スニーカーの「デジタルデータ」が140万円で落札 出品した日本の企業が語る“狙い”と“意義”

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 今年4月、北米の通販サイトのオークションに出品された“スニーカー”が、日本円にして約140万円で落札された。昨今、投機的な需要も生まれつつあるスニーカー人気を考えれば、これ自体は珍しい現象ではないかもしれない。が、今回落札されたのは、実際に履くことはできない“スニーカーのデジタルデータ”なのだ。

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 件のスニーカーの名は「エアスモーク1」。日本時間の4月22日の20時に出品され、オークション開始からわずか9分で落札された。YouTubeにアップされているイメージ映像では、次から次へとアッパーの色が移り変わり、同時にソール(靴底)から煙を出す様子が紹介されている。ユニークといえばユニークだが、このデータが140万円もするとは……。

「『デジタルファッション』と呼ばれるムーブメントのひとつですね。一昨年には、やはり『デジタルドレス』が日本円にしておよそ100万円で落札されました。データなので実際に着たり履くことはできないわけですが、スニーカーにしてもドレスにしても、購入者が自分の写真を販売メーカーに送れば、それに合成して“着させて”くれるサービスを行っています」(ファッション誌記者)

 SNSに自分の写真をアップすることが当たり前になりつつある時代、よりオシャレに着飾る手段として、一定の需要はあるというわけだ。とはいっても、ただのデータに大金を投じる感覚は、理解しにくい。

「イメージとしては、オンラインゲーム上で操作するアバターに、有料の服や靴を買うのに近い感覚でしょうか。世代によってはまったく理解できないかもしれません。ただ、今回140万円もの値がついたのは、純粋なファッション目的というよりは、投機的な価値によるものです。スニーカーにしてもドレスにしても、データはNFTを用い、きちんと『所有者』が保証されるのです」

 コピーが可能なデジタルデータは、簡単に複製され、いわゆる“初出”がどこか曖昧なまま、ネット空間にどんどん広まってしまう恐れがある。それを防ぐのが「NFT(Non-Fungible Token)」という認証技術だ。用いられるのは仮想通貨でもおなじみのブロックチェーン技術。「エアスモーク1」も、デジタルドレスも、これにより“お墨付き”が与えられているのだ。ホンモノであるとの鑑定書がついたスニーカーをイメージするとわかりやすいかもしれない。

 アート業界では、すでにNFTによってその価値が保証された作品がつぎつぎ登場している。今年4月には、VRアーティスト・せきぐちあいみの作品が約1300万円で落札されたことがニュースになった。こうした背景を知れば、デジタルファッションに高値がついたことも納得できるはずだ。

デジタルファッションの意義

 じつは今回、エアスモーク1を売り出したのは、日本の企業。日本では初となるデジタルファッション参入を果たした1SEC(ワンセック)の宮地洋州社長は「正直、売れるかどうかは半信半疑でした」と語る。

「デジタルファッションの欧米での熱の高まりは知っていて、2019年頃から事業の準備はしていました。その矢先にコロナ禍が起き、追い風になりました。というのも、巣ごもりを余儀なくされた生活を強いられたことで、世界的に『ヴァーチャル』なものへの理解が進んだからです。たとえば友人の子供も夢中になっているオンラインゲーム『フォートナイト』では、昨年、グラミーアーティストのトラヴィス・スコットがライブを行い、1200万人を熱狂させました。リアルとヴァーチャルの境目がどんどん曖昧になっている。だから『エアスモーク1』も全く可能性を感じなかったわけではありません。もっとも、出品2日前にSNSに告知を発信したら、『そんなもの売れるわけない』と散々でしたけれどね……」

 エアスモーク1の誕生にあたっては、およそ半年をかけて、デザイナーを交え案を出し合ったという。データである以上、現実には不可能なユニークなスニーカーにしたい。“炎を出す”などいくつかのアイデアから“煙”をえらび、また北米で好まれるレインボーカラーからも着想を得た。いざデザインが決まってしまえば、エンジニアが、すぐにデータを作り上げたという。

 落札したのは米国のアートコレクターだという。現在までに履きたい(写真を合成してほしい)との要望はないというから、やはり投機目的の購入なのだろう。宮地社長はそれを承知しつつ、デジタルファッションにはこんな意義もあると語る。

「ひとつには、現在のアパレル産業が抱えている大量廃棄の問題の解決につながるのでは、と思っています。ブランド価値を高めるために売れ残った服を焼却処分するわけですが、それには大きな環境負担がかかる。その点、デジタルで完結する“服”にはそうした問題はありません。もちろん、裸で生活するわけにはいきませんから、リアルな服は今後も作られるでしょう。でも、お洒落をする手段のひとつにデジタルが用意されているのは、大きな可能性を秘めていると思います。CDではなく音楽データを購入することが一般的な現在、デジタルネイティブの若い世代の話を聞くと、データでも“物欲”はきちんと満たせるみたいです。ファッションでいえば『リアルと違って汚れないし、ずっと新品でいいね』と好意的ですらありました」

 さらに「クリエイター・エコノミー」の観点でも、NFTならではのメリットを挙げる。

「今後、エアスモーク1が転売されると、私の会社にインセンティブの一部が自動的に入ってくるんです。スマートコントラクトというシステムで、作り手もきちんと潤う仕組みです。これは先行するNFTアートでも同じなのですが、クリエイター支援につながるものだと考えています。まだ詳しくはお話できないのですが、今年の秋には、複数のアーティストや企業と組み、デジタルファッションの新作をリリースする予定です。ゆくゆくはファッションだけでなく、バーチャルランド(バーチャルワールド)を作りたい。そこでショッピングだけではなく、ライブなども楽しめる空間を提供できればと考えています」

デイリー新潮取材班

2021年7月30日掲載