名優「田村正和さん」を偲んで…「古畑任三郎」ファン必見「ベスト5」の作品を紹介

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ベスト3は…

 ここからはいよいよベスト3。第3位は記念すべき第1シーズンからだ。94年6月22日放送の「さよなら、DJ」である。ラジオ番組の人気DJ・中浦たか子(桃井かおり)は出演しているラジオ番組の生放送中に、曲が流れている約3分間を利用しスタジオを抜け出した。そして自身が知っている局の抜け道を全力疾走し、恋人を奪った付き人・沢村エリ子(八木小織)を撲殺する。被害者はたか子のカーディガンを着ており、誰もが間違って殺されたと思い込むのだが……。

 女の怨念を感じさせる復讐劇である。特に殺人シーンで、ハイヒールで殴ったあとの「エリちゃん、痛い?」からのもう一撃には身体が震えたほど。ラジオDJをやってるときのはっちゃけたテンションの高さと、殺人を犯したときの冷酷さのギャップが凄すぎるのだ。

 その一方で、普段のたか子は気だるい雰囲気を漂わせているため、復讐劇にありがちなドロドロ感が必要以上にない。むしろおしゃれで色っぽい仕上がりになっている。そういう意味で桃井かおりの演技力とオーラに釘付けとなってしまう1作である。また、古畑の部下の今泉慎太郎(西村まさ彦)がアリバイ検証で何度も走らされる際のコメディアンっぷりも面白いし、犯行立証時に古畑の歌声が聴けるシーンもある。田村正和本人は歌手デビューをしていないので、貴重な歌声が聴けるエピソードとなっている。

 第2位も第1シーズンから。94年4月20日放送の「動く死体」だ。車で老婆をひき殺してしまった歌舞伎役者の中村右近(堺正章)は自首を勧める警備員・野崎(きたろう)を口論のすえ突き飛ばしてしまい、誤って死なせてしまった。その日の演目終了後、右近は自分の楽屋に隠していた野崎の死体をすっぽんという昇降装置を使って舞台に運び、天井のすのこから転落死したようにみせかける。すぐにその場を去るのだが、その後、なぜか楽屋に戻って茶漬けを食べるという謎の行動に及んで……。古畑と犯人のやりとりの手数が多く、堺正章の怒っているのか笑っているのかの微妙なラインの演技が緊迫感を高めていた。また、クライマックスともいえる懐中電灯を巡る展開もスリリング。最後の決め手となるすっぽんの昇降について突きつけるシーンも鮮やかであった。

 そして肝心のラストである。なぜ犯人はすぐに殺害現場から立ち去らなかったのかの理由が明かされるのだが、正直鳥肌ものであった。田村正和は本作の出演オファーを受けたとき、断るつもりだったというが、この回の脚本を読んで決断したというほど。珠玉の1作である。

 注目の第1位は、96年1月10日放送の第2シーズン初回の「しゃべりすぎた男」である。弁護士の小清水潔(明石家さんま)は、有力弁護士の令嬢との婚約が決まり、邪魔になった恋人・向井ひな子(秋本奈緒美)の殺害を計画する。完璧なアリバイ工作のうえ、ガラス製の水差しでひな子を殴り殺した小清水。容疑者として浮上したのは古畑の部下で、直後にひな子の部屋を訪ねた今泉であった。小清水の罠にハマり逮捕されてしまった今泉は大学時代の親友である弁護士に弁護を依頼するが、その弁護士とは小清水その人であった……。

 今泉の逮捕というショッキングな幕開けとなった本作はシリーズ唯一の法廷もので、敏腕弁護士・小清水と古畑の頭脳戦が繰り広げられる。今泉は小清水から刑を軽くするために“傷害致死”を認めるように指図されてピンチに陥る。それでも小清水の発言に不審を抱いていた古畑は法廷記録を読み返し、決定的な証拠に気づくのだ。最後は証人として法廷に立った古畑と小清水が丁々発止の推理合戦を展開し、まさに“会話劇”と“対決”という要素が満載。そして古畑が気づいた決定的な証拠だが、実は最初の公判から何度も何度も登場しているのに、視聴者もそれに最後まで気づけないほど丁寧に作り込まれた1作となっている。

 古畑はいつも今泉のことをバカにして煙たがっていたが、このときばかりは「友人の人生が懸かってるんです。絶対にしっぽをつかんでみせます」と小清水に言い放つ胸熱のシーンも忘れがたい。シリーズ屈指の名作である。以上の5エピソード以外にも数々の傑作回がある。名優・田村正和を偲びつつ、自分のお気に入りのエピソードをご覧になってはいかがだろうか。

上杉純也

デイリー新潮取材班編集

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