オリックス「イチロー以来」のVへ快進撃 中嶋聡監督の驚くべき“手腕”

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調子を上げたT-岡田

 杉本は中嶋政権になって、初めてレギュラーとなった選手だが、それ以外にも一軍で実績がありながら、くすぶっていた選手が復活した例もある。T-岡田、福田周平、宗佑磨などはそのケースに当てはまる。

 かつてのホームラン王でもあるT-岡田は、2019年には不振でわずか1本塁打に終わったが、昨年中嶋監督代行が就任してから調子を上げて、2年ぶりの二桁本塁打となる16本塁打をマークした。

 今シーズンは開幕直後には不振だったが、5月には3割を大きく超える打率を残し、6本塁打を放つ活躍を見せている。相変わらず調子の波はあるとはいえ、その長打力はチームにとって非常に貴重な存在だ。

 一方、福田は内野手登録だがセンター、宗は外野手登録だがサードでそれぞれ出場している。このコンバートがきっかけで二人は復活を果たした。福田は持ち味である出塁率の高さを生かして1番に定着。宗は打率こそ、それほど高くないものの「強打の2番」として長打でチャンスメイクするケースが目立っている。ともに脚力も申し分なく、交流戦優勝の原動力は、この1、2番コンビが機能したという点が非常に大きかったといえる。

長所に目を向け起用

 さらに、中嶋監督の采配で目立つのが若手の抜擢だ。投手では、宮城大弥が山本由伸に次ぐ先発の柱へと成長した。その安定感は、とても高校卒2年目の選手とは思えず、既にリーグを代表する左投手とも言える存在となっている。

 野手では、宮城と同学年でショートを任されている紅林弘太郎が代表格。開幕直後はまずい守備も目立ち、一時はサードに回ったこともあったが、5月中旬からは再びショートに定着した。課題は多いものの、攻守ともに度々スケールの大きさを感じさせるプレーを見せており、確かな成長が感じられる。近い将来、チームの看板打者となる可能性は極めて高いだろう。

 メジャー282本塁打のジョーンズや復帰したロメロなど、外国人選手がそれほど機能していなくても、それを言い訳にするのではなく、現有戦力の良さを伸ばしてチームの底上げに成功したことが、現在の成績に繋がっていることは間違いない。

 杉本、宗などを見ても、チームに足りない部分を補うために、その選手の弱点よりも長所に目を向けて起用しているように見える。これと同時に、実績がない若手の抜擢を行うことも、なかなかできることではない。今年だけでなく、将来を考えたチーム作りを進めている点にも、中嶋監督の指揮官としての“凄み”が感じられる。

 首位を争うソフトバンクと楽天に比べれば、オリックスのリリーフ陣に弱さがあるのは課題ではあるが、若手で楽しみな投手も多いだけに、これからどう整備していくのかも楽しみだ。25年間遠ざかっているリーグ優勝にどこまで迫ることができるのか。今後の中嶋オリックスの戦いぶりに、ぜひ注目してもらいたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月27日掲載

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