空手「植草歩」の師範告発に調査委が“暴力なし”の結論 報告書から見えてきた真実

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見つからない証拠

《従って、香川師範による暴力的指導は存在しないことを、本委員会の委員全会一致の結論とする》

 植草選手はブログで、竹刀による怪我は1月に負い「左眼球打撲」などと診断されたと記した。全空連は3月に都内で倫理委員会を開き、負傷を事実としている。

 委員会も報告書で左目周辺の負傷は事実だとした。だが、《竹刀にぶつかる瞬間植草選手は目をつぶっていた》、《目撃者全員が竹刀組手練習において突きはなかったと供述している》、《竹刀で顔面を突かれたにしては軽傷である》など、「竹刀で突かれた」と認定するだけの証拠はなかったと結論づけた。

 当初、植草サイドは「刑事告訴を行う」考えを明らかにしていたにもかかわらず、4月に撤回された。倫理委員会が植草選手の主張を認めたことが理由に挙げられたが、委員会の調査報告書を読むと、果たして刑事告訴を行うべき事案だったのかどうか疑問を持たざるを得ない。

 しかも、委員会が植草選手に「香川師範は帝京大空手部で指導すべきでないと思うか」と質問すると、何と「(指導しても)良いのではないか」と回答したという。植草選手は香川師範が“指導者失格”と考えているわけではないようだ。

不適切な動画

 報告書は植草選手と香川師範の間に“確執”があり、その背景を探った「YouTubeへの投稿の削除等について」という項目を設けている。

《香川師範は昨年9月頃〜12月頃、植草選手あるいは担当マネージャーに対し、植草選手が自身のYouTubeチャンネルに投稿した動画の内容が不適切であるとして叱責するとともに、問題の動画の削除や動画の投稿を止めるように言った》

 なぜ香川師範が叱責したのか、それは視聴者から「代表内定選手としてふさわしくない動画なのではないか」と全柔連にクレームが入ったためだという。

《問題となった動画は2本あり、1本は植草選手が非常に短い短パンを着用して開脚ストレッチをするといった内容で、もう1本は男性柔道家から寝技をかけられるという内容であり、いずれの動画も、植草選手の格好や映像の作り方などから、視聴者によっては性欲を興奮又は刺激するようなわいせつ性のあるものだった。現に、当該動画のコメント欄には、見ていると股間が硬くなるなどといった卑猥なコメントが散見された。なお、そのような卑猥なコメントが来ていることは植草選手も認識していた》

《植草選手からすれば(略)コロナ禍で取材等も減り活動が制限されていくなかで収入が減っていく不安や、スポンサーとの約束もあったので、もっと動画を投稿したいという思いがあり、香川師範から叱責されて動画の投稿を止めるように言われたことに納得がいかなかった模様である》

意見の衝突

《香川師範が当該動画をオリンピック代表内定選手として相応しくないと判断したこと自体は独りよがりなものではなく、前述のとおり、本件の発端は一般視聴者から全空連にクレームがあったことである上、当該動画を見た全空連のV監督や職員並びに部員や選手等の意見も、日本を代表するオリンピック選手として相応しくないという意見が大半であった》

 報告書は結論に入る。関係者のヒアリングで《香川師範は植草選手を教え子のなかでも特にかわいがっていた》との声があったと指摘。《植草選手としても、親密な関係であるが故に、香川師範から私的なことについてまで口を出され疎ましさを感じることがあったものの、昨年9月までは特段問題のない師弟関係だった》とした。

 だが、昨年9月頃からYouTubeの件や、植草選手が大学院進学を希望したが香川師範が反対するなど、意見の対立が続いたようだ。

《香川師範の意見は、大学院に進学して勉強すること自体については賛成なものの、オリンピックが目前に迫った今は空手の稽古に専念すべきというものであった。特に、香川師範の目から見て、当時の植草選手は、帝京大学空手道場で稽古することが少なくなり、たまに稽古に来る際も遅刻が多かったり、集中に欠けている様子だったため、なおのことオリンピックに向けた空手の練習一本に励むべきと考えていた》

五輪間近に不振?

 だが、植草選手は4月から自身の計画通り、筑波大学大学院に通うようになったという。

 香川師範が考える教え子に対する関係は単に空手を教えるだけの関係ではなく、《空手道を通じての全人格的な面での師弟関係》だったそうだ。ところが植草選手は《単に競技としての空手を教えてほしいだけで全人格的な関係までを求めていない》タイプであり、そのために齟齬や確執が生じたのではないかと報告書は指摘している。

 報告書は植草選手の勇気ある告発を真摯に受け止めるよう香川師範に求めた。それ自体は当然の結論だろう。

 とはいえ、「スポーツ界に蔓延するパワハラ・体罰問題」がまたもや明らかになったのかと経緯を注視していたら、単なる“親子喧嘩”だったという肩すかし感があるのは否定できない。

 口うるさい師範=父を「うざい」と嫌うようになり、弟子=娘が反抗したというのが、真相だったのではないだろうか。

 その植草選手だが、5月に行われた空手のプレミアリーグ(PL)・リスボン大会に出場するも3回戦で敗退してしまった。東スポWebは5月2日の記事「【空手】パワハラ騒動が影響か 植草歩はまさかの3回戦敗退」で、《本番まで残り3か月を切ったが、立て直すことはできるのか》と報じている。

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