平井大臣の「死んでもNECに発注しない」発言 裏にはIT利権を巡るどす黒い駆け引き

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

「NECには死んでも発注しない」「ぐちぐち言ったら完全に干す」――。平井卓也デジタル改革担当大臣の会議での“恫喝”発言を、6月11日の朝日新聞朝刊が「スクープ」した。大手新聞デスクによると、

「NECを“恫喝”していると批判された発言は、内閣官房IT総合戦略室のオンライン会議上でのことです。内輪の会議ということもあってか、平井さんらしいモノの言い方でダイレクトにNECを批判していました。文春砲ならいざ知らず、朝日はご丁寧にも入手した会議の音声データまで公開したので、平井さんはすぐさま発言の事実を認めざるを得ず、釈明に追われたのです」

 同日の記者会見で平井大臣は、「(発言相手のIT室幹部は)10年来、私が一緒に仕事をしてきた仲間でございますので、非常にラフな表現になったなとは思います。表現はやはり不適当だなと思いますが、今後気をつけていきたいと思います」と、平身低頭していた。

発注の事実を知らなかった

 発言の内容はどのようなものだったのか。公開された音声データを聞いてみよう。

「デジタル庁はNECには死んでも発注しないんで。場合によっちゃ出入り禁止にしなきゃな。このオリンピック(アプリ)であまりぐちぐち言ったら完全干すからね。一発遠藤のおっちゃんあたりを脅しておいた方がいいよ。どっかさ、象徴的に干すところを作らないとなめられちゃうからね。運が悪かったってことになるね。やるよ本気で、やる時は。払わないよNECには基本的には」

 ちなみに、「遠藤のおっちゃん」というのは、遠藤信博NEC会長のことである。IT総合戦略室の関係者が解説する。

「9月1日に創設される『デジタル庁』が発注しないと語るあたり、平井さんはすっかり『デジタル大臣』気取りなんだなと思いました。それはご愛嬌としても、東京オリンピック・パラリンピック用に開発が進んでいた、いわゆる『オリパラアプリ』に73億円もの予算を付けたことに、平井さんは怒っていたのです」

 国会では、1月に政府が契約した「オリパラアプリ」が高過ぎるのではないかと、野党から厳しく追及されていた。前出の関係者が続ける。

「平井さんは担当大臣なのに、実は質問されるまで発注の事実をまったく知らなかったんです。首相補佐官の和泉洋人さんがIT室の一部のメンバーと、業者選定や金額の割り振りまで決めていました。しかも、観戦客を含めて海外から来る120万人が使用するという触れ込みだったのに、海外からの観戦客はゼロになりましたから、アプリは無用の長物と化していたのです」

 4月になって73億円の予算を38億円に減額したと公表したが、それにNECが抵抗したという。NECが担当した顔認証アプリの開発はすでに終わっていたにもかかわらず、後から値切られる格好になったため、「ぐちぐち不満を言った」ようだ。

オリンピック後は別アプリへ移行

 だが、「平井大臣の発言には、もっと他に意味がある」と語るのは、IT業界に詳しいジャーナリストだ。

「オリパラアプリの受注はNTTコミュニケーションズ(NTTコム)やNECなど5社のコンソーシアムで、NECの取り分はわずか4億9500万円。NTTコムの45億7600万円と比べると微々たるものです。それなのになぜNECを“恫喝”したのか。実は38億円への減額は形ばかりで、オリンピック後はその冠を外し、出入国管理に使う別のアプリとして継続することにしたのです。オリパラアプリの契約期限は来年1月までですが、来年以降も継続してカネが落ちるようにしてやった。それなのにNECはぐちぐち言うのか、というのが、平井さんの本音なのではないでしょうか」

 デジタル庁になったら発注しないぞ、という発言の意味はそこにある、というのだ。とすると、早くもデジタル大臣はIT利権の分配役としておいしいポストだということを意味する。前出のIT室の関係者は言う。

「むしろNTTコムの方が問題です。再委託先に仕事の大半を投げていて、その金額は13億円あまり。そのほか、プロジェクトの管理だけで、別途10億円の予算を付けています。“管理”とは名ばかりで、幹部連中が集って、進行状況を会議で話しているだけなのですが……。それで満足したのか、NTTコムの方は減額要求にはすぐに応じたと聞いています」

 物分かりが良いNTTコムに比べて、ということでもあるらしい。大手紙の厚生労働省担当記者は、NECに怒った理由が他にもあるという。

「NECは厚労省が2020年7月に発注したワクチン接種円滑化システム、いわゆるV-SYS(ヴイシス)を随意契約の20億5876万円で受注しています。ところが、そのV-SYSの出来が悪く、ワクチン配布が大混乱しました。平井大臣の“恫喝”発言があった会議は、4月上旬に開かれました。まさにV-SYSがトラブルで止まったのとほぼ同時期のことです。オリパラアプリで文句を言える立場なのか、と平井大臣は言いたかったのではないでしょうか」

 図らずも外に漏れた平井大臣の「率直な発言」の裏には、どうやら業界の深い事情があったようだ。

デイリー新潮取材班

2021年6月15日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。