会社を強くする「人事」の極意――西尾 太(フォー・ノーツ代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

佐藤優 佐藤優の頂上対決 ビジネス 2021年6月10日号掲載

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 働き方改革にジョブ型雇用の導入、そしてDXへの対応――。さらにコロナ禍で急速に進んだテレワークも加わり、いま「働き方」が大きく変わろとうしている。この状況下で組織を最適化するには、どうすればよいのか。人事のプロが説く、会社の成長力や業績に直結する時代の人材育成活用術。

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佐藤 西尾さんは人事のプロフェッショナルとして知られています。これまで1万人以上の採用・昇格面接、管理職や人事担当者の研修を行ってこられたとうかがいました。

西尾 就職して30年以上、ほぼ人事の仕事をしてきましたね。まず最初に入社したいすゞ自動車の配属先が人事部門だったんです。その後、転職してリクルートの人材総合サービス部門で働き、TSUTAYAを展開するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)と、クリエーターエージェンシーの草分け、クリーク・アンド・リバー社では人事部長を務めました。

佐藤 独立されたのはいつですか。

西尾 2008年です。フォー・ノーツという会社を設立し、400社以上で人事制度の構築や教育研修に携わりました。

佐藤 企業を取り巻く環境が大きく変わるなか、人事への取り組みが企業の成長力や業績に大きく影響を与える時代になった、と指摘されていますね。

西尾 はい。働き方改革にテレワークの普及、ジョブ型雇用の導入、DX(デジタル・トランスフォーメーション)への対応、そして副業の容認など、働き方や人事に関する話題は尽きることがありません。これにいかに対応するかで会社の将来が決まってきます。

佐藤 労働環境の変化は、コロナ禍でますます強まりました。

西尾 昔の人事部の仕事は、正社員の採用や教育、評価、給与制度だけを考えていればよかったんです。でもいまは非正規雇用が増え、さらにアウトソーシングやクラウドワーカーなど、雇用契約以外の契約も増えています。さらに人に代わってAI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション=事務作業の自動化)が担う領域も広がってきた。いま企業は、こうした動きにも適切に対応していくことが求められています。

佐藤 それを西尾さんは「第4次人事革命」と呼んでおられるのですね。

西尾 その通りです。

佐藤 いまが第4次なら、人事戦略には変遷があったということですね。現在に至るまで、どのように変わってきたのでしょうか。

西尾 第1次人事革命は昭和50年代に起きます。それまでの高度成長を支えたのは、年功序列や終身雇用でした。この時代、会社は社員を課長、部長などの「ポスト」で処遇してきました。植木等さんが出ている昔の映画を見ると、課長になったら、家族中で大騒ぎしているんですね。

佐藤 昭和のサラリーマンにとって出世は一大イベントです。

西尾 それが安定成長期に入り、オイルショックが起きると、企業が成長しなくなります。すると、ポストが増えなくなる。会社から見れば、ポストで社員を処遇できなくなったということです。そこで第1次人事革命が起きて「能力」で処遇するようになった。能力があるという前提で、45歳や50歳なら部長級の給料を出すことにしました。これを「職能資格制度」と言います。

佐藤 まだ会社の業績は悪くなく、それで回っていたわけですね。

西尾 そのあとバブルになりますから。でも平成に入ってバブルが弾けてしまうと、能力は高いかもしれないけれど成果を出さないオジサンたちは会社の大きな負担になる。もう結果を出さない人はいらないと、各社は一気に「成果主義」に舵を切ります。同時に中高年のリストラも始まります。これが第2次人事革命です。

成果主義の副作用

佐藤 第2次は日本経済の失われた30年の背後で進んでいくのですね。

西尾 当時、この成果主義と相まって導入されたのが「年俸制」です。プロスポーツ選手のように年収全体を「洗い替え方式」で決めていく。つまり去年がいくらかは関係ない。だからこれは年収を乱高下させる仕組みでした。

佐藤 それが行き過ぎると、人生設計ができなくなります。

西尾 その通りです。そしていまで言う、ジョブ型雇用を導入した企業もありました。「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」により職務を明確にし、人ではなく仕事に焦点を当てるこの仕組みは、年功序列を否定するものとして合理的だと考えられていました。ジョブ型は、能力主義、成果主義と並べて、職務主義という言い方もします。

佐藤 この時にジョブ型雇用に切り替えた会社もあるのですね。

西尾 いまになって経団連や日経新聞が連日、ジョブ型ジョブ型と騒いでいますが、バブルが弾けたあとの一時期、それが持て囃されたことがあったのです。

佐藤 しかし定着はしなかった。

西尾 そうです。第2次人事革命は平成初期に始まり平成10年代の初めまで続きますが、成果主義においては、わざと目標を低く設定したり、自分さえ成果を出せばいいという風潮を生んでチームワークを阻害したりと、さまざまな問題が浮上しました。また、ジョブ型もローテーションで社員を育成する日本企業には馴染みませんでしたし、年俸制は生活設計ができず、社員の不安を増大させるだけで、結局止めてしまう企業が多数出てきました。

佐藤 揺り戻しが起きたのですね。

西尾 結局、バブル後に導入された人事施策の多くは頓挫します。その間に、社員の会社に対する信頼はどんどん失われ、日本は社員が会社をもっとも信頼していない国になっていきます。

佐藤 成果主義の副作用には激しいものがあった。

西尾 成果主義だけではうまくいかない。かといって昔の能力主義には戻れない。そこで次に多くの企業は、成果を出すための「行動」に着目します。これが第3次人事革命になります。

佐藤 この流れはゲーテの『ファウスト』とそっくりです。ファウストは物語の始めの方でギリシア語版聖書をドイツ語に訳すのですが、「はじめにロゴスありき」のロゴスを、最初は「言葉」と訳すんです。でも言葉など信頼できない。だから次に「心」と訳す。しかし心も信頼できない。そして3度目には「力」と訳します。でもそれもしっくりこない。そして最後に「行動」と訳して、よしとするんです。

西尾 それは面白いですね。

佐藤 哲学者の田辺元(はじめ)は、これを次のように分析します。最初の「言葉」はギリシアの思想、「心」はヘブライの思想で、「力」は成果を導き出す近代の思想、最後の「行動」は現代を表す思想だと。

西尾 言葉と心は、やる気に通じますよね。結局、昔から人間は同じようなことを考え、たいして進化していないということですね。

佐藤 そう思います。優れた分析は、どんな分野からアプローチしても、哲学の根本部分にまで到達していきます。その好例ですね。

西尾 ありがとうございます。そして第4次人事革命は、この流れを踏まえたものでなければなりません。いま私たちで作っている人事制度は、行動と成果の両方で評価します。行動したからといって成果が出るとは限らないし、頑張らなくても成果が出ることはある。だからその両方を見ましょうということです。行動は基本給、成果はボーナスといった形で給与体系を整理しています。

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