中国当局からスパイ容疑で116日間拘束された「在日華僑」 “恐怖の取調べ”と“真の狙い”を語る

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狙いは王毅氏?

「確かに王毅大使には岡山で講演をしてもらった。しかし、事務方の仕事に忙殺され、当日も講演内容を詳細に記憶するほどじっくり聞いていないし、祖国に対して不都合な話題が出たわけでもない。また中国の正月を祝う春節祭や、建国記念の国慶節といった総会関連行事の日程、式次第を総会事務局が日本の公安、外事当局に提示したところで、公開情報ばかり。何が問題なのかさっぱりわからなかった」

「ただし、王毅さんのことを繰り返し聞かれたので、狙いはそこか、と察しはついた。『王とはいつからのつきあいか』『王と会ったのは何回くらいか』『何度電話で王と話をしたか』など。『知らんがな、そんなもん!』と言いたかった。いちいち覚えてなどいない。理由は何であれ、とにかく私を拘束し、脅して取り調べれば何かしら王毅さんの弱みが握れるかもしれないと見込み、勇み足による拘束だったのだろう。途中ポリグラフにもかけられたが、自分自身に強い意思がなければ、王毅さんの失脚などにつながるような話に無理やりこじつけられ、彼らが考えた筋書き通りに取り調べが運んだかもしれない……」

狙われた王毅氏?

 北京市出身で、北京第二外国語学院で学んだ王毅氏は、英語、日本語に堪能で、2004年から07年まで駐日大使を務めた。

 習近平氏が国家主席に就任した13年には、党の「エリート養成機関」である共産主義青年団(共青団)出身の李克強・国務院総理(首相)のもとで外交部長(外相)に就任。また18年には国務委員にも就任した。

 一方、中国共産党の古参幹部を父に持つ太子党出身の習氏は、大規模な汚職撲滅キャンペーンを展開。その中で、上海閥の中心、江沢民・元国家主席に近いとされ、胡錦濤(共青団)時代に政治局常務委員を務めた周永康氏が、同ポスト経験者は汚職摘発されないという不文律を破って逮捕、党籍剥奪され、無期懲役判決を受けるケースもあった。

 一連の「反腐敗」運動の背後には、太子党、共青団、上海閥が入り乱れた権力闘争の一面が指摘されており、王毅氏もこの延長でターゲットとされ、身辺が調査されていた可能性がある。

 経済的に急成長し、軍事力を強化してきた中国。習近平指導部は米国との対立を深め、ウイグル族の弾圧をはじめ、香港、台湾への強権的姿勢を隠さなくなっており、国際社会もその動向を危惧している。

公安も調査

 先の日米首脳会談でも台湾海峡の平和と安定の重要性が確認され、日米が連携して中国対峙する姿勢が浮き彫りになったが、中国は対外的に強圧的な「戦狼外交」を展開している点などから、日本の中国研究者らは「(あの有能な外交官だった王毅氏も)いまや力の外交をするだけの『戦狼王』に成り下がった」と落胆する声も出ている。

 しかし、その裏では王氏も習指導部に徹底的に身辺を調べ上げられた結果、がんじがらめになっている可能性もありそうだ。

「反スパイ法」を制定、施行した中国では2015年以降、香港や海外で暮らす中国人だけでなく、日本人も拘束される事例が相次いでいる。

 だが容疑や拘束の詳細については、中国当局の報復などを恐れてか、誰もが解放後も口をつぐんでいるのが実情で、具体的にどんな行為が法に抵触したのか、詳細は不明だ。

 劉氏のように「祖国のためにも、おかしいことは、おかしいと声をあげる」というケースは極めて稀で、日本の公安、外事当局の関係者らも、帰宅後の劉氏の言動は「注目に価する」と、調査、分析の対象としている。

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