韓国政府は「五輪ボイコット」を叫ぶものの… 高まる日本旅行熱で「国民のほとんどは無関心」

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“竹槍で日本軍と戦う”

 このような日韓逆転現象は多岐にわたる。古くは日本のインスタント食品を扱うメーカーが、食糧難に苦しむ韓国救済のために製法をタダで教えた。半世紀を経て、中国や米国で躍進しているのはメイドインコリアの即席めん。日本製品は世界の人々の嗜好が変化するのに対応を怠り、ガラパゴス化しているのが現状だ。

 いわゆる“ジャニーズ系”と呼ばれる芸能人の物まねから始まったKポップも、世界を席巻している。

 韓国の芸能関係者は、

「日本の歌手は一曲ヒットすれば家が建つ。韓国だと小さなカラオケ屋やバーは著作権料なんて払わないから“一発屋”では家を持てないけど、タダ同然だからどの店でも同じ曲が流れることが呼び水となり、世界市場に打って出る起爆剤となる。日本の歌謡界は“角を矯めて牛を殺している”なんて笑われています」

 さらに「韓国生まれ」のメッセージアプリ「LINE」が、日本では行政のコロナ対策にまで使われている。情報流出の恐れがあるのに、メイドインジャパンのアプリは生まれない。こうした現状が「対馬だって韓国のものだった。中国の3分の1も韓国のものだった」と言って憚らない、世界の人々が首をかしげる歴史認識を強めさせ、反日が政治的にも有効なツールとして位置づけられてきた。

「でも、今回のボイコットに端を発する反日運動は上手くはいかないでしょう」

 と、先の政治記者は意外な分析を口にする。

「韓国が反日に傾くか否かの政治戦略は、すべて文在寅大統領と青瓦台の意思次第ですが、今回の大統領候補選びでは何も言わず参謀も沈黙している。五輪ボイコットは、線香花火のように消えておしまいの可能性が高いと見ているのです」

 2年前、対韓輸出厳格化の時に文大統領は、「わずか12隻の船が豊臣秀吉軍から国を守った」と国民に訴えかけ、当時のチョ・グク民情首席秘書官が“竹槍で日本軍と戦う”と煽り、「NOジャパン」を勢いづかせた。この時も、与党要人は五輪ボイコットを口にしてみせたものだが、今や世界情勢がそれを許さない。

 米国と中国の間で綱渡り外交を強いられている文政権は、バイデン大統領との首脳会談で日米韓協力を約束。自ら日本へ弓を引くわけにはいかない以上、反日に突き進むのは危険だと判断したのだろう。

「新宿の飲み屋に行きたい」

 肝心の親分が援護射撃をしてくれないとなれば、ボイコットをぶち上げた与党の大統領候補たちははしごを外された格好だ。

 加えて、大統領選に挑む彼らは、完全に民意を読み違えたようにも見える。

 私が懇意にするソウル在住の韓国人実業家は、

「韓国代表選手にとっては東京五輪に参加するかどうかは、反日の前に一生の問題だ。政治家たちは何を考えているのか。気楽にボイコットなんて叫ぶな」

 と憤り、さる韓国の財閥系企業に勤めるキャリアウーマンに聞いても、

「コロナ禍を別にすれば、五輪に参加するのは選手の権利でしょ。政権が決めることではない。韓国は参加すべきです」

 と、政治家たちの言動と比べても冷ややかなのだ。

 背景には韓国ならではのスポーツ事情がある。韓国の五輪代表は、小学生時代にアスリートとしての才能を見出されると、特待生として選抜されてスポーツに特化した中学、高校、有名大学へとエスカレーター方式で進む。国費の強化施設でひたすら金メダル目指して特訓する少数精鋭のスポーツエリートなのだ。

 しかも軍事政権時代の国威発揚を目的にした「国民体育振興法」のおかげで、五輪で銅メダル以上を獲得した選手たちには、報奨金以上に魅力的な「兵役免除」などの特権が与えられる。

 他方で、このような単線育成路線は、韓国においてアマチュアスポーツ衰退という結果を招いてきた。実業団チームは圧倒的に少なく、実力があってもスポーツ界で生き残ることは難しい。朴槿恵(パククネ)・前大統領スキャンダルの主人公・崔順実(チェスンシル)の愛人だった高永泰(コヨンテ)は、韓国体育大時代にバンコクアジア大会フェンシング団体で金メダルを獲ったものの、卒業後に選んだのは夜の街のホストだった。そこで崔順実と知り合い、一攫千金を狙って朴槿恵スキャンダルの地雷を踏む。

 それだけ韓国におけるアスリートたちの置かれた現実は厳しく、五輪での活躍は悲願でもある。仮に「東京五輪ボイコット」となれば、韓国代表選手たちに、闘わずして人生を放棄しろと命じるようなものだ。

 前出の政治記者も、「ボイコットに国民のほとんどは無関心」だと断言するのには、もうひとつの理由がある。

 先の韓国人実業家曰く、

「仲間と顔を会わすと、話題は“いつコロナ収束で日本に行けるか”ですよ。銀座の店はまだやっているだろうかとか、新宿の飲み屋に行きたいとか。みんなじりじりしています」

 実際に韓国の大手紙「中央日報」は、昨年8月に「日本、新型コロナ以降で韓国人が行きたい国1位に復帰」と報じた。韓国人にしてみれば、国内旅行は魅力的な観光地に乏しく、どこに行っても食べるものはほぼ同じ。前述したように、かかる食費は海外旅行で日本に行く方がリーズナブルという「安くなった日本」故だ。

 所詮はコロナ禍で五輪訪日など無理だから、お偉いさんたちがボイコットしようが自分たちには関係なし。それが一般的な韓国人の本音なのだ。このような韓国の日本旅行熱を知れば、「反日」に据えるお灸として最も有効な制裁手段は、訪日韓国人への「ノービザ」廃止かもしれない。

 いずれにしても、自分たちの都合で反日を叫ぶ政治家たちの声は、韓国に生きる市井の人々の気持ちとはかけ離れた「雄叫び」であることは明白なのだ。

前川惠司(まえかわけいじ)
元朝日新聞ソウル特派員、ジャーナリスト。1946年生まれ。慶應大学卒。朝日新聞社に入り、川崎支局、週刊朝日、ソウル特派員などを経て2006年退社。著書に『夢見た祖国(北朝鮮)は地獄だった』『実物大の朝鮮報道50年』」など。

週刊新潮 2021年6月17日号掲載

特集「『竹島』難くせでボイコットの脅し そんなに嫌なら韓国は『東京五輪』に来なくていい」より

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