レスリング銀で号泣「文田健一郎」は無類の猫好き パリ五輪で“反り投げ”を極める

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パリ五輪では「反り投げ」を極める

 フリースタイルと違い、相手の下半身を攻撃できないグレコローマンスタイルではタックルもない。上半身をがっちり組み合っての豪快な力技が見られる反面、動きが止まると、ただの押し合いや、勝負のつかない腕相撲のようになってしまう。

 外国人選手より機敏に動き回って勝機を見出す日本人選手にとってグレコは腕力勝負のような部分もあり、腕力が弱いハンディもある。そんなグレコローマンについて文田は日頃、「日本でレスリングと言えばフリー、そして女子だが、豪快な投げでグレコの魅力をアピールしたい」と訴えていた。

 父親の敏郎さん(59)は文田の母校、山梨県の韮崎工業高校でレスリング部の監督を務める。ロンドン五輪でオリンピックの男子レスリング界に16年ぶりに金メダルをもたらした米満達弘(フリースタイル)を育てた。小学校4年の時、一年上の女の子の相手としてレスリングを始めた文田に敏郎さんは小学校6年の頃に投げ技を叩き込んだ。文田は中学生の頃、父にアテネ五輪(2004年)のビデオを見せられ、グレコの投げ技の魅力に取りつかれたという。「僕のレスリングは反り投げとともにある」という文田。しかし、それだけに「研究もされやすい技」とも自覚している。父敏郎さんは「投げてなんぼ」が口癖だという。

 文田は2017年の世界選手権で日本勢として34年ぶりにグレコローマンに金メダルをもたらした。19年にも世界選手権で優勝するが、この間、海外勢に徹底的にマークされ、簡単には「反り投げ」にも入れなくなる。一方、新型コロナで海外試合も激減し、情報も不足する。相手は映像も多く存在する文田のようなトップ選手を容易に研究できるが、日本側は今回のような相手を研究しにくい不利な状況もあった。文田は五輪の代表内定後も、昨年12月の全日本選手権(天皇杯)に代表で唯一出場するなど、積極的に試合に出ようとした。ワクチン接種後の体調不良で出場を断念したものの、昨年2月以来の国際試合となる今年6月のポーランドでの大会にも出ようとしていた。

癒やしは猫

 そんな文田は誰もが知る「猫好き」。日本体育大学時代から「猫カフェ」にはまり、東京都武蔵野市の猫カフェ「きゃりこ武蔵野店」や系列の新宿店(現在は閉店)などに通ってリフレッシュしていた。また「猫島」といわれる福岡県の相島や藍島を旅行したりもしていた。最近はまったく癒やしの時間はなかった。五輪前のリモート記者会見で筆者は「猫は飼っているのですか?」と訊いたが飼ってはいないそうだ。

 オリンピックの雪辱はオリンピックでしか晴らせない。東京五輪での金メダル獲得はならなかった「猫レスラー」は猫カフェで店主やニャンコたちに銀メダルを称えてもらい、少しリフレッシュした後は、早くも3年後のパリを目指す。文田健一郎は「自分はこれからも投げをやめるつもりはない。3年後に父が教えてくれたレスリングは世界一だと証明したい」と話しているという。「花の都パリ」では二年前の世界選手権のような歓喜の涙を見たい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月7日掲載

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