材料が加わりました。8月中旬以降、メモリー不況に突入するとの見方から、韓国株・ウォン売りが始まったのです。予想外の出来事でした。

10カ月ぶりのウォン安

「韓国売り」の引き金となったのは米投資銀行、モルガン・スタンレーが発表したレポート「Memory-Winter is coming」(メモリーの冬がやって来る)」でした。

 なぜ、メモリーの値崩れが予想されるのか――。理由は大きく分けて2つです。まず、新型コロナによる巣ごもり需要が一段落し、パソコン向けメモリーの在庫が積み上がってきたこと。さらに、ロジックの供給不足により完成品の生産は未だ低迷しており、それに組み込むメモリーの需要も頭打ちとなっているからです。

 世界中でメモリーを製造する企業の株が売られました。ことに大きな影響を受けたのは韓国でした。この分野で世界1位の生産量を誇るのはサムスン電子、2位はSKハイニックスです。

 8月12,13日の2日間で外国人投資家は前者を4兆ウォン、後者は1兆ウォン売り越しました。その結果、2日間でそれぞれの株価は5・23%、3・79%下がりました。

 この2社は韓国証券市場で時価総額1位と2位の超大型株です。KOSPI(韓国総合株価指数)も12日は前日比0・38%、13日は1・16%も下げました。

 それにつれてウォンも売られ、8月13日は1ドル=1169・0ウォンと10カ月ぶりの安値を付けました。昨年末の1086・3ウォンと比べ7・6%、週初の8月9日と比べても2・4%安です。

反米政権が呼ぶ第2のIMF危機

――このまま「韓国売り」が本格化するのですか?

鈴置:それは分かりません。金融監督院の発表によると7月、外国人は上場株式を3兆7780億ウォン売り越しましたが、上場債券は9兆2280億ウォン買い越しています。まだ、「韓国を見限った」とは言い切れないのです。

 ただ、韓国金融市場のリスク要因がさらに増えた、との認識が韓国人投資家の間にも深まったのは事実です。朝鮮日報は「『3本の矢』が突き刺さる韓国…ウォン・ドル相場、10カ月ぶりの安値」(8月13日、韓国語版)で、テ―パリングとワクチンの接種不足に加え、メモリー不況がリスク要因に浮上したと断じました。

 この記事には読者が「文在寅や李在明のようなポピュリズム売国奴のために第二のIMF危機が来るだろう」と書きこみ、多くの賛同を得ています。李在明氏も文在寅氏と同様、反日反米路線で人気を得てきました。米国はそんな左派政権の韓国を許さないだろう、との悲鳴です。 「メモリー不況説」が米国のお仕置きのムチをより強力にすることは間違いありません。

核武装の準備を完成

――韓国は反米政権を続けるのか、それとも親米政権に戻るのでしょうか?

鈴置:韓国人にとって悪魔の選択でしょう。反米を続ければ米国に叩かれる。親米に戻れば中国に叩かれる。どちらを選んでも不幸な未来が待っているのです。これまでは双方にいい顔をする二股外交で誤魔化してきましたが、米中対立が激しくなった今、そうはいきません。

 朝鮮半島を舞台に海洋勢力と大陸勢力が覇権を争った19世紀末から20世紀初めが再現したのです。当時、李氏朝鮮は清、ロシア、米国、日本と庇護してくれる国を探してさまよったあげく、どの国からも信頼を失い、最後は滅びました。

 韓国人は核武装中立を選ぶかもしれません。「昔は力がなかったから大国にいじめられた。だが、21世紀の韓国は核兵器を運用する経済力を付けた。核さえ持てば中立が可能だ」と心の底で考えている韓国人が案外と多いのです。

 8月13日、韓国海軍は初めてSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を撃つための垂直発射管を備えた潜水艦を就役させました。この「島山安昌浩」(オサン・アンチャンホ)は3000トン級と大きくはありませんが、6基のSLBMを撃てると韓国紙は伝えています。

 核保有国にとって、敵の先制攻撃に耐え核弾頭を載せた弾道ミサイルを撃ち返せる潜水艦は必須の兵器です。核弾頭は韓国の技術水準から6カ月もあれば開発できると見られています。ついに韓国は「いつでも核保有国になれるぞ」とのメッセージを世界に発したのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月16日掲載

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