最年少九段になった藤井聡太を真に心配する恩師 「いや、寝ているようじゃダメです」

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 7月3日、藤井聡太二冠(18 王位・棋聖)にまたもや伝説が加わった。とはいえ新たなタイトルを獲得したわけではない。「最年少タイトル防衛」「最年少九段」の二つの偉業を成した。

 この時点で藤井は18歳11か月。従来の最年少防衛は屋敷伸之九段(49)の持つ19歳0か月。わずかひと月差での達成。昨年、同じ棋聖戦で渡辺から奪取した初タイトル獲得は17歳11か月で、それまで屋敷九段が持っていた最年少記録(18歳6か月)を、これも誕生日まで三日というタイミングで記録更新していた。ヒーロー伝説には「強運」も付きまとう。

 しかし、「最年少九段」の従来の記録は渡辺明三冠(37 名人・王将・棋王)の持つ21歳7か月であり、これは大きな差で当面、抜く相手は出ないだろう。九段の条件は「名人1期」「竜王2期」「タイトル3期」など。藤井は「タイトル3期」に該当した。ちなみに現役九段の最年長は、かつて中原誠十六世名人(73)ともしのぎを削った大阪の強豪、桐山清澄九段(73)で、現役の最年長棋士でもある。

 昨年、藤井が初タイトルとして獲得した「棋聖位」の初防衛戦、五番勝負の第3局が、熱海市で死者や不明者を多数出してしまった豪雨のさ中、静岡県沼津市の「沼津御用邸」で行われた。ここまで藤井の2連勝。相手は昨年、藤井に棋聖位を奪われリベンジに燃える渡辺明三冠である。

 なんと、藤井はこの日朝、和服に着替えている時、扇子をホテルに忘れてきたことに気づき、「扇子貸してもらえませんか」と主催社(産経新聞社)に頼み、自らのサイン入りの扇子を借りたという。子供の頃、歩きながら将棋のことばかり考えていて溝に落ちたという逸話を持つ、すさまじいばかりの集中力のなせる技か。

「裸の王様」

 藤井は鴈(がん)の群れが空を飛ぶような格好の「鴈(がん)木」と呼ばれる陣形に近い形、渡辺は「矢倉」の陣形で火ぶたが切られた。藤井は「居玉」のままで早々に戦端を開き、渡辺もひるまず攻勢に出て激しい戦いになる。渡辺は中盤、一時間半の長考の末、角を捨てて藤井陣に斬りこむ勝負に出た。AI(人工知能)の評価値は60%前後で「藤井有利」を示していたが、次第に渡辺が盛り返し、途中から渡辺70%有利と示していた。中継するAbemaTVで解説していた阿久津主税(ちから)八段(39)も、AI評価の見方を推測説明しながらも「まだまだわからない。勝負は秒読みになる終盤です」と語っていた。

 その通りになる。渡辺は角で藤井陣の金を取り込むとここでAI評価が逆転し「藤井有利」を示す。そのまま藤井優勢で進む。双方、持ち時間を1分ほど残していた午後7時14分、渡辺は藤井の3六桂馬の王手を見て頭を下げ投了した。

 最後は桂馬の使い方の巧みな藤井を象徴する投了図だった。終盤、藤井の玉には接近して守る金や銀などの駒が一枚もなく、ポツンと自陣の中央に取り残された格好だった。

 こうした形は危なっかしい反面、自分の駒が邪魔しないので逃げやすい。逆に攻める側は飛車、角、桂馬、香車という「飛び駒」を持っていないと捕らえにくいが渡辺の手持ちは金や銀だった。藤井は渡辺の攻撃を見切り、ひょいひょいと逃げながら、敵陣下段に打ち込んだ飛車を生かして勝利したのだ。

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