平井大臣の「暴言騒動」に新たな疑惑 IT総合戦略室幹部「慶大教授」の密接業者が受注

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 ついに音声データまで公開。「オリパラアプリ」の契約を巡り、平井卓也・デジタル担当大臣がNECを脅したといわれる暴言騒動は大バトルに発展中であるが、その舞台裏を覗けば、膨張「IT予算」を巡る暗闘が。合わせてデジタル化が抱える問題点も見えてくる。

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 平井大臣が“問題”の会議の音声データを公開したのは、6月22日のこと。IT大手のNEC、そして疑惑を報じたメディアへの“宣戦布告”である。もちろん彼らが黙っているわけもなく、バトルが激化するのは間違いないが、その裏に「IT予算」を巡る暗闘があったことは全く報じられていない。

 それについて述べる前に、まずは今回の「暴言騒動」を押さえておこう。

 口火を切ったのは朝日新聞だ。

〈事業費削減「脅した方が」 五輪アプリ請負先巡り平井大臣指示〉

 朝日が社会面で大きく見出しを打ったのは、6月11日のこと。内容をまとめると、昨年来、政府はオリパラに向けて、海外からの観光客や大会関係者の健康情報を管理するアプリの開発を計画。今年1月半ば、この事業をNTTコミュニケーションズを代表とする5社の共同事業体が約73億円で落札し、開発が進められていた。5社の中で顔認証システムを約5億円で担っていたのが、件のNECである。

 しかし、3月になって海外からの観光客の受け入れ中止が決定。当初来日すると見られていた対象者が大幅に減ることに。それに伴い、政府、具体的にはこの事業を担当していた平井大臣と「内閣官房IT総合戦略室」が機能の削減を検討。最終的にはコストを約38億円に圧縮することに。顔認証システムについても、開発、運用を中止し、NECとの契約解除を決めた。

 が、この過程を問題視したのが朝日で、削減の検討過程にあった4月に戦略室で行われた会議の音声データを入手。既にNECがシステムの開発を進めているため、対応に苦慮するスタッフに対し大臣が、「(NECが)ぐちぐち言ったら完全に干す」「NECには(五輪後も)死んでも発注しない」「(NEC会長を)脅しておいて」と述べ、優越的地位を背景に民間業者に圧力をかけたのでは、と報じたのである。

 ピンチの大臣。

 それに追い打ちをかけたのが「週刊文春」だ。同誌は6月17日発売号で〈平井デジタル相「新音声」 NEC恫喝の裏に親密会社ゴリ押し〉と題し、前述の会議で録音された“別の発言”を紹介。“恫喝”の直前、平井大臣が自らと懇意のベンチャー企業とその顧問の名を挙げ、今後、入札が行われるデジタル庁の入退室管理について、この会社を入れるように指示したと報じた。すなわち“恫喝”にはガリバーであるNECを排除し、自らの親密業者を優遇する狙いがあったというわけだ。

 いよいよ大ピンチと思われた大臣だが、“文春は自分の発言を曲げている。ベンチャー企業名は出していない”と反論。冒頭のように、音声を公開するという荒業に出たのである。

受注は密接業者

 まさにガチンコの戦い。どちらの主張が正しいかは今後の展開を待つしかない。

 しかし、

「会議の中で何を言ったか言わないかなんて些末な話です。この裏には、オリパラアプリを巡って繰り広げられていた、戦略室内での暗闘があるのです」

 と述べるのは、さる内閣官房の関係者である。舞台裏で何があったのか。

「そもそも、大臣は今回のオリパラアプリについて現場に任せており、発注がどのように行われたのか、詳細を知りませんでした」

 しかし、1月末になって、その過程が国会で追及されることになった。事業が73億円と高額であり、入札告示から提案書提出期限まで10日ほどしかなかったことから「出来レースではないか」と野党に突っ込まれたのである。

「これを受けて大臣サイドは内々に調査を指示した。すると、戦略室の幹部について“疑惑”が持ち上がってきたのです」

 その幹部とは、室長代理を務める神成淳司(しんじょうあつし)・慶大教授だ。教授は7年前に戦略室に入り、今では幹部の中で唯一の民間メンバー。オリパラアプリについては、まさに全体を管理する担当者を務めていた。

