吉永小百合主演「いのちの停車場」、コロナ禍でも公開に踏み切った東映の事情

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 76歳になった国民的女優・吉永小百合が主演する映画「いのちの停車場」が5月21日に公開された。吉永は在宅医療に携わる医師役。そんなこともあり、日本医師会、日本看護協会などが後援しているものの、コロナ禍で医療現場は危機的状況。また緊急事態宣言下で閉じている映画館も多い。集客に不安はないのか?

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 緊急事態宣言下にある都内ではシネコンが休業中。このため、東宝と松竹は新作の公開を延期したが、東映が配給する「いのちの停車場」は予定通りに公開された。強気だ。

 もっとも、その裏にはこんな計算があるという。

「東京、大阪の映画館が興行成績全体で占める割合は全体の3割に過ぎません。それ以外の地域が7割を占めるのです。東映は3割に目をつむり、7割に賭けた」(スポーツ紙映画担当記者)

 ほかにも引くに引けない事情がある。

「小百合さん主演の大作だけに宣伝費が相当使われています。公開を延期したら、新しい公開日に合わせ、また宣伝しなくてはなりません」(同・スポーツ紙映画記者)

 吉永は5月14日、笑福亭鶴瓶(69)がホストを務めるトーク番組「A-Studio+」(TBS)に出演した。この映画のPRも兼ねてのことだったのは言うまでもない。公開日が延期された場合、また吉永のテレビ出演を考えなくてはならないが、それはスケジュールの調整が難しいのだ。

 吉永の映画出演は122本目だが、医師役は初めて。それに感激したわけではないだろうが、日本医師会や東京都医師会、日本看護協会などが後援し、全日本病院協会、全国薬剤師・在宅療養支援連合会などが推薦している。オール日本医療界のバックアップを得ている映画と言っても過言ではない。

 もっとも、コロナ禍で医療現場は危機的状況。医療関係者が映画館へ足を運ぶのは難しいのではないか。

「東映側も医療関係者が気軽に映画を楽しめるような状態でないのは分かっていて、集客への悪影響が出るのは間違いないと覚悟しています」(同・スポーツ紙映画記者)

 ちなみに日本医師会の会長が中川俊男氏(69)なのはご存じの通り。まん延防止等重点措置中に政治資金パーティーの発起人となったり、昨年8月に高級寿司店でお忍びデートをしていたことが発覚したりで、随分と反感を買った。

 本来なら後援したこの映画を会長として観なくてはならない立場だが、マイナスのイメージをもたらしてしまいそう。東映としては“自粛”してほしいというのが本音ではないか。

 製作委員会には朝日新聞、読売新聞の名前が並ぶ。言うまでもなくライバル関係にあるが、映画製作での呉越同舟は珍しいことではない。それより注目は同じく製作委員会に名を連ねる木下グループである。木下工務店などを擁する企業グループだ。

「ここの出資額が一番大きいと言われている」(映画ライター)

 同グループの事業の中にはPCR検査事業もある。一般向けの事業だが、撮影中は関係者全員のPCR検査が行っていた。

 それにとどまらない。昨年9月の製作発表時には報道陣全員(86人)の検査も実施。同社のクイック検査は最短15分で結果が出る。失礼ながら、中川会長より頼りになるのではないか。

 この映画の企画者でもある木下グループの木下直哉氏は株式会社木下工務店代表取締役兼グループCEO(55)で、昨年11月に逝去した東映グループ会長(当時)・岡田裕介氏の愛弟子と言われた。

「なぜ木下工務店を擁するグループのトップが東映の会長の弟子なのか」と訝しむ向きもあるだろう。同グループには映画製作と配給を手掛けるキノフィルムズ、映画館を運営するkino cinémaがあり、木下氏は「映画界の風雲児」と呼ばれているのだ。その名を知らぬ者は映画界にいないと言っていい。

「さまざまな映画に出資しています」(同・映画ライター)

 元SMAPの草なぎ剛(46)が主演した「ミッドナイトスワン」の配給もキノフィルムズだった。同じく元SMAPの稲垣吾郎(47)と香取慎吾(44)の映画も多くがキノフィルムズの配給。3人が所属する芸能事務所・CULEN代表の飯島三智氏(63)と木下氏が昵懇の間柄だからだ。

「最近では草なぎさんら3人の関わらないキノフィルムズの映画の宣伝も飯島さんが持つPR会社がやっている。2人の関係は緊密化するばかり。飯島さんの戦略でもあるでしょう。いまだ飯島さんと冷戦状態にあるジャニーズ事務所はテレビ界で絶大な力を誇りますが、映画界にはそう強くない。飯島さんは映画界で人脈を広げ、ジャニーズに対抗できる力を蓄えるつもりでしょう。凄腕です」(同・映画ライター)

 木下氏も凄腕にほかならない。1983年に福岡県立苅田工業高校を卒業し、サラリーマンになるが、1990年に東京で不動産会社のエム・シー・コーポレーションを起業した。

 2004年には債務超過に陥っていた老舗企業・木下工務店を買収。姓は同じだが、木下氏は創業家とは関係ないのだ。ゼロから独力でグループを作り上げた。そして現在では吉永や元SMAPを動かす存在になった。

 もっとも、凄腕だからといって映画を当てられるわけではない。「いのちの停車場」の見込みはどうなのだろう。

「最近の小百合さんの映画はコケる時のパターンが決まっていて、相手役が年の離れた若い俳優だったり、あるいは小百合さんがモテモテという設定だったり、ご本人に忖度するような形にするとウケません。今回は等身大の女性役なので違和感なく見られるはず。感動的なエピソードの連続ですから、そういうものを好む人には向きます」(同・映画ライター)

 ズバリ、当たる?

「ハードルが2つあります。まず、やはりコロナ禍。それと、サユリストの高齢化です。コアな小百合さんのファンは70代以上。映画館に足を運ぶのか辛くなっていると思います。可処分所得が少なくなっているという問題もある」(同・映画ライター)

 だが、東映はたとえ当たらなくても吉永の映画を作り続けるという。

「日本で最後の映画女優なので、その映画を作り続けることが自分たちの使命と考えています。仮に今回の映画が当たらなくても挫けませんよ」(同・映画ライター)

 東映はそんなに余裕のある会社なのか?

「『スーパー戦隊シリーズ』や『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』などが好調ですから。東宝と共同配給し、3月に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』も当たりました」(同・映画ライター)

 最後になったが、ストーリーを簡単に紹介しておきたい。吉永が演じるのは、長く東京の大学病院で救命救急医として勤務してきた白石咲和子。命を救うことを使命としていた。だが、ある問題の責任を取って退職。石川県内の実家に戻る。

 郷里で務めたのは在宅医療専門の「まほろば診療所」。ここには全く違う医療があった。患者の命を救うことより、患者の生き方を尊重する治療が行われていた。

 絶対に他人には看取られたくないという強い夫婦愛で結ばれた患者らと咲和子は出会う。これからの日本の医療の形が問われる物語になっている。

 松坂桃李(32)、広瀬すず(22)らが共演する。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月24日掲載

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