ストーカー対策の専門家に聞く 「離れたい相手」への“正しい断り方”

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境界線を意識

 アサーティブな会話では、ハッキリ伝えると言っても、感情的になってはいけない。

「相手について、いろいろ批評することはしません。『自分はこう考えます』『自分はこう感じるのです』と、自分の考えや感情を感情的にならずに言葉で伝えるのです。相手について言いたいときは、決めつけない言い方をしないよう注意します。自分と相手との間に境界線があることを意識し、境界線を踏み越えないことが新しいマナーになります」

 具体的に淡々と、自己の考えや感情を相手に伝えることが重要だ。

「何が辛いのか自覚した上で、『あなたの○○な態度(思い込み、多すぎる連絡、できない要求など)が苦しいです。やめてください』と伝え、それでも相手がやめない場合は『私は、あなたとの関わりが我慢の限界に至りました。苦しくて自分の大切なことができなくなりました。お願いですから、今後は私に接触するは止めてください』と伝えるのです」

 越境しないとは、相手に対してこちらの主観的評価を加えない、ということを意味する。

 例えば、“私はあなたとデートに行く気持ちはありません。”はアサーティブだが、“あなたはケチでつまらない男だから、デートに行きたくありません”は越境した表現で、相手の感情を悪化させる。

 意外なことに、思いやりも過ぎれば越境になる。

「『断ったら相手は気分を悪くするだろう』と、相手の考えや感情を決めつけていることも多いのです。相手の感情を勝手に想像し、越境しているのです」

 “私は”という主語を意識的に会話に交えることも、アサーティブ・コミュニケーションに役立つ。

「『あなたはセクハラをしている』というのと、『私はあなたの行為が辛い。セクハラだと感じる』というのでは、まったく受け止められ方が変わります。

 自分を主語にして語るとは、相手を尊重し、自由を与えることでもある。

「母親が子供に向かって『寒いからセーター着なさい』っていうのも、アサーティブではないのです。『私は寒いけど、あなたは?』と問いかけることがアサーティブです。日本社会では、小さいころから相手の考えや感情を質問しないまま推し量ることに慣らされます。忖度こそ美徳と信じられている。そのため、自他の境界線を越境し合って混乱してしまう人が多いのです」

断らないと、警察も動けない

 私(筆者)もストーカー被害を受けて警察に相談した際、とても印象に残ったことがある。

“相手に一度、明確に拒否の姿勢を見せてください。それがないと、警察は動くことができないんです”

 こう言われて、アサーティブな拒否をしていなかったことに気づいたのだ。延々と連投されるLINEは無視していたし、時には「気持ち悪い」、「距離を取って欲しい」とも伝えていた。

 だが、それでは伝わらないモンスターのような人間が、世の中には一定数いるのだ。「嫌です」「やめて下さい」といった明確な言葉は使うことで、初めて通じることもあるのだ。

「特に女性は、断定的な表現を避けるよう教育されているので、いきなりアサーティブな表現をするのは難しい。断定表現は日本人には不自然に感じる場合もあるので、だからこそ、意識的にトレーニングする必要があるんです」

 以心伝心も良いけれど、時には明瞭な表現でハッキリと自分の意志を伝えるほうが、むしろ誠実と言えるのだ。

(※ストーカー被害に遭った男性被害者の方がいれば、[email protected]までご一報ください)

西谷格
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞「新潟日報」の記者を経て、フリーランスとして活動。2009~15年まで上海に滞在。著書に『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)など。自身もストーカー被害の経験を持つ。メールアドレスは[email protected]

デイリー新潮取材班編集

2021年5月10日掲載

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