「浮世絵師は俳優と似ている」と演じて気づいた… 柳楽優弥が語る「葛飾北斎の魅力」

エンタメ 芸能 2021年5月28日掲載

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 俳優・柳楽優弥(31)がデビュー作の主演映画「誰も知らない」によって、史上最年少の14歳でカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を獲得したのは2004年5月だった。あれから17年。この間の心模様や新作の主演映画「HOKUSAI」(橋本一監督)などについて柳楽に聞いた。

 柳楽はカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞した直後、文部科学大臣表彰も受けた。日本中から拍手を受け、視線を集めた。

「今になって振り返ると、本当に凄いことだって思うんですけど、当時は子供でしたから、いろんなメディアで取り上げていたただいて、こんなにテレビとかに出られるんだと思いましたし、自分のことじゃないような感覚でした」(柳楽、以下カギ括弧は全て柳楽)

 デビュー作に出演するやいなやいきなり世界的評価を受けた。まるで映画のようなサクセスストーリーだったものの、注目されることによる重圧もあったようだ。考えてみると、そうだろう。突然、自分の名前が連日のように新聞・雑誌に載るようになり、一挙一動が注目されるようになったのだから。

「過去を意識して、求められている理想の自分であらなければいけないと思っていました」

 真面目な性格ということもあり、カンヌの評価が間違っていたなどと言われぬように努力を重ねたのだ。

 その甲斐あり、主演映画「包帯クラブ」(2007年)などが高い評価を受けてきた。そして同じく主演した「ディストラクション・ベイビーズ」(2016年)は毎日映画コンクールの男優主演賞ノミネートなど賞賛を得た。

 それから現在までの17年間は長かったのか、それとも短かったのだろうか。

「振り返ればあっという間な感じもしますけれど、長かったですね。受賞したことは、もちろんうれしいことでし、それによって、いろいろな出会いもありました」

 大きな快挙を成し遂げた柳楽にも内に秘めた葛藤があった。だが、その経験があったからこそ、実力派俳優へと成長していったのだろう。別の誰かになりきる俳優にとって、すべての経験はプラスになると信じられている。

新作では天才浮世絵師に

 現在の柳楽の俳優業は順調そのもの。5月28日には青年期の葛飾北斎に扮する主演映画「HOKUSAI」が公開される。江戸時代後期の天才浮世絵師の生涯を描く作品だ。

 俳優・柳楽の大きな魅力は、演技の幅が広いこと。静かで知性的な男から、手が付けられない荒くれ者までリアルに演じる。この作品では、一心不乱に絵筆を握り続けた天才浮世絵師になりきった。

 柳楽は北斎という人物に強く魅力を感じたという。それは、自分と重なり合う部分があるからなのかもしれない。

「北斎には天才というイメージがあったんですが、実際には努力も重ねていて、青年期には約3万点もの浮世絵を毎日描き続けていたそうです。また、自分の絵の中に『自分らしさ』を見つけるため、悩んだり苦しんだりした時期もあった人でした。もがきながらも強い信念を持って描き続けたからこそ、世界的に知られるようになりました。北斎が努力の人でもあるということを知り、勇気をもらえました」

 北斎になりきるため、絵筆の特訓を積んだ。

「芸大の先生が監修で付いてくださり、数か月練習した後、撮影に入りました」

 映画では柳楽が本物の浮世絵師となり、絵を描いているように見える。

「練習の成果もあり、少し描けるようになりました(笑)」

 北斎は19世紀のヨーロッパでジャポニズムブームを巻き起こし、ゴッホやモネ、ゴーギャンらにも影響を与えた。半面、青年期は謎に包まれている部分が多い。映画化にあたってスタッフたちは調査と研究を重ねた。

「青年期の北斎は、あまり情報が残されていないため、調べれば調べるほど分からなくなる人物でした。ある意味、開き直ってやるしかない部分もあって、監督と話し合い、この映画ならではの北斎像を作り上げていきました」

 ミステリアスなところも北斎の魅力だろう。ちなみに北斎の名前は北極星から来ている。
 北斎を演じるうち、浮世絵師も俳優も似ているところがあると気づいたという。「もっと上を目指し、うまくなりたい」という思いを抱いている点だ。

「自分の才能をもっと広く世界に知らしめたいというモチベーションは、絵を描く人でも、俳優でも、アーティストでも、誰しもみんなにあると思うんです。だからこそ、作品について厳しい評価を下されることがあったとしても、折れずに頑張っていく」

 老年期の北斎は田中泯(76)が演じる。柳楽とダブル主演となる。北斎を支えた版元の蔦屋重三郎は阿部寛(56)が演じる。そのほかに永山瑛太(38)、玉木宏(41)、青木崇高(41)、瀧本美織(29)らが登場する。

 今年冬には同じく柳楽が主演するNetflixの映画「浅草キッド」が配信される。こちらはビートたけし(74)の自伝が原作で、柳楽はたけし役を演じる。ほかにも今年は2本の主演作品がある。映画「太陽の子」と日本テレビの土曜ドラマ「二月の勝者―絶対合格の教室―」(10月期、土曜午後10時)が控えている。

「浅草キッド」については、柳楽は中年期以降のたけしも演じる。年齢のギャップはどうする?

「特殊メイクをするんです。漫才やタップの練習もしました」

 たけしの師匠の故・深見千三郎にはダブル主演の大泉洋(48)が扮し、キヨシはナイツの土屋伸之(42)が演じる。脚本は劇団ひとり(44)が書いた。

「ツービートの漫才を再現するのですが、これが本当に難しかったです。テンポがとても速くて、技術的にも普通の漫才と違うようなんです。松村邦洋さんに数日間かけて教えていただきました。実在する方の魅力を自身の演技で伝えるということは、簡単なことではないなとあらためて感じました」

 素顔の柳楽は冷静で静かに話す。そう本人に伝えると「実は熱いところもあるんですよ」と笑った。

「趣味で武道もやっています」

 趣味は昨年、1つ増えた。船だ。1級小型船舶免許を取得した。

「去年はコロナ禍で映画の公開や撮影が延期になり、悔しい思いをしましたが、思いがけず生まれた時間で船舶免許を取ったんです」

「HOKUSAI」も本来なら昨年5月に公開されるはずだったのだ。

 さて、今後の抱負は?

「30代ということを意識せず、あらためてゼロからスタートする気持ちで新しい作品と向かい合いたいですね」

 今後も注目である。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集