コロナ禍の「やばいです」発言は意味のない「野球解説」と同じ 「今日は負けられない」って当たり前では(中川淳一郎)

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 いやぁ~、「緊急事態」だの「まん防」だのすっかりコロナへの警告慣れしてしまった私ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか! そんな中、「これだ!」と膝を打つツイートを見ました。「故郷求めて」というユーザー名の方による、尾身茂・分科会会長や小池百合子都知事の「ここでしっかりしないと大変なことになる」という発言は、野球中継で「今日は負けるわけにはいかない試合ですね」と実況担当が言うようなもの、との指摘です。

 もう1年3カ月もずーっと「今が正念場」「勝負の2週間」「真剣勝負の3週間」「瀬戸際」などという言葉を聞いてきた我々は、1年3カ月間「常にヤバい状態」だとエラい方々から言われてきました。で、私の知り合いの陽性者は1人で、死者ゼロです。多分、知り合いは相当多い部類に入る人間だと思うのですが、コレです。

 でも、「そこまでビビらないでいいんじゃね?」なんてツイッターで言うと、テレビが流す「コロナヤバいです!」を信じ切った方々から猛烈に批判される。ただね、テレビに出る専門家(笑)や知事はギャラ獲得や支持率上昇に繋がるので警告を発しておけばいいんですよ。私のように「ビビり過ぎ」と発言する人間の方がよっぽどリスクを負ってるんです。

 彼らは何とも羨ましい立場ですが、「故郷求めて」氏が述べるように、プロ野球中継の実況と解説者の発言って改めてキチンと検証してみるとおかしなもの、多いですよね。はい、実況と解説者も「専門家」です。

「今日は負けるわけにはいかない」って、普通、どんな試合だって負けるわけにはいかない。いくらぶっちぎりの最下位を走るチームであろうとも、すべての試合が大事です。選手にしても、1本でもホームランを上乗せしたり、1勝でも多く挙げなくては年俸は上がらないので必死だし、どの試合も大事なのは当たり前ではないですか。つまり、専門家がまったく意味のないことを言っているわけです。その他の「分析にも何もなっていないプロ野球中継用語」を挙げます。

「ここで1点取っておきたいですね」「この回は大事ですよ。ここをどう踏ん張るかですね」「ここは阪神も中日もお互い、大事なイニングですね」「ここで追加点を取れるかどうかがこの試合の趨勢を決めますね」

 こういった言葉、常に真剣勝負をしている選手たちに対して失礼ではないでしょうか。選手も監督・コーチもどんな状況であろうが勝つために最善の策を打っているわけです。それなのに外野が「今が特に重要です!」と言い、あたかもこれまでは手を抜いていたかのような分析をする。

 実況担当のアナウンサーはさておき、プロ野球で華々しい結果を残した解説者もこれに同調するようなコメントをするってどうなんですか? なんで、あなたのような実績を持つ御方が、ただの素人の述べる「野球理論(笑)」に同調するような発言をするのですか!

 これが今のコロナを巡る騒動で発生していることです。素人のテレビ番組MCとコメンテーターがテキトーなことばかり言いまくる中、「専門家」の皆様が世論におもねって「ヤバいです!」と言い続けているだけ。

 あの、同じこと言い続けて飽きませんか?

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年5月6・13日号掲載

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