失明の危機も…急増する加齢黄斑変性の早期発見法 初期症状、検査方法は?

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眼球に薬剤を注射

 こうした検査によって「滲出型」の加齢黄斑変性と診断されると、すぐに治療を開始する必要がある。

 現在、その治療の主流となっているのが「抗VEGF療法」だ。

 前述したように、新生血管はVEGFという物質が“血管を新しく作ってくれ”というシグナルを出すことによって生じる。「抗VEGF療法」は、そのVEGFの働きを抑える薬を眼球に注射して、新生血管を縮小させる療法のことを指す。

「眼球に注射するというと、針が目の前に迫ってくるイメージがありますが、白目の部分に注射するため患者に針先は見えません。また点眼薬の麻酔をするので、痛みもほぼ感じない。治療時間も1分間ほどで、あっという間に終わり、注射後、見え方に問題がなければそのまま帰宅できます」(同)

 副作用や合併症については、まれに感染症の眼内炎を起こすことがあるため、治療後数日は経過を見守らなければならない。また、眼球内に薬剤を注入するので、眼圧が上昇することがあり、緑内障がある場合は注意が必要となる。

 この「抗VEGF療法」には、新生血管の発生と成長を阻む働きのほか、血管から液体成分が漏れ出すのを防ぐ効果がある。

 基本的に、加齢黄斑変性で失われた機能はもとに戻らないが、視細胞があまりダメージを受けていなければ、黄斑部のむくみや変形が解消されて、視力が改善するケースもある。だからこそ、早期発見・早期治療が重要になるのだ。

 ただし「抗VEGF療法」は新生血管を縮小させる効果はあるものの、根本的な治療法とは呼べず、しばらくすると新生血管がまたできあがってしまう。

 そのため、継続した治療が必要になり、通常は月1回の注射を3回続け、その後は効果を確認しながら治療の間隔を延ばしていくという方式をとる。一人ひとりの回復状況に合わせて適切な治療間隔を判断するが、なかには薬がよく効いて「抗VEGF療法」をやめられるケースもあるという。

 加えて、症状によっては、「光線力学療法(PDT)」という治療を行う場合がある。これは新生血管に集まりやすい、特定の光に反応する性質を持った薬を点滴し、弱いレーザーを照射して新生血管を閉塞させるというもの。単独で行われることもあるが、「抗VEGF療法」と併用されることが多い。

 さらに、新生血管が中心窩に及んでいない場合は、レーザーで新生血管を焼き潰す「レーザー凝固」という治療法も。いずれにせよ、治療後は定期的な検査で状態を確認し、必要に応じて再度の治療を行っていく。

「抗VEGF療法」が日本で承認されたのは2009年。以降、視力が改善するケースが大幅に増加した。デンマークでは失明患者数が半減したという報告すらあるのだ。

「現在、抗VEGF療法に用いられる抗VEGF薬は3種類あります。これまで使われてきた“ルセンティス”“アイリーア”に加え、昨年には“ベオビュ”という薬が承認されました。病状に応じて使う薬を決めますが、患者さんによって薬の作用の仕方が異なります。ある薬が効かなければ、別の薬を試すことができるようになったわけで、三つの薬の選択肢は大きなメリットになります」(同)

 抗VEGF療法は安全性の高い治療法で、体への負担が小さいのが特徴だが、唯一の難点は、薬価が高額なこと。健康保険の3割負担でも、費用は1回5万円程度にのぼり、経済的な負担は大きい。医療費が高額になった場合は、「高額療養費制度」などの活用を考えてもらいたい。

 新薬については、数種類が臨床試験に入っており、今後はより安価な後続医薬品(バイオシミラー)や、作用期間が長く、注射の回数も減らせる薬など、患者の負担軽減が期待されている。また、「iPS細胞」を使った治療も実用化に向けた研究が進み、現在は有効な治療法がない「萎縮型」についても多数の研究が進められているという。

 加齢黄斑変性には、遺伝的になりやすい体質があることもわかっているが、最大の要因はやはり“加齢”に他ならない。

 どんな人でも年齢を重ねるにしたがって黄斑部が徐々に変化していき、発症の可能性が高くなる。つまり、高齢になれば誰もが罹りうる病気なのだ。

 その上で、加齢のほかにも、加齢黄斑変性の発症に関わる危険因子は存在する。それを避けることも予防法と呼べるだろう。

誰にでも起こりうる病

「可視光のなかでも波長の短い紫や青の光には視細胞を傷つける作用があります。そのため、海水浴やゴルフを趣味にするなど、屋外で長い時間を過ごす人は注意が必要。そうした有害な光線を遮るレンズの装着は加齢黄斑変性の予防に有効となります。サングラスを常備した方がよいでしょう」

 また食生活のバランスの乱れも加齢黄斑変性を引き起こす要因のひとつだ。

「黄斑部には光が集中するため、酸化ストレスが起こりやすい。そこで、抗酸化作用のあるほうれん草やにんじん、ブロッコリーなど、緑黄色野菜を積極的に摂取するのも効果的です。食事で十分な栄養素を取れない方には、ビタミンCやビタミンE、ルテイン、亜鉛などが入ったサプリメントを摂取してもらいたい」(同)

 加えて要因に挙げられるのは喫煙。喫煙も酸化ストレスにつながり、血管を傷めてしまう。喫煙者は非喫煙者に比べて発症の危険性が高いことが確認されているので、禁煙を心がけたい。

 要するに、規則正しい生活やバランスがとれた食生活など、生活習慣を見直すことで加齢黄斑変性は予防ができ、改善することもできるというわけだ。

「加齢黄斑変性は、早期発見して適切に治療を行えば、決して失明につながるような恐ろしい病気ではありません。私のところに治療に訪れる患者さんは、視界のゆがみに気づかず、かなり症状が進行してから受診する人も少なくありません。そうならないためにも、ときどき片目ずつ見え方を確認し、まっすぐな線がゆがんで見えたり、左右の目で見え方が違ったりしたら速やかに眼科を受診してほしい。今後は治療法も進歩していくので、あきらめることなく、希望を持って治療を受けてほしいと思います」

 とアドバイスを送る飯田教授。

 加齢黄斑変性は、高齢化にともなって誰にでも起こりうる目の病。必要以上に恐れる必要はないが、QOLを維持するためにも、生活習慣の改善と早期発見に努めたい。

上條昌史(かみじょうまさし)
ノンフィクションライター。1961年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退。編集プロダクションを経てフリーに。事件、政治、ビジネスなど幅広い分野で執筆活動を行う。共著に『殺人者はそこにいる』など。

週刊新潮 2021年6月10日号掲載

特集「“お先真っ暗”では老後が大変 早期発見・早期治療できなければ『失明』危機  “目のアルツハイマー”『加齢黄斑変性』の恐怖」より

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