メダルを狙う女子レスラー 川井友香子、土性沙羅、皆川博恵が語る“五輪への決意”

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1年の延期はパワーアップのチャンス

【女子68キロ級(8月2、3日) 土性沙羅(26)=東新住建】

 57キロ級の川井梨紗子と同様、オリンピック2連覇を目指す。初出場だったリオデジャネイロ五輪での69キロ級決勝で見せた「根性の大逆転劇」は国民の目に焼き付いている。あれから5年、様々な辛苦を乗り越えてのオリンピック再登場でもある。

 三重県松阪市出身。吉田沙保里の父栄勝さん(故人)の指導を受け、松阪市立鎌田中学では全国中学大会で優勝。至学館高校、至学館大学レスリング部では吉田や伊調馨ら偉大な先輩たちの背中を見てきた。世界選手権は2013年に67キロ級で3位、その後2015年まで2位、3位と「もう一歩」だったが、2016年には春のアジア選手権で優勝し、リオデジャネイロ五輪に選ばれる。決勝でナタリア・ボロベワ(ロシア)に先行された。しかし第2ピリオド2分、バックを取って同点に追いついた瞬間に試合終了となるが、一回での点数が多い「ビッグポイント」を取っていた土性の逆転優勝となった。「初めてのオリンピックでしたが緊張感もなく、勢いがありました」と振り返る。

 しかし、リオ五輪の後は怪我に悩まされ続けた。2018年3月のワールドカップ(団体戦)で左肩を脱臼し手術し、その影響で思い切って得意の正面タックルに行けなくなった。2019年9月の世界選手権(カザフスタン)では3回戦で強豪の米国選手タミラ・メンサストックに敗退、彼女が優勝したため3位決定戦に残った。しかしそこでも敗れ、自身の五輪切符を取れず、国別枠を取るのがやっとの5位に終わる。

 さらにその年12月の全日本選手権の直前には膝を痛めた。出場はしたものの新鋭の森川美和(日体大)に準決勝で敗北する。土性の同選手権での連覇は前年までの8で途絶えた。このために、東京五輪代表の内定は2021年3月に東京のNTC(ナショナルトレーニングセンター)で行われたプレーオフに持ち越された。ここで森川に雪辱し、ようやく二度目の五輪切符を手にしたのだ。コロナ対策で試合会場に入れず外で待っていた筆者は、友人と抱き合って喜ぶ土性の歓喜と安堵の姿を目の当たりにした。

「なんとか肩も肘も治ってオリンピックには間に合うと思っていました」。ところが五輪は延期されてしまう。

「海外選手のビデオなどを研究しましたが、一年もモチベーションが持つのかなと思いました。でもしっかり怪我を直した上でパワーアップもできるチャンスと捉えることにしました」。こうした切り替えができたのも、慕う先輩のおかげだった。精神的な支えとなったのは土性が「絵莉さん」と呼ぶリオの金メダリスト登坂絵莉。至学館大学では一年先輩になる。登坂はリオ五輪の50キロ級決勝では終了間際の逆転でアゼルバイジャンの選手を破って金メダル。二人は「大逆転金メダルコンビ」でもある。

 登坂自身も東京五輪を目指したが、新鋭の須崎優衣(早稲田大学)や入江ゆき(自衛隊)に敗れ、連続出場は果たせず、涙に暮れていた。「2019年の世界選手権で負けた時も、帰国するとすぐに迎えに来て励ましてくれました」。モチベーションを失いかけた時も「五輪の延期はみんな同じだし、怪我もあったし、延期をプラスに考えてほしい」と言ってくれた。土性は「絵莉先輩の分も頑張りたい」と決意を語る。

「世界選手権と全日本選手権の敗北は自分の弱さを実感させてくれました」という土性は笹山秀雄コーチとの練習で、これまでのような正面タックル中心ではなく、攻撃の幅を広げている。「カウンター狙いとか、がぶりとか、横からのタックルとかですね」。

「前回(リオデジャネイロ)は、スッと内定を得ることができていた。今回はそうはいかず、本当に大変なのだな、と思わされた。でも、負けたことで、次に勝つにはどうすればいいのかを考えることができた。すごく成長できたと思う」と振り返る。そんな土性はなぜかプロ野球は中日ファンではなく、阪神タイガースのファンだという。「内野手北條(史也)選手が好きですね。同い年で頑張っているし」。

「肩やひざの痛みもなくなり、問題ありません」と安心させてくれた土性は「東京オリンピックは本当に特別な舞台。東京オリンピックのマットに立てることを感謝しながら、今までやってきたことをすべて出し切れるようにやっていきたい」と語った。このリモート会見に参加していた頃、テニスの大坂なおみ選手が全仏オープンを途中棄権し、「負けた選手の気持ちも考えない記者たち」にも矛先を向けたことが話題になっていた。聞いてみた。「負けた時に僕らに囲まれるのは嫌じゃないですか?」と。土性は「嫌な時もありますが、勝っても負けてもインタビューに応じるのは私たちの役目だと思います」と話してくれた。

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