中国駐大阪総領事が所在不明のまま異例の交代 原因は利権がらみの金銭スキャンダルか

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金銭面の動き

 中国外交部のジャパンデスク(日本語組)にとっては、日本に対し遺棄化学兵器処理事業費を交渉、請求するなどの利権部門です。権力闘争に巻き込まれたとの見方もありましたが、直接的にはこうした利権がらみの問題が発覚したともいわれています」

 他国領域に遺棄された化学兵器(毒ガス)の処理に関する国際問題では、化学兵器禁止条約成立により、遺棄国側に処理が義務付けられている。旧満州(現中国東北部)に存在する旧日本軍の化学兵器なども対象となっている。

 しかし、中国に残るとされる遺棄化学兵器の実態は、日本軍によって遺棄されたのではなく、終戦時の武装解除でいったん中国軍やソ連軍に引き渡され、その後に中国側の手で遺棄されたものではないかとの指摘もある。

 日本側負担の処理事業費として、1999年度から2007年度までで500億円以上が投じられたとされるが、「その支出内容は不透明」との批判もあり、「日中間の闇のひとつ」とされている。「何氏は中国側の、あるいは日中双方の一部にとって、不都合な金銭面の動きに絡んでいたのではないか」というのだ。

経緯は語らず

 一方、何氏の後任として中国共産党結党100周年式典(7月1日)直前の6月27日に着任した薛剣[せつ・けん]駐大阪中国総領事(大使級)は、1968年7月、江蘇省淮安市漣水県生まれ。北京外国語学院日本学部で学び、外交部(外務省)へ。駐日大使館公使参事官や外交部アジア局参事官など歴任し、2019年からアジア局副局長を務めた。

 大阪総領事館に着任後は、関係者に挨拶状を出すなどしていたが、7月中旬以降は大阪華僑総会や大阪府議会に出向いて着任挨拶も行い、一層の協力関係構築や交流促進の姿勢を示すなどしている。もっとも、前任総領事がわずか10カ月で姿を消し、その後、長期間、代理総領事が置かれた経緯や詳細については、つまびらかにしていないという。

 同時期、駐米中国大使も穏健派とされる崔天凱[さい・てんがい]氏(68)から、前外務次官で対外姿勢が強硬とされる若手の秦剛[しん・ごう]氏(55)に交代し、国際的にも注目されたが、在外公館トップの人事は日本人のみならず華僑社会の一大関心事でもある。前任者の異例の離任劇の経緯について何らかの説明は必要だろう。しかし、筆者の取材申し込みに対し、現時点で総領事館からは返答がない。

吉村剛史(よしむら・たけし)
1965年、兵庫県明石市出身。日本大学法学部卒。在学中の88~89年に北京大学に留学。90年、産経新聞社入社。東京・大阪の両本社社会部や僚紙『夕刊フジ』関西総局で司法、行政、皇室報道等を担当。台湾大学社費留学、外信部を経て台北支局長、岡山支局長、広島総局長、編集委員などを歴任。2017年、日本大学大学院総合社会情報研究科前期博士課程修了(修士・国際情報)。19年末退職。以後フリーに。日本記者クラブ会員、東海大学海洋学部講師。主なテーマは在日外国人や中国、台湾、ベトナムなどアジア情勢。著書に『アジア血風録』(MdN新書)等。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月10日掲載

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