ネット上にあふれる「キャラクターケーキ」 オーダーした客も著作権侵害に問われる可能性

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1000万円以下の罰金、10年以下の懲役

 製作販売したケーキ店はもちろん罪に問われると思いますが、ケーキをオーダーした客は著作権を侵害したことにはならないのでしょうか。

「著作権侵害となるケーキの製造販売が行われれば、ケーキ店が著作権を侵害したことになるのは、申し上げたとおり明白です。では、オーダーしたお客さんの方は罪に問われないのかと言われれば、実はそうとは言えません。理論上、著作権侵害になる事実について知っていたり、知らなかったけれど落ち度があったというのであれば、民事ですとケーキ店との共同不法行為となる可能性もありますし、著作権侵害となる事実を知っていたというのであれば、刑事ですとケーキ店の共犯者(教唆犯、共同正犯)となる可能性があります。

 ケーキ店もお客さんも、ともに刑事で有罪が確定すれば、1000万円以下の罰金刑か、10年以下の懲役刑、またはその双方に問われる場合がありますし、法人は3億円以下の罰金が科される可能性があります。また、民事でも、警告書や民事訴訟などで、差止、損害賠償、在庫や主として著作権侵害に用いられた機械・器具の廃棄が求められたり、著作者人格権を侵害すれば謝罪広告などを求められたりすることがあります」

 キャラクターの著作権侵害で刑事裁判や民事訴訟となった例はありますか。

「アニメに登場する著名なキャラクター表現を無断使用して製造された物を販売する行為や、テレビ番組に登場するキャラクター表現を無断使用して製造された製品等の販売行為については、多くの刑事告訴が行われて逮捕者が出ています。

 また、民事訴訟として、菓子が用いられた事案であれば、例えば、イラストレーターさんが描いたパンダの親子のイラストを、お菓子のパッケージやお菓子本体に不正使用し、複製の差止、商品の廃棄と賠償金の支払いなどを命じられた裁判例があります。

 裁判にはいたらなくとも、民事として警告をしたうえで示談になるというケースも少なくありません」

 キャラクター表現の私的利用というのは、どこまで許されるのでしょうか。

「お話ししたように、個人で楽しむ程度で、自分や家族のために人気キャラクターを描いたケーキを作った場合などは、私的利用となり法律違反とはなりません。しかし、それが家族ではなく友人のためとなると微妙です。著作権法は『個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内』を私的利用として認めていますので、単なる友人でなく、家族に『準ずる』という位の関係の友人であれば著作権侵害にはならないのですが、そうではなければ私的利用と言うには無理があると思います。

 ただ、たとえ家族だけのために作ったキャラクターケーキでも、ネットやSNSで配信する行為は、著作権法の『公衆送信権(著作物をインターネット等で公衆に向けて送信する権利)』の侵害になります。これはケーキに限らず、著名キャラクターのキャラクター弁当や、クッキーやパンなどほかの料理に関しても同じです」

著作者の創作環境を守るため

 そもそも著作権というのは何のためにある権利なのでしょうか。

「音楽や美術、小説などの著作物は、著作者が心血を注いで作品として表現したものであり、漫画やアニメのキャラクターや、オリジナルとして生まれたキャラクターなども例外ではありません。著作権法で保護された著作物の使用料は、新たな作品を生み出す創作活動にも役立ちます。

 無許可でキャラクターの商品を作られると、著作者が著作物のクオリティーを管理することができなくなり、ときには、著作者が望まない形でキャラクターが商品化してしまうことがあります。また、キャラクターを無許可で使われるということは、使用料として得ることのできた利益を損ねることにもなります。

 利益が奪われるということも問題ですが、いわゆるニセモノが出回るそうした状況は、何より著作権者の創作意欲の低下につながります。著作権法は、著作物自体を守るだけでなく、著作者の創作環境を守るためにも存在するのです」

 人気のキャラクターは、著作者が苦労して生み出し育てた大切なコンテンツだ。好きだから、子どもが喜ぶから、オーダーされたからというような理由で勝手に使用していいものではない。

 稀ではあるが、著作権者や著作権を管理する会社からきちんと許諾を得て、キャラクターの商品を製造販売している良心的な個人経営の菓子店も存在する。消費者も、魅力的なキャラクターを生み出した著作者のことも考えるべきだろう。

小川美佳(おがわ・みか)
千葉県出身。文化、医療、健康、グルメ、街ネタ等幅広く取材する雑食系ライター。医師やアーティスト、アイドル、学芸員、飲食店店主、高校生等、インタビューした数は1,000名以上におよぶ。どのジャンルにおいても、正確な情報を分かりやすく伝えることをモットーとしている。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月16日掲載

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