熱海土石流は人災? 逮捕歴もある「盛り土」業者の黒歴史、太陽光発電トップにも前科

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 週末の保養地を、突如として容赦ない土砂が襲った。折からの大雨がもたらした熱海市の土石流災害。130軒もの家屋が押し流され、安否不明の人はなおも16人にのぼる。“次の危険地帯”が懸念される中、地元ではもっぱら「人災」との声が高まっていて……。

 ***

 毎年のように列島を襲う天災――。自然の猛威を前にして人々は誰を恨むこともできないが、甚大な被害が“人災”でもたらされたものだったとしたら……。

 7月3日、静岡県熱海市伊豆山(いずさん)で発生した土石流は130棟あまりの家屋を呑み込み、死者11名、安否不明者が16名(7月14日時点)にも及ぶ犠牲を出した。

 発生翌日に現場を視察した静岡県の難波喬司副知事は、

「山林開発の影響はあると思う」

 と、人為的な要因があることを示唆。行政幹部の異例とも取れる発言を受け、災害の元凶だと盛んに報じられているのが、土石流が起きた逢初(あいぞめ)川の上流にあった造成地、いわゆる「盛(も)り土(ど)」の崩壊である。

 聞き慣れないこの言葉は建築工法のひとつで、外から運んできた土砂などを用いて、傾斜地を平らに造成することを指す。

「空撮画像などから現場を確認しましたが、盛り土の崩壊が土石流の引き金になったのは確かでしょう」

 と語るのは、地盤工学の専門家で東京電機大学名誉教授の安田進氏だ。

「一般的に土石流は細い谷の一部が崩れて大きな土砂となっていくので、上空から見ても発生源は木に覆われてなかなか分からない。ところが、今回は明らかにどこから崩れたのか分かるほど土がえぐられ、山の一部が無くなっていました」

 これまでも台風や地震などの自然災害で崩壊した実例は多々あるそうだが、東京農工大名誉教授の石川芳治氏(砂防工学)によれば、

「すべての盛り土が危険というわけではありません。日本は雨が多いので、盛り土の中に排水パイプを整備したり、造成段階で数十センチごとに層を作ってローラーで締め固めるなど、きちんとした基準に沿って作れば安全です。単にダンプで土砂をドサッと積んで盛るだけでは崩れてしまう。しっかり作ろうとすれば費用も手間もかかるので、手を抜く業者がいてもおかしくありません」

 実際、崩落現場の近くに家を構える住民に聞くと、

「以前、盛り土が段々畑のようになっているあたりを歩いたら、足がズブッと沈むところがありましてね。木も生えず、草はあっても除草剤をまいたのかと思うくらい枯れた色で、栄養のない土壌だと思いました。2年ほど前、植樹の作業をしていましたが、うまく育たなかったみたいです」

 別の住民はこうも言う。

「土砂を満載にしたダンプが来るようになったのは10年ほど前から。朝っぱらからうるさいし、道路に土を落とすので、市になんとかして欲しいと通報したこともあったけど、取り合ってくれず諦めました」

「ソーラーパネルが…」

 いったい誰が何のために疑惑の「盛り土」の山を築き、かような大惨事が起こるまで放置されたのか。

 まずは現場の許認可を担う熱海市役所に尋ねると、

「土地に盛り土をする場合は市に届け出をする必要があり、崩落地点の盛り土は2007年4月に当時の土地所有者である民間企業が、『残土処理』の目的で熱海市に届け出を出しています。11年頃に現在の所有者に土地が転売されましたが、最近も住民からたくさんのトラックが走っている、うるさいなどの通報があったのは事実ですが、詳しい内容は把握していません。市がどこまで盛り土を管理する義務があったかどうかは、現在検証中です」

 どうにも歯切れが悪いが、先の住民の一人が明かすには、

「盛り土の上にある道に沿って尾根の方に歩くと、大きなソーラーパネルが斜面にズラッと並んでいて、太陽光発電所になっていたことを知りました。大きなダンプカーがたくさん入っていくから、てっきりマンションでも建設しているのかと思っていたけど、このためだったのかと……」

