侍ジャパン・稲葉監督「韓国にリベンジを果たす」 カギを握るのは控え選手?

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「最多8試合」

〈こうして侍ジャパンは、コロナ禍のなかでも試行錯誤しながら着々とチーム作りを進めてきた。そしていよいよ、7月28日の初戦で本番を迎える。

 今大会は6カ国が参加し、1次リーグに加え、「敗者復活」ありの決勝トーナメントと、金メダルまで最多8試合をこなす過酷なスケジュールとなる。稲葉監督はどう戦い抜くのか。〉

 私は就任以来ずっと「スピード&パワー」を唱えてきましたが、それは今度の五輪でも変わりません。また短期決戦ですから、とにかく大きく崩れないことが大事で、まず守備を固めてから攻撃へというスタイルで戦っていくことになると思います。

 プレミア12を戦ってみて実感したのは、国際大会では早めの継投が求められるということでした。とりわけ今回の五輪は、夏場のデーゲームも控えているため、暑さと緊張感で体力の消耗も早くなるでしょう。一段と継投のタイミングが重要になってくると考えています。

 そうなると当然、ある程度、投手の数を揃えなければならず、24人という限られたベンチメンバーのなかで、野手はそう簡単に代えることはできなくなりますから、8人のレギュラーがベースになるでしょう。

 逆に言うと、少ない控えの選手たちの存在が非常に大きくなると考えています。ベンチメンバーが28人だったプレミア12以上に、五輪の控え選手の重要性は増すはずです。

 控えの役に回っても不貞腐れることなく、いかにモチベーションを保てるか。例えばプレミア12では、調子を落としたジャイアンツの(坂本)勇人(はやと)に、大事な場面で代打を送ることがありました。しかし、彼は決して腐ることなく、ベンチで精一杯、チームメイトを鼓舞し続けてくれた。あれだけの成績を残してきた選手でも、チームのために、今、自分ができることを一所懸命にやる。五輪でも、24人が一丸となって戦うことが非常に大切になってきます。

 また、金メダルを獲るにあたり大事なポイントは「最多8試合」あることだと考えています。必ずしも全勝優勝する必要はない。もちろん、どの試合も負けていいわけではありません。しかし一方で、負けてもまだ金メダルが獲れることもまた事実です。

 こうした考え方ができるようになったのは、北京五輪を経験したことがとても大きく影響しています。あの時は、チーム全体がとにかく全勝優勝しなければならないという空気に縛られていた。私自身もそれを非常に強く感じていました。

 そのため、一回負けてしまうと、まだチャンスはあるのに「負けてしまった」と焦りが生じ、正直に言って士気が下がってしまった面がありました。この経験を今回の選手たちにしっかりと伝えた上で、金メダルを獲りにいきます。大事なことは、「最終的に」金メダルを獲ることです。

強い危機感

 そのために私が重要視してきたことがあります。

 今回の侍ジャパンは、五輪で金メダルを獲るために集まりました。つまり、勝つことが目的です。そして勝つためには、「良い選手を集める」ことではなく、「良いチームを作る」ことが大事になります。

 特別な大会で勝つには、技術はもちろん、気持ちが必要不可欠です。どれだけの熱い気持ちを持って、侍ジャパンとして戦えるか。

 例えば、今季、田中将大(まさひろ)投手がメジャーリーグから日本球界に復帰した際、彼は楽天の入団会見で、「(侍ジャパンに)選ばれたならば断る理由はないし、(五輪に)出たいと思っている。金メダルを獲りたい」と語ってくれました。

 影響力のある彼が、真っ先に五輪に対する思いを口にしてくれたのは本当にありがたかった。彼は北京で悔しい思いをした同志でもあります。田中投手のように、五輪に対する熱い思いを持って、みんなで戦っていきたいと考えています。

 どの国も強敵ですが、韓国に勝たないと金メダルはありません。北京で韓国に負けた悔しい思いを、今回の大会でぶつけたいと思います。敵対心を持つというのとはまた違い、日本にとって韓国は本当に良きライバル。同じアジアの国同士、良い戦いをしたい。その上で、もちろん北京のリベンジを果たすつもりです。

〈そして稲葉監督は、東京五輪で金メダルを獲ることの「意味」を、文字通り熱く語った。〉

 個人的には、東京五輪は北京のリベンジの面があるわけですが、日本の野球界にとっては、今回、金メダルを獲ることの意味は当然、それだけではありません。

 五輪に先駆け、ゴルフのマスターズで松山英樹選手が優勝しました。このことが、改めて「ジャパン」が「世界」と戦って勝つことの意味はとても大きく、とりわけ子どもたちへの影響が大きいことを実感させてくれました。

 少年野球をやる子どもたちが少なくなってきて、野球をやれる環境も減ってきている。子どもたちが野球に親しむ機会自体がなくなってきているという危機感をとても強く感じています。

 私は今、北海道に住んでいますが、以前に比べ、北海道の子どもたちがソフトボールを投げられる距離も短くなっていることが、体力測定で明らかになっています。野球の原点である「投げる」「打つ」という運動に、もう一度子どもたちに親しんでもらう、興味を持ってもらう意味でも、今回の東京五輪はとても大事になってきます。

 個人的にも、また、北京のような悔しい思いをしてほしくない選手のことを考えても、さらには日本の野球界や子どもたちのためにも、侍ジャパンは強い思いで金メダルを獲りにいく。そして、みなさんと一緒に喜びを分かち合い、コロナ禍の日本に少しでも元気を与えられればと願っています。

 決勝は8月7日。その時、侍ジャパンが「最終的に金メダル」を手にする姿を、応援しつつ、楽しみに待っていていただければと思います。

週刊新潮 2021年8月9日号別冊掲載

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