佐々木朗希、デビュー戦全投球を徹底分析…見えた“克服すべき課題”は

スポーツ 野球

  • ブックマーク

Advertisement

スライダーはわずか7球

【フォークの結果、トータル29球】
空振り:3 見逃し:2 ファウル:7 ボール:10 ヒット:4 凡打:3

【スライダーの結果、トータル7球】
空振り:2 見逃し:1 ファウル:0 ボール:3 ヒット:0 凡打:1

 この日、佐々木が投げた変化球はフォークとスライダーの2種類。5個奪った三振のうち4個をフォークで奪ったが、被安打6本のうち4本はフォークをとらえられてのものだった。フォークの平均球速は139.2キロと140キロ近いスピードがあり、ストレートと見分けがつきづらいが、落ち方にばらつきがあり、まだ思うように投げられているボールは少ないように見えた。

 あいにくの天候で小雨がぱらついていたという影響もあるが、フォークの精度向上は当面の課題と言えそうだ。一方のスライダーもわずか7球と少なく、こちらもコントロールにはまだ信頼がないように見えたが、難易度が高いと言われる左打者の外角にしっかり投げ込んでおり、ボールの質自体は素晴らしいものだった。

 ただ、スライダーも平均球速は138.1キロとフォークと同じくらいの球速帯であり、打者からするとこの2つのボールは同じタイミングで待つことができる。見せ球程度でもカーブやチェンジアップといった遅いボールを混ぜていくことも今後検討してもらいたいところだ。

リリースまで時間がかかる

【許した盗塁・5個】

 そして、この日最も分かりやすかった課題は、やはり走者を背負ってからの投球となるだろう。若林、源田、金子侑司というパ・リーグでも上位の脚力を誇る選手とはいえ、5回で5個の盗塁を許し、そのうちの3個が失点に繋がっている。

 クイックモーションのタイムは1.2秒台が及第点と言われるが、初回に若林に盗塁を許した時のクイックモーションのタイムは1.37秒と、その数字を大きく下回るものだった。テイクバックでためを作ることを意識することにより、どうしてもリリースまでに時間がかかっているという印象だ。

 しかし、高校時代のデータを調べてみると、最速で1.16秒をマークしており、決してクイックができないわけではない。現在は、クイックよりもボールの質、コントロールを重視していることの表れとも言える。今後、クイックで投げてもボールの質が落ちないように取り組む必要はあるが、長身でも体の使い方の上手さがあるだけに、それほど気にすることはなさそうだ。

 冒頭でも触れたように、5回を投げて4失点という結果は期待の大きさからすると物足りないものがあったかもしれない。だが、あらゆる数字がそのポテンシャルの高さを示していたことは間違いない。

 末恐ろしいのは、まだまだコントロールと体のことを考えてか、腕の振りに余力が感じられたという点である。体力的な不安が完全に払しょくされれば、全てのボールが凄みを増してくるだろう。一度、一軍登録を抹消して様子を見るとのことだが、次回以降の登板でさらにレベルアップした姿を見せてくれることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月17日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。