ドミノの新商品「ピザライスボウル」 ご飯の上にピザの具…食べてわかった狙いと課題

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 宅配ピザ大手のドミノ・ピザから、5月19日に一風変わったメニューが登場した。その名も「ピザライスボウル」。バターライスの上にピザの具を乗せたライスボウル(丼)で、おひとり様向けメニューとして売り出されている。なぜ、ドミノ・ピザがご飯ものを売り出すのか、そもそもドリアとは違うのか。流通アナリストの渡辺広明氏とフードライターの適掃夫氏が、実食対談を行った。

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渡辺広明(以下渡辺):今日はドミノ・ピザの新商品「ピザライスボウル」を全7種類、注文してみました。もうすぐ届くはずです。

適掃夫(以下掃夫):腹ペコとはいえ3人(担当編集者含む)で7人前食べられますかね?

渡辺:おいしければイケるんじゃない? 僕は少食だけど(笑)。

掃夫:あ、玄関のチャイム鳴りましたね。受け取ってきます。どれどれ、「ドミノ・デラックス」「ガーリック・マスター」「炭火焼チキテリ」「高麗カルビ」「炭火焼ビーフ」「シーフード・スペシャル」「5種のチーズ」……、ほんとピザのまんまですね。

渡辺:箱を開けると、そんなに大きくない。良かった。

掃夫:いやいやフツーに注文して食べる人からしたら、大きいほうがいいんじゃないですか? 値段もそこそこ張るんだから。

渡辺:確かに一番安いのでテイクアウト799円~、デリバリー1099円~。安いとは言いがたいね。

掃夫:とりあえず王道っぽい「ドミノ・デラックス」から食べてみましょう。

渡辺:こ、これは……、ピザだ。

掃夫:渡辺さん、感想が浅すぎますよ。ごはんがもう少しベチャっとしてるかと思ったんですけど、炊き加減が上手ですね。パラパラのバターライスにして、ご飯粒同士がくっつかないよう、工夫されてます。

渡辺:ピザの具とごはんがこんなに合うとは思わなかった。「ガーリックマスター」はどうかな。こっちもバターライスの上にトマトソースをのっけて、チーズ、具材と重ね方は同じなんだね。

掃夫:はい、ピザと完全一致してます。どうせならガーリックライスにしてほしいですけど、そんなことしたらコスト上がっちゃうからできないのでしょう。

渡辺:そもそもの話を聞いていい? これってドリアとどう違うの?

掃夫:ドリアも“日本食”だからあんまり違いはないかもしれません。

渡辺:サイゼリヤに「ミラノ風ドリア」があるからイタリア料理だと思ってた。

掃夫:ナポリタンとかオムライスと一緒です。今のドリアは横浜のホテルニューグランドの初代総料理長のサリー・ワイル氏が考案したというのが定説です。ホテルのホームページに詳しく載ってますよ。あと、イタリア人はそんなにお米を食べなくて、ちょっと高級なレストランでリゾットを食べるくらいだそうです。

渡辺:なるほど。ということは、ピザライスボウルはあえてドリアを名乗っていないと考えることもできるね。

やっぱり高い……

掃夫:ドリアでくくると、渡辺さんが名前を出したようにサイゼリヤの看板商品というイメージが強い。また、冷凍食品でも古くからの定番で、どちらにせよ高いイメージがありません。サイゼのミラノ風ドリアなんて税込み300円だから、デリバリー注文したピザライスボウルの約4分の1の価格ですよ。

渡辺:やっぱりちょっと高いよね。ピザライスボウルという命名は「ドリア」というワードを使わない戦略な気がする。でも味はおいしいし、具材がたっぷりのっていて見た目も満足できるからヒットする気もするんだけど。この「炭火焼チキテリ」なんてマヨネーズものってて、おいしいじゃん。

掃夫:テリヤキチキンはデリバリー業界にはなくてはならないピザメニューなんですよ。なにせお子様人気がすごいですから。

渡辺:僕の味覚がお子様って言ってる!?

掃夫:そこまでは言ってません。僕もこの味好きですし、また食べたいと思うけどやっぱり値段が高い気がします。ピザより安いかもしれないけど……。

渡辺:デリバリーピザ業界は高利益体質なので、価格設定が高めになりがちなんです。このライスボウルも、高いピザと同じメニュー表で売ることを前提にしているから1000円を超えてしまう。でも味はイケてるから、いっそ思い切って丼屋にして提供したらいいと思う。

掃夫:丼ってことは牛丼チェーンと張り合うってことですか?

