「抗体カクテル療法」ついに特例承認 入院と死亡のリスクを低減、近く承認申請される治療薬は?

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 ワクチン効果で重症化が抑えられても、欠かせないのが治療薬だが、幸い、このところ朗報が多い。最新の治療薬事情を、東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授に概説してもらおう。

「有効な治療薬は、まずは中等症以上で使い、過剰な免疫反応を抑えて炎症を防ぐステロイド薬のデキサメタゾンです。続いて抗ウイルス薬のレムデシビル。4月に日本でも承認されたバリシチニブもあります。これはデキサメタゾンと似た効果がある内服薬で、酸素吸入が必要な症例では効果が示されています。これら三つが、日本でも新型コロナの治療薬として正式に承認されています」

 次に、6月末に申請されて承認待ちなのが、

「中外製薬の“抗体カクテル療法”と呼ばれる薬。変異株に対しても効果が減弱しないように、カシリビマブとイムデビマブという2種類の抗体を組み合わせた抗体製剤です。抗体製剤とは、ウイルスのスパイクタンパク質にくっついて、ウイルスが細胞内に侵入するのを防ぐ薬で、早い段階で投与するほど効果が出やすい。米国ではすでに緊急使用が認められ、発症後間もない軽症者に投与し、入院と死亡のリスクを70%程度低下させた、というデータもあるようです」

 中外製薬の広報IR部に聞いてみた。

「戦略的提携関係を結んでいるスイスのロシュ社から、日本での開発権と今後の独占販売権を取得しています。今回の承認申請は、海外における第3相臨床試験の成績、および国内で実施した第1相臨床試験の結果にもとづいて行いました」

 厚労省は7月中にも承認する方針だという。

 寺嶋教授が続ける。

「もうひとつ、すでに申請済みで承認待ちなのがアビガンです。追加の臨床試験が行われ、その承認待ちだと思いますが、私も使用しており、効果は期待できると思います」

 近く承認申請されると期待されている薬もある。

「まず、中外製薬のトシリズマブ(商品名はアクテムラ)です。海外では死亡率を抑えられたというデータも出ており、米国では緊急使用許可が出ています。私もすでに使っていて、中等症以上の方にデキサメタゾンと併用することが多いです。もともとリウマチの薬で、インターロイキン6という炎症に関与するサイトカインが、受容体に結合するのを防ぎ、炎症が進まないようにする効果があります。長年、リウマチの患者さんに使われてきたという安心感があります」

 中外製薬広報IR部によれば、年内の承認申請を目指すという。日本でも希望者の大半が2回のワクチン接種を終えるであろう秋以降は、治療薬の選択肢も豊富になるということか。

 そして、次がノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士が発見した抗寄生虫薬「イベルメクチン」だと、寺嶋教授は言う。この錠剤は世界中の研究解析で、新型コロナの患者に効果が確認されている。ところが、製造および販売元の米メルク社が、新薬を開発中だからか、投資に極めて消極的なのだが、

「7月1日、興和が臨床試験に乗り出すと発表されました。安全性という点では、世界で数多くの人に長い間使用されている実績があり、内服薬で安価だという点では、クリニックの先生でも処方できるというメリットがあります」(同)

 大きく前進した理由を、COVID-19対策北里プロジェクト代表で、北里大学教授兼大村智記念研究所感染制御研究センター長の花木秀明氏に尋ねた。

来年には国民に普及

「イベルメクチンの治験は、昨年から北里大学が、医師主導で始めていました。しかし、大学は臨床試験のプロ集団ではなく、予算や人材、技術的ノウハウも不足しています。そのうえ、患者が増えれば治療と救命が優先され、感染の大きな波が来るたびに臨床試験をストップしてきました」

 それでも、結果を出せばメルク社の協力が得られると考えていたが、

「メルクの米国本社は“イベルメクチンは新型コロナには効かず、安全性にも問題がある”との声明を出し、MSD日本法人の副社長も、イベルメクチンの開発や薬事申請は“会社として合理的でないと判断した”と発言。医師主導治験を粛々と行い、結果をメルクに渡せば薬事申請してもらえると思っていたので、申請する気がなかったと知って驚きました。そんな状況下、かねてから共同研究を行っている興和に相談すると、イベルメクチンに関する世界的な状況や研究データを見た三輪芳弘社長が、“こういう薬があるなら、すぐに国民に届けたほうがいい”と言ってくださり、今回の臨床試験に至りました」

 承認が下りれば、興和が製造から販売まで一貫して行う予定だという。

「三輪社長が会見で、“年内の申請をめざす”と話されたので、やるしかないと。第3相臨床試験をしっかりと行い、承認されれば、来年には国民に普及させられる状態になるでしょう」

 と花木教授。普及すればなにが期待されるか。

「軽症者の2割は症状が悪化しますが、イベルメクチンを服用し、軽症者を軽症のまま治すことができれば、医療崩壊の危険性も少なくなります。また、自宅療養者の家庭内感染を抑えることができ、ホテル療養者の強い味方にもなります。ホテル療養者は医療的な手当てがなされず、熱で苦しみながら不安を抱えています。そういう方々をイベルメクチンで救いたい、というのが私の考えです」

 そして、こう加える。

「イベルメクチンが普及すれば、コロナの出口に近づくと思います。ワクチンと治療薬があれば、新型コロナに対して風邪のような対応で済むようになります」

 ところで、イベルメクチンに不熱心なメルク社の新薬についても、

「モルヌピラビルという経口薬は、第3相試験に入っている。感染初期にウイルスが増えないようにする薬で、私も期待しています」

 と、寺嶋教授。さらに、

「英グラクソ・スミスクライン(GSK)のソトロビマブもあります。中外製薬の抗体カクテル療法に近い注射型の抗体製剤で、早期に使用することで、重症化を防ぐ効果があります」

 GSK日本法人の広報担当者に確認すると、

「第3相臨床試験の最終結果では、重症化リスクの高い軽症者から中等症患者に対する有効性を、あらためて確認できました。中間解析では、投与から15日までの868例のデータを解析したのに対し、最終結果では、投与から29日目までの1057例という、さらに多くのデータを解析したうえで、有効性を確認できました。日本での承認申請に向けて、さまざまな可能性の検討や協議を全力で進めています」

 緊急事態宣言、無観客五輪。世論迎合の政府の判断はみな常軌を逸しているが、その陰で治療薬は続々と整いつつあり、コロナ禍の出口は確実に近づいている。

週刊新潮 2021年7月22日号掲載

特集「日本に政治家はいなかった 『テレビの中の五輪』にムダ金『1兆6500億円』消失」より

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