 まさに崩落した場所の先に広がる造成地には、各地でトラブルが頻発している太陽光発電所が建設されていたのだ。所管する経産省の資料によると、運営者は都内にある民間企業となっているが、この企業グループの前トップは法人税の脱税で懲役2年6カ月の実刑判決を受けた過去を持つ。近年は熱海周辺の山林を買い漁るなど、地元ではその名が知られた存在らしい。

 奇しくも今回の災害が起こる前から、伊豆半島一帯では、太陽光発電の設置計画が盛んな半面、環境への影響が懸念されるとして熱海市に隣接する伊東市や函南(かんなみ)町では住民による反対運動が起きていた。斜面の木々を伐採してソーラーパネルを設置すれば、樹木の根が張ることで維持されてきた山の保水力が低下。災害リスクが高まるのは素人でも分かりそうなものだ。

「盛り土崩壊」との因果関係が気になるところだが、件の発電所を運営する民間企業に取材すると、代理人で原発ゼロ運動の“守護神”としても知られる河合弘之弁護士が、以下のように話すのだった。

「太陽光発電の施設に降った雨水は、土砂崩れのあった逢初川とは別の方角に流れるよう傾斜をつけて工事をしたので、盛り土崩落とは無関係であることを強調したい。10年以上前に、太陽光発電の敷地を含む40万坪の土地を購入しましたが、その一部に崩落した盛り土があるということは知らず、びっくりしている。あれは一種の段々畑になっていたことは認識していたけど、そこが全て盛り土で危険だなんて……。盛り土が出来上がった後に購入したわけですから、欠陥のある土地を売りつけられたのならば、前所有者の責任を追及しないといけないかもしれない」

 あくまで「盛り土」の責任は前所有者にあると主張する。

 ならばと「盛り土」を造成した前所有者の言い分を聞くべく、神奈川県小田原市にある自宅を訪ねると、家人と思(おぼ)しき女性が“私たちも被害者よ!”と叫ぶのだった。

 地元の事情通が言うには、

「造成した業者は、小田原駅前の一等地に建つビルに事務所を構えていた不動産会社の男性社長で、他に土建屋など数社を運営していてね。過去には違法なデリヘル業者をビルのテナントにしたことや、競売物件の落札を妨害したことで逮捕・起訴された過去もあり、地元では何かとお騒がせの経営者ですよ。熱海の土地は宅地を造成しようと開発に着手したけど、産廃の捨て場にした挙句、転売したと聞いたよ」

 この前所有者が指定した代理人弁護士に質したところ、

「私はあくまで彼の知人に過ぎませんが、“自分は悪いことはしていない”と言っていましたよ」

 どこまでも互いの“罪”をなすりつけ合うのだ。

 社会部記者が指摘する。

「当初、太陽光発電の建設は書類上の不備がなければ、行政も認可せざるをえない状況に置かれていましたが、大規模な森林伐採など各地でトラブルが噴出して、ようやく各省庁のガイドラインや自治体の条例が整ってきたところ。本来なら、日本の山林保護を所管する環境省などが、もっと主体的に法規制の網をかけて然るべきですが、小泉進次郎大臣は熱海の災害後の会見で、太陽光発電所の立地規制に触れた上で、“全国では不安に思う方が多くいる中で、それは不安に思っているところにできるのではないか、という不安を抱えているとしたら、それは違うという不安を払拭しなければ”と、要領を得ない説明をくり返していました」

 ノーテンキな環境大臣を擁する菅政権が進める売電事業と、そこに群がる悪いやつら。図らずも天災が露にしたのは、欲にまみれた無責任な人々の姿である。

週刊新潮 2021年7月15日号掲載

特集「『悪い奴ら』が罪のなすりつけ合い 20人の命を呑み込んだ『熱海土石流』は“人災”」より

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。