「当然、入札過程にも関わっていた。しかし、今回落札した事業体に、彼と密接な関係の業者が含まれていることがわかったのです」

 その一つがNECだ。教授はこれまでNECの子会社であるNECソリューションイノベータ社と研究を共にし、共同で特許技術を開発する関係にあった。

 また、今回の共同事業体に加わった5社のうちのひとつにJBSという会社がある。同社はアプリの連携基盤サービスを担当しているが、実際の業務は、別の「ネクストスケープ」なる会社に委託。そして、ネクスト社は、神成教授が代表を務める別の事業におけるビジネスパートナーに当たり、教授と同社の社長は、メディアで対談までする仲であることも判明した。

「要は、今回のプロジェクトの指揮を執った神成教授と非常に親しい業者が複数、事業体に含まれているとわかったわけです。更には、アプリ事業で2億円が支払われる見積もりが出されていたライセンスの一つが、教授が関わったものであることもわかった。これでは落札過程に疑念を抱かれても仕方ありませんし、万が一、受注したことで何らかの利益が教授に入ることになれば、利益相反すら疑われてしまう。これらの業者とは距離を置かないとまずいぞ、となったのです」

 そんな折、海外からの観客受け入れ中止が決定。費用が高いと批判を受けていたこともあり、大臣サイドは契約を大幅に圧縮することに決定。問題のNECについても契約解除を検討した。

 ところが、である。

「その議論の中で、NECに配慮せよ、と述べたのが神成教授でした。“契約を解除するなら数千万は支払う必要がある”“その方が波風立たない”などと主張。納品もない事業には一切支払いたくない、と考えていた大臣サイドとの間で言い合いになりましたが、結局大臣は“訴訟覚悟で交渉してこい”と最後まで譲らなかったのです」

 こうした経緯の末に契約解除が正式に決まった後の6月。突如、会議の音声がメディアに流れた――。戦略室の中でドロドロのバトルが繰り広げられていたことがよくわかる。

「この騒動には、IT予算を巡る問題が凝縮されていると思います」

 と述べるのは、経済ジャーナリストの磯山友幸氏だ。

 近年のデジタル化の推進によって、政府の予算も膨張する一方。今年度のデジタル化にまつわるそれは、1兆円規模に上る。

「こうした事業は、これまで受注実績のある大手ITゼネコンが取ることが多く、また、その後もそのまま運用・保守を行うなどして、そのベンダー(IT事業者)しか携わることができない仕組みになることが多いのです。これをベンダーロックインと言いますが、この構図ではゼネコン側の言い値が通り、予算が高止まりする。これには以前から批判が多く、戦略室側も対応を迫られていました」

 別のジャーナリストも、

「戦略室のメンバーの中にはITゼネコンの出身者や密接関係者が多くいて、特定企業へ利益誘導するのではないか、という疑念も持たれていた」

 いきおい大臣側は事業費用や業者との利害関係について慎重になる。そうした背景が今回の対立に繋がったのは想像に難くない。

 実に人間臭い、デジタル化の闇である。

 では、当事者たちは何と言うか。

 神成教授に聞くと、

「本件調達は法令に則った手続きにより適正に行われており、問題はない」

 他方、戦略室に尋ねると、

「御指摘のような事実関係について把握しておりません」

 と言いつつ、

「本件調達については、必要があれば、今後設置するコンプライアンス委員会における調査の対象になり得るものと承知しております」

 と実に含みのある回答も。

 ちなみに6月18日以降、神成教授はこのアプリの担当から外れている。

「調査が終わるまでは、今の役割にとても置いてはおけないと判断された」(前出・官房関係者)

「言った」「言わない」の陳腐な争いに見える、品性なき暴言騒動。が、その裏側を覗くと、デジタル化の美名の下に隠された血税の“ふっかけ”ぶんどり合戦の現実が渦巻いていることがわかるのである。

週刊新潮 2021年7月1日号掲載

特集「言い値が通る 膨張『IT予算』暗闘の舞台裏 『平井卓也デジタル大臣』VS.『NEC』暴言騒動の背後に疑惑の『慶大教授』」より

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