空手「植草歩」の師範告発に調査委が“暴力なし”の結論 報告書から見えてきた真実

スポーツ

  • ブックマーク

Advertisement

週刊新潮が入手した動画

 そして、いよいよ本題に入る。植草選手が《顔面を香川氏が竹刀で突く行為が、練習として行われていた》と訴えた問題だ。

 報告書では、この練習を「竹刀組手練習」と呼んでいる。《香川師範が独自に創作した練習方法》であり、《リーチの長い手足から繰り出される手拳・足蹴(主に外国人選手との対戦を想定)に対抗する技術を身につける》ことが目的だったという。

 外国人選手対策が目的のため、帝京大の空手部員が参加することはなかった。少数の例外を除き、練習の最後に対戦する可能性のある全日本強化選手だけが参加していた。

 どんな練習だったのか、週刊新潮は動画を入手している。負傷したとされる練習の翌々日に行われたもので、デイリー新潮でも「五輪空手『植草歩』選手のパワハラ告発に異論 “竹刀事件”3日後の練習で笑顔の映像」の記事で動画も含めて配信している。

 動画を改めてご紹介するので、ぜひご覧いただきたい。その上で、報告書からも引用しておこう。少し長くなるが、「竹刀組手練習」とは次のような内容だったという。

《香川師範は、竹刀を中段に構えて間合いを詰めたり、引いたりし、頃合いを見計らって、軽く振りかぶって、力を加減しつつ、剣道のように竹刀を選手の頭の上から下に振り下ろしたり、横から身体の胴辺りの高さで竹刀を水平に180度左右にぶるんと振ったりして、選手に竹刀で攻撃を仕掛けた》

「和気藹々」の練習

 怒り狂った監督が、選手に竹刀を振り回す──こんな光景とは無縁の、立派な練習だったことが分かる。雰囲気も極めてリラックスしたものだったようだ。報告書には《和気藹々》とさえ書かれている。

《2時間の厳しい練習の最後に、稽古の仕上げとして行う対戦形式の練習という趣旨で行われていた。選手が香川師範と対戦している様を、他の選手も周囲で見ており、選手がポイントを取ると、周囲の選手から笑い声が上がる等、和気藹々とした雰囲気の中で行われていた》

 練習では植草選手の他に、2人のケガ人が確認されている。1人は20年12月、竹刀に顔がぶつかってしまい、左目のまぶたに小さなアザができた。当たった瞬間は痛かったが、その後は違和感もなく、翌日から練習に参加した。

 もう1人は21年1月、竹刀が当たって右のこめかみ辺りに擦り傷を負った。かすり傷で、2、3日で傷跡は消えたという。

 その一方で、委員会は竹刀組手練習を《危険性の高い行為であり、選手に対する安全配慮を欠き、指導方法として不適切であったと認められる》と結論づけている。

暴力性は否定

《竹刀組手練習が行われていた約1ヶ月半の間に、香川師範が振り下ろした竹刀が選手の顔面に当たる事故が、後述の植草選手の件も含めると少なくとも3件も発生していることを鑑みると、たとえ卓越した技術を持つ全日本強化選手に対する練習であったとしても、竹刀組手練習は素手の選手に対する練習としては危険性のある練習であったと認められる》

 だが委員会は、香川師範が植草選手に暴力を振るっていたことは明確に否定した。

《一部報道では、香川師範が竹刀を用いて植草選手を含む選手数名に暴力的指導を行っていたかのような論調の報道があったため、この点についても調査結果を述べておくこととする》

《香川師範は、海外選手からの蹴りや突きを想定して竹刀を振っていたものの、竹刀を振る力の強さや振る速さは加減していたし、選手の顔面めがけて竹刀で突きをするようなこともなかった。ましてや、目一杯の力で竹刀で打ち込むとか、全力で竹刀を振り下ろすといった事実も存在しない》

《決して、選手に対して暴力を振るうつもりで、竹刀を振っていたわけでもない。香川師範には、選手に罰を与えるような意図は無いし、選手を痛めつける目的も一切無かったことが確認された》

次ページ:見つからない証拠

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[3/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。