新たな犯罪集団――ヤクザのルールを守らない外国人マフィアの実態とは

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「金だけ持って逃げやがった」

――日本の暴力団は外国人マフィアをどのように見ているのでしょうか。「繋がっている」とも「敵対している」とも言われます。

 新宿を拠点にしているある暴力団員は、私の取材に「ネパールの奴らには本当に困っている。あいつら、日本のヤクザのルールなんてお構いなしだからな」と吐露していました。

 結論を言えば、ある部分では繋がり、ある部分では敵対し、またある部分では日本のヤクザがコケにされているのです。

 20年3月、ある料亭で暴力団員に話を聞いていた時のことです。急にふすまが開き、カジュアルな格好をしたフィリピン人2人が「ハーイ」と言いながら入ってきました。暴力団員は私に言いました。「彼らがフィリピン人グループをまとめている。うちの組が面倒を見ている」と。

 するとフィリピン人の1人がすかさず「俺たちは、下じゃない」と噛みつくように言ったのです。暴力団員は黙り込み、部屋には重い空気が流れました。しばらくして口を開いたのは暴力団員の方で、彼はフィリピン人2人に「ところで、仕事はどうなってる?」と尋ねました。気まずかったのでしょう。するとフィリピン人の1人は答えました。「ちゃんとやってるけど、地元のヤクザがうるさい。でも、うちらフィリピン人は人数いるから大丈夫。うまくやるよ」と。

 どうやらこの暴力団員の組は、西日本に拠点を構える暴力団の縄張り(シマ)に進出するにあたって、フィリピン人マフィアを“鉄砲玉”として使おうと画策していたようなのです。今や日本の暴力団は暴力団対策法や暴力団排除条例によってほとんど身動きできなくなっていますから。

 ところが今年に入って、その暴力団員は泡を食いました。「あいつら、金だけ持って逃げやがった」というのです。フィリピン人マフィアは、日本の暴力団抗争を利用し、金だけ取って逃げたというわけです。

外国人を「クズ」呼ばわり

――暴力団ですら手を焼いているわけですね。これからの裏社会は暴力団ではなく外国人マフィアに牛耳られるでしょうか。

 その可能性は高いだろうと思いますが、私は、外国人マフィアの「本音」にも耳を傾けたいと思っています。ネパール人マフィアの中心的人物が言ったように、彼らには「日本人には迷惑をかけない」というルールがあります。実際、彼らは暴行事件を何度も起こしていますが、被害者はだいたいネパール人だけです。

 家畜窃盗事件で捕まったベトナム人の不良グループのほとんどは、日本の技能実習制度で来日していました。その1人は私の取材にこう答えています。「ベトナム人、みんなお金に困っている。真面目に長い時間働いても、給料は少ない。ベトナムの家族に送金したら、食事するお金も残らない」と。技能実習制度は発展途上国の人々に日本の技術を学んでもらう制度ですが、現実には、お金を稼ぐために「実習」をしているベトナム人が多く、そこには、外国人に「実習」という名の「労働」をさせることで人出不足を補いたい日本の産業界の隠れた本音もあるのです。

 外国人を建設現場などに送り込む人材派遣会社の幹部は、「最初はクズみたいな人間を送り込んでピンハネすることに抵抗はありましたけど、すぐに慣れました」と、外国人を「クズ」呼ばわりしていました。

 繰り返しますが、犯罪はどんな理由があろうと悪です。人を傷つけることは許されない。でも、なぜ彼らが悪の道に迷い込み、マフィア化するのか、その根本理由を直視しなければ、外国人犯罪は増えるいっぽうだろうと私は思うのです。

 危険な目に遭いながらも私が取材を続けようと腹をくくったのは、外国人マフィアが置かれた実情をしっかり取材し、それを記録として世に出したいと、そう強く思ったからです。

デイリー新潮取材班

2021年8月10日掲載

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