ひろゆき氏を論破した言語学者 在仏50年超の“F爺”小島剛一氏が語る日本人差別

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フランスかぶれ

小島:私は「聞いたことが無いからフランス人は使わない」などと発言したことはありません。完全な捏造ですし、「若者言葉」だという主張は間違いでもあり、典型的な論点ずらしです。「putain」は、本来は名詞ですが、感歎詞としての用法がありますから、それを「強調」と呼ぶことはできます。しかし、昔からあらゆる年齢の人が使いますから、決して若者言葉ではありません。ひろゆき氏は、私がブログで、

「F爺がフランス語の「若者言葉を知らない」ということはあり得ますが・・・仮にそれが事実だったとして、」

と書いたのを歪曲引用しています。「仮にそれが事実だったとして」を意図的に隠蔽して、「若者言葉を知らないとF爺自身が認めている」と主張しています。

 言葉は使い方で含蓄が異なります。「女」という言葉に差別的なニュアンスはありません。ある人は親しみを込めて「あの女はね」と言うかもしれません。しかし、女性差別主義者が「お前は女のくせに」と口にすれば、紛れもなく差別発言です。

 あの動画における「putain」は明白に日本語を罵倒する差別発言です。フランス人も私も、それをはっきりと感じ取りました。フランス語の知識が乏しいひろゆき氏は、「差別ではない」と主張したい一心で、わざと曲げて解釈したのです。

 にもかかわらず、ひろゆき氏は、私のしていない発言を組織的に捏造して反論もどきをしてきました。ブログのコメント欄などで匿名の人物に常軌を逸した攻撃を受けたことはありますが、素性を隠していない人物にここまで悪質なことをされたのは初めてです。教養が完全に欠如した、嘘を平気でつく人間と言わざるを得ません。

 色んな「フランスかぶれ」と接してきましたが、ここまでひどいのも見たことがありません。ひょっとすると、ひろゆき氏は愛するフランスのため、何がなんでも2選手を擁護する必要を感じたのかもしれません。

虚を突かれた日本人

小島:しかし肝心のフランス語の知識がないのですから、守れるはずがないのです。氏はこれまで「フランス在住で、フランスについて精通している」というイメージがあったそうです。今回の動画問題が発生し、何か気の利いたことを言わなければと考えたのでしょう。しかし、文字通り馬脚を現して終わりました。ネットなどで私のことを「ひろゆきを論破した」と紹介してくださっていますが、私は氏のことを論破したつもりはありません。理不尽な侮辱に対する自衛のために単に間違いを指摘し訂正しただけで、論争にもなっていないと思います。

 大多数の日本人には、差別された経験がありません。被差別部落の問題や在日朝鮮人、アイヌ人に対する差別問題は存在するとはいえ、欧米のように日常的に様々な人種差別が行われている社会とは異なります。

 今回の動画で、日本人は虚を突かれたのではないでしょうか。特にデンベレといったアフリカ系黒人が本気で、心の底から極東人を醜いと思っているとは信じられなかったのだと思います。

 自分にとって異文化であるものを醜いと感じることは、実はよくあることです。ところが日本人は、そうした知識や経験に乏しかった。「日本人は立派であり、まさか人種差別の対象にはならないだろう」と思い込んでいる人も多かったのではないでしょうか。動画の報道に戸惑っていたところ、「あれは人種差別ではないんですよ」と言われて安心した。そんな人は相当数にのぼったのではないかと考えています。

玉石混淆

小島:「あれは差別であり、これは差別ではない」と自動的に判断できるような物差しは存在しません。私はアメリカの先住民を「インディアン」と呼ぶことは差別だと考えます。しかしポリティカル・コレクトネスや、差別用語の使用を禁止する“言葉狩り”には断固として反対します。

 自分の経験や教養といった「智」を通じ、「何が差別で、何が差別でないか」を考えに考え抜くしか方法はありません。表層で騙されて「これは差別じゃないよ」と間違えてしまうか、真相をしっかり把握して「これは差別だ」と看破するか、その重要性を今回の騒動は教えてくれたと思います。

 ネットの世界では匿名の陰に隠れ、コメント欄などに悪質な書き込みをする輩の存在は、もちろん知っていました。とはいえ、今回の件で私のブログに押し寄せた「馬鹿者」や「無礼者」の数に改めて驚かされました。私にとってもネットは、なくなると生活ができなくなるほど大切なものです。研究や学習、娯楽にも役立つことは言うまでもありません。ネットの世界は“玉石混淆”なのだなと再認識しました。そしてできるだけ、ネット界の“玉”に触れていきたいと思います。

デイリー新潮取材班

2021年8月6日掲載

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