反米親北でタブーのピカソ作品が韓国初公開 再び火が付くか「慰安婦像は芸術作品」論争

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有名な虐殺事件をテーマに

 反米親北絵画として長年タブー視されていたパブロ・ピカソの作品が、5月1日から始まった「ピカソ誕生140周年特別展」(ソウル・ハンガラム美術館)において、韓国内で初めてお披露目されている。作品名は、「朝鮮での虐殺」。開幕初日の入場者数は約3000名とコロナ禍にしてはなかなかの動員数で、特別展ではパリ国立ピカソ美術館が所蔵する110点余も展示されているが、ほとんどはこの絵画を目当てに美術館を訪れているという。一方、一部の人はピカソと聞いて、また違った意味で物議を醸した“芸術作品”を思い出すのだとか。他ならぬ慰安婦像だ。

「韓国での虐殺」はピカソが1951年に描いた作品で、武装した軍人が妊婦や少女など、裸の女性を銃殺しようとする場面が描かれている。

 朝鮮戦争におけるアメリカの軍事介入を批判した内容で、「ゲルニカ(スペインの内戦)」「納骨堂(ナチスによるユダヤ人虐殺)」「戦争と平和」「サビニの女たちの略奪」と並んでピカソの作品のなかでは政治的メッセージが強く打ちだされている。

 主題となっているのは、1950年に起こった信川虐殺事件だ。

 信川虐殺事件とは、国連軍占領下の平壌の南に位置する黄海南道信川郡で、住民の4分の1にあたる3万5383人が米軍に虐殺された事件を指す。

 北朝鮮は、他の地域を含めた黄海道一帯で12万人もの住民が虐殺されたとも主張し、1958年3月には金日成が信川博物館を建設。現在に至るまで反米教育の中心地として活用されているほど、北朝鮮では有名な虐殺事件である。

慰安婦像1体で約330万円が夫婦に

 作品が発表された当時、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の館長が「(フランス共産党員のピカソによる)反米宣伝作品だ」と指摘したことでも知られている。1969年には、韓国国内でピカソ自身を賞賛したり、彼の名を広告などに利用したりする行為は「反共法4条1項(国外共産系の同調賛美、鼓舞)違反」だという判決が下されたこともあった。

 ピカソやこの作品をタブー視する空気は1980年代まで漂い続け、実際その頃まで韓国国内への搬入が禁止されていた。

 加えて、2011年に編さんされた高校の歴史教科書にこの作品が掲載された際にも、「信川虐殺が米軍部隊によるものと断定する証拠がないにもかかわらず掲載となった」などと指摘されたことがある。

 長年タブー視されてきた反米絵画が公開にこぎつけられたのは、文在寅大統領の北朝鮮融和政策に忖度したのではと疑わざるを得ないが、それはともかく、韓国メディアのある記者は、

「ピカソと聞くと思い出しますよね。全然関係ないのに、なぜかピカソになぞらえられた“芸術作品”があったじゃないですか」

 とつぶやくように言う。他ならぬ慰安婦像のことだという。

 世界に散らばる慰安婦像の制作は彫刻家の金運成(キム・ウンソン)と金曙炅(キム・ソンギョン)夫婦が独占しており、像1体作るごとに約330万円が夫婦の懐に入ることが過去の取材で判明している。これまで100体余が作られてきたということは、少なくとも3億円の収入を得てきたことになるし、夫婦は強制徴用労働者像などの像も制作していることから、“反日利権”に与る部分は少なくないようだ。

 慰安婦像は日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)の要請で制作され、正義連の広告塔的役割を果たしている。

 慰安婦像を巡って芸術論争が巻き起こるきっかけとなったのは2013年、ソウル市内にある高校が全国に先駆けて慰安婦像を作った時だ。高校側が制作者に依頼して設置したのは、素材や製法、デザインなどについて金夫婦による慰安婦像にできる限り準拠したものだった。

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