渡辺:女性がひとりで食べられる場所って意外とないから、一番オーソドックスな「ドミノ・デラックス」ライスボウルを500~600円で食べられるようなファストフード店があったら繁盛するんじゃないかな。ご飯もフツーの白米だけじゃなく、玄米や雑穀米も用意してヘルシー訴求もできるでしょ。

掃夫:「炭火焼ビーフ」を丼でいっぱい食べられるなら700~800円出してもいいかも。

渡辺:僕も同意見。現状の値段設定のままでは、とりあえず1回は食べてみるかもしれないけど、リピーターが生まれないと思うんだよね。あと、コロナ禍で多くの飲食店がデリバリーやテイクアウトを始めたから、これまではデリバリーという強固な牙城の中に40年近く君臨していた宅配ピザ業界も安住していられないし、発想を変えていかないといけない。おそらくピザライスボウルにはファミリーやパーティ需要を取り込んできた宅配ピザとはちがう、「個食」を取り込もうという明確な狙いがある。それはそれで評価するけど、現時点ではピザのサイドメニューと変わらないんじゃないかと思う。

掃夫:ひとつお聞きしたいんですけど、コロナの混乱が落ち着いた後も飲食店はテイクアウトやデリバリーを続けると思いますか?

渡辺:ウーバーのような仕組みが根付いてきたから基本的には続くと思う。ラーメン屋のデリバリーみたいな、店のおいしさを維持できないようなものはやめるでしょうけど。

掃夫:なんだかんだ話しているうちに全部食べちゃいましたね。せっかくなのでベストとワーストを決めましょうか。僕の最高評価は「炭火焼チキテリ」。てりやきソースの甘さとマヨネーズがバターライスにマッチしていて文句なし。健康を気にしないジャンクな味だけどうまい! ワーストは「シーフード・スペシャル」。ホワイトソースがそこまでコクが豊かじゃないのと全体的にぼんやりとした味でした。このシーフードの具材で食べるならパエリアのほうが絶対うまいと思います。

渡辺:僕は「チキテリ」と迷ったけど「炭火焼ビーフ」。メニュー写真ほど肉はのっていなかったけど満足感があった。で、一番高価格な「5種のチーズ」(持ち帰り999円~、デリバリー1299円~)がワースト。5種のチーズにこだわったかわからないけど“チーズご飯”に1000円超はありえない!

掃夫:僕も“チーズご飯”はリピートしないけど、ピザでも「5種のチーズ」を使ってる「5種のチーズフォンデュクワトロ」(R3599円、L4200円、税込みデリバリー価格)が高いほうのピザだから、こういう値段設定になったんでしょうね。

渡辺:それは宅配ピザ屋の論理であって消費者には納得してもらえない。ピザライスボウルが成功するとしたら、どれだけピザ屋のプライドを捨てられるかがカギになると思う。もっと言うとサイゼリヤみたいに300円のミラノ風ドリアでも稼げる仕組みづくりだね。

掃夫:腹ペコの成人男性だったらひとつじゃ足りなさそうだし、もうちょっとボリュームがあってもいいかもしれません。たださすが宅配専門だと思ったのが、ピザライスボウルが入っている箱にきっちりフォークが収まるように加工されていたところです。

渡辺:僕はフォークより先が割れているスプーンのほうが食べやすいと思ったけどね。

掃夫:それは確かに!

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、デイリースポーツ紙にて「最新流通論」を連載中。

適掃夫(てき・ぱきお)
都内に住む30代サラリーマン兼フードライター。小学生のとき、母親の手伝いで料理に目覚め、兄の夜食を作るようになる。大学時代にはカジュアルイタリアンの厨房でアルバイト。就職後は自炊することがなかったが、数年前に働く妻と結婚して家事に奮闘。猛スピードで掃除洗濯をこなす様子から妻に「テキパキオ」と名付けられる。PB食品の食べ比べがスーパーの売り場徘徊が趣味。蛇口とシンクを磨くのが好きで、行きつけの飲み屋の閉店作業に加わりがち。ツイッターは「@tekipakio」

デイリー新潮取材班編集

2021年5月25日掲載

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