ドラマの真価を測る総合視聴率 「ドラゴン桜」は「ポツンと一軒家」に圧勝の読み方

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 4月期の連続ドラマがもうじき終わる。高視聴率を讃えられた作品があった一方、低視聴率と蔑まれた作品もある。録画視聴分も加えた総合視聴率の結果はどうなのだろう?(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)

 目に触れる機会が多い視聴率はビデオリサーチが測る世帯か個人のリアルタイム視聴率だが、同社は放送後7日以内にその番組が録画で観られたかどうかも調べている。タイムシフト視聴率だ。

 さらにリアルタイムかタイムシフトのどちらかでその番組を観た人の割合を総合視聴率として発表。これがドラマの真価を図る指標とされている。タイムシフト視聴率も総合視聴率も発表が放送から約9日後であるため、報じられにくいが、録画で観る人が多いドラマの真価は総合視聴率に表れやすいからだ。

 好例は2016年の「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)。回を重ねるに連れて世帯視聴率が上昇し、第10話で17.1%を記録した。一方、世帯のタイムシフト視聴率はそれを上回る17.3%。リアルタイムの世帯視聴率だけでは「逃げ恥」への圧倒的な支持は測れなかった。

 終盤戦に入った4月期ドラマの総合視聴率、リアルタイム視聴率、タイムシフト視聴率をそれぞれ見てみたい。いずれも世帯単位である(5月31日~6月6日)。
【1】「ドラゴン桜」(TBS)総合視聴率22.5%/リアルタイム視聴率14.0%/タイムシフト視聴率10.3%
【2】「イチケイのカラス」(フジテレビ)総合視聴率21.7%/リアルタイム視聴率11.7%/タイムシフト視聴率11.0%
【3】「リコカツ」(TBS)総合視聴率18.2%/リアルタイム視聴率9.0%/タイムシフト視聴率10.3%
【4】「着飾る恋には理由があって」(TBS)総合視聴率14.9%/リアルタイム視聴率7.8%/タイムシフト視聴率7.9%
【5】「恋はDeepに」(日本テレビ)総合視聴率14.2%/リアルタイム視聴率7.4%/タイムシフト視聴率7.6%
【6】「コントが始まる」(日本テレビ)総合視聴率13.2%/リアルタイム視聴率6.8%/タイムシフト視聴率6.7%
【7】「ネメシス」(日本テレビ)総合視聴率13.2%/リアルタイム視聴率7.8%/タイムシフト視聴率7.0%
【8】「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ/フジテレビ系)総合視聴率12.2%/リアルタイム視聴率5.8%/タイムシフト視聴率7.0%
                   =以下略=
 リアルタイム視聴率が低いドラマも録画では観られている。「着飾る恋には理由があって」(火曜午後10時)などがそう。「恋はDeepに」(水曜午後10時)のようにタイムシフト視聴率がリアルタイム視聴率を上回るドラマもある。

 録画視聴の場合、CMを飛ばす人が約半分いるとされているので、スポンサーは諸手を挙げては喜ばないかも知れないが、それは視聴者とは関係のない話。ドラマが見られていることには変わりはない。局側にはDVD化や配信、海外販売の目安になる。

 以前は「平日の午後10時台のドラマは録画されやすい」と言われた。翌日、学校や仕事があるためだ。最近は主に若い視聴者をターゲットにしたドラマが録画されやすいのではないか。たとえば「コントが始まる」(土曜午後10時)や「ネメシス」(日曜午後10時30分)である。

 リアルタイムで観ると、CMや自分が見たくない場面が飛ばせないからだ。リアルタイムで観ることが出来るのにあえて録画し、早送りで観る人もいると聞く。

 1年前から公表が始まった個人視聴率にも総合視聴率とタイムシフト視聴率がある。だが、今回はあえて世帯視聴率で記した。慣れ親しんでいて、分かりやすいからだ。

 誤解している向きもあるが、世帯視聴率は今もテレビ局内で日常的に使われている。制作現場では世帯、個人のどちらの視聴率も見られている。約60年使われた世帯視聴率が急に消えてしまうはずがない。

 そもそも世帯視聴率と個人視聴率全体の数字には相関性があり、2つの数字がかけ離れてしまうことはない。世帯の数値が高い番組は個人でも同じように高い。

 民放界内では「個人視聴率全体の2倍弱の近似値が世帯視聴率」などと言われている。いちはやく個人視聴率を社内の標準にした日テレですら、「(個人視聴率全体が)5.5%というのは以前の世帯視聴率の指標で言うと10.0%前後」(田中宏史編成部長、雑誌「創」1月号)と考えられている。

 世帯視聴率はこれからも使われるだろう。調査しているビデオリサーチは個人視聴率と世帯視聴率が相補関係になっていくと考えている。

 ちなみにテレビ局、広告代理店、スポンサーにとって共通の情報源である放送専門紙「放送ジャーナル」「文化通信」も2つの視聴率を併記している。株主や投資家向けの資料に世帯視聴率のデータを載せていないのも日テレだけだ。

 その日テレも実は社内では世帯視聴率でもトップを取るように号令がかかっている。世帯視聴率で強いテレビ朝日に負けたと思われたくないからである。

 視聴率に関する話で言うと、日テレが何も発表していないのにもかかわらず、「恋はDeepに」が低視聴率によって6月9日放送の第9話で打ち切られたと一部で報じられた。だが、これは誤解にほかならない。

 このドラマの全話平均世帯視聴率は8%を超えている。このところの日テレの同放送枠の連ドラは全話平均世帯視聴率が10%に届かない作品ばかり。このドラマが打ち切りになるのなら、みんな打ち切りだ。他局も打ち切りドラマだらけになる。

 なにより、日テレ内に「恋はDeepに」が打ち切りになったという声がない。また、過去の歴史を踏まえると、民放の連ドラの打ち切りラインは世帯視聴率で5%以下。5%を割り込むと、高い制作費を負担しているスポンサーが黙っていないとされてきた。

 一方、このドラマは総合視聴率なら14%以上もある。打ち切ったら、そのコストのほうが高くなってしまう。

 打ち切った場合、代替番組を制作しなくてはならない。人手がいる。時間もかかる。スポンサーも集めなくてはならない。その上、代替番組がコケたら悲惨だ。

 過去の名作ドラマの再放送を望む視聴者がいるかもしれないが、再放送はスポンサーから制作費を取れないので、いくら視聴率が良くたって、ほとんど利益にならない。

 また、打ち切る場合、すべてのスポンサーとネット局を納得させなくてはならず、簡単ではない。日テレ内だけで済ませられる話ではないのだ。

 16日には同じ放送枠で特別編「恋はもっとDeepにー運命の再会スペシャルー」が放送された。打ち切りドラマの特別編がつくられた前例はない。打ち切りが事実なら、火に油を注いでしまうことになるのだから。

 同じ5月31日~6月6日の総合視聴率のトップはNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(5月28日放送分)で23.0%。リアルタイム視聴率が17.2%でタイムシフト視聴率は7.4%だった。

 一方、バラエティでは「ポツンと一軒家」(朝日放送、テレビ朝日系)が18.7%で5位に。ただし、タイムシフト視聴率は2.2%しかない。この番組を録画して見ている人は少ない。それでも総合視聴率が上位なのはリアルタイム視聴率が16.7%と高いからだ。

 誰もが高視聴率であることを知っている「一軒家」だが、総合視聴率なら「ドラゴン桜」「イチケイのカラス」のほうが上なのである。

 ドラマは見られている。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月17日掲載

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