「ナチュラルローソン」20周年 健康コンビニの先駆け、仕掛け人が語る“苦労”と“革新”

ビジネス 企業・業界

  • ブックマーク

Advertisement

成功と失敗

 計画当初はローソンを店名に出さない案もあったが、怪しげな健康食品店と思われる恐れもあり「ナチュラルローソン」に決まった。おなじみのバーガンディーレッドのイメージカラーも設立当時から。「“自然”と聞いて思い浮かぶ人が多い緑色も候補だったのでした。バーガンディにした結果、無印良品と似ている、と色んな人からいわれました」と小坂氏は苦笑するが、このひとひねりが現在までつづくブランドのアピールに一役買っていると私は思う。店舗デザインなどを含めてブランディングを担当した乃村工藝社の慧眼が光る。現在、一部の商品では“分かりにくいPBパッケージ”で炎上を招いたnendoデザインのナチュラルローソンの新ロゴが使われてしまっているが……。

 こうして準備を進めたナチュラルローソンの第一号店が「自由ケ丘2丁目」店だったのは先述のとおり。2001年7月10日の開業予定だったが、仏滅を理由に一日ずらし、「まったく意図せず」(小坂氏)に“セブンイレブンの日”にオープンすることになった。

 第一号店の店内は、現在のナチュラルローソンとはまた異なる光景だった。たとえば、今、スーパーマーケットのOKストアが売り場に掲げる「オネスト(正直)カード」に似た商品説明を商品棚に掲示。“この野菜には中に虫がいるかもしれません”“カップ麺の食べ過ぎには注意。わかめと一緒にたべて撮り過ぎた塩分を排出しましょう”といったコメントを見せ、顧客とコミュニケーションをはかった。

 第一号店にはジュースバーもあった。野菜や果物をその場でミキサーにかけ提供するというスタイルで、まさにいまセブン-イレブンが取り組んでいる「スムージー」に近いものだ。そしてジュースを店内で飲んでもらうためにイートインカウンターを設置、それも当時は本や雑誌を置くことが当たり前だった窓ガラスの通り面に作った。いまのイートインスペースの先駆けである(“ヒノキの香りを出す装置”も置いたそうだが、これは一号店で止めたそう)。

 もっとも、すべてが思惑どおりにはいかなかった。商品の多くは1店舗のために仕入れるため、在庫コントロールに苦慮。客単価にしても、当時の平均「スーパー4000円」と「コンビニ600円」の真ん中あたりをナチュラルローソンは狙っていたが、これも大きく予想は外れた。

「お客様の男女比率が『4対6』という予想はあたりました。が、それ以外はすべてアテが外れましたね。嬉しい誤算もありましたよ。ボトルの『ふりかけごま』が1日10本も売れたり、ジュースバーも1日200杯売れて、機械が壊れてしまったりしました。1号店は主婦層の多いエリアを狙ったのですが、2号店は働く人たちをターゲットにした西新橋の店舗でした。この西新橋の店ではカップサラダ、そして総菜が売れましたね。普通のローソンとは同一商品ではありませんが、『ひじきの煮物』はおよそ2000あった関東のローソンの全店舗の合計より、西新橋のナチュラルローソンが1店の売りあげが勝ちましたから」

 3店舗目は世田谷区・九品仏の店舗。第一号店はこの店舗に近く、店内面積が小さく品揃えに限界があったことから、開店から2年半ほどで閉めることになった。なお九品仏の店舗は現存する。

現在は「美」路線も

 いま、普通のローソンでも「ナチュラルローソン」印のPB商品は取り扱いがあるため、ブランドの認知度は高い。だが店舗そのものは140店とそれほど多くはなく、しかも東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県内に留まる。

 05年には関西に進出したこともある。03年からローソンの社長に就任した新浪剛史氏の方針だった。生鮮野菜など普通のローソンが扱わない商品を置くナチュラルローソンの場合、新規エリアに出店するとなると、改めて流通経路や仕入れ先を開拓しなければならない。ゆえに「ナチュラルローソンをまたゼロから立ち上げるようなものだった」と小坂氏は苦労を振り返る。だが、関西には30店舗ほどを展開しただけで、07年には完全撤退してしまう。良くも悪くも客側の“意識の高さ”が求められるナチュラルローソンの場合、出店地域によってはまったく受け入れられないであろうことは想像がつく。

 そもそも小坂氏は「設立当初のナチュラルローソンは、ビジネスとしては厳しいものでしたね」という。

「幅広いお客様に向けたコンビニではなく、コンセプトとして掲げる“安心安全健康”に共感していただくお客様に来て頂ければそれでいい、とある種割り切ってしまっていたところがありました。でもそれはお客様を限定してしまっていることでもある。ですから徐々に方針も変わっていきましたね」

 小坂氏は異動により、08年秋にナチュラルローソン事業からは離れることになる。小坂氏のいうとおり、その後ナチュラルローソンの方向性は“修正”され、現在の形は「女性」を意識した、美と健康の路線にシフトしている。

 数年ほど前に低糖質ダイエットのブームを追い風にヒットした「ブランパン」も、ナチュラルローソン印のPB商品だった。その一方、ライバルコンビニが、健康を意識した別ブランドを立ち上げるも軌道に乗らずに撤退した例もある。ナチュラルローソンの成功は、他社に先駆け「健康コンビニ」ブランドを確立できていたためだろう。そしてその背景には、小坂氏ら設立メンバーの並々ならぬ想いと情熱があったわけである。

 ちなみに社内コンペは事業化して収益が出れば、特別ボーナスが発案者に贈られるとの話だった。“ご褒美”はもらえたのか小坂氏に尋ねると、

「貰えるわけないじゃないですか……」

 との答えだった。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、デイリースポーツ紙にて「最新流通論」を連載中。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月29日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。