「セックスが怖い」夫に悩む女性たちの告白 更年期障害の妻とどう向き合うべきか

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「普及率2%」日本人だけが知らない「世界標準」治療法

 女性の更年期は45~55歳と言われる。その9割に症状が現れ、5割が生活に支障を来す。離婚や自殺の遠因となることも……これが更年期障害の恐ろしさだ。前回(解説編)(「週刊新潮」4月1日号)ではその仕組みを解説したが、今回は解決法について述べる。地獄の淵から、どう逃れるか。

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〈のぼせがひどく、夜中にも寝汗をかく。それなのに、足の指先から甲にかけては冷えて痛い〉

〈夜眠れない。夕方重苦しい。胃が痛い。めまい〉

 更年期女性の電話相談に応じてきた「女性の健康とメノポーズ協会」に寄せられた声の一部である。

 症状は200以上。のぼせ、ほてり、発汗、冷え、だるさ、疲れやすさ、不眠、憂鬱、記憶力の低下、めまい、耳鳴り、肩こり、関節痛、頭痛、動悸……。これらに加えて更年期は、親の介護、子どもの巣立ちなど、心理的、社会的な変化によるさまざまなストレスが加わる時期。それが心身の不調と絡まり合い、症状を悪化させる。これが更年期障害の基本的な構図だ。

〈毎日体が重い。料理も作りたくない。なまけものになってしまった。何もできない罪悪感でいっぱい。不眠。うつ〉

〈電車の中で頭痛、めまい、吐き気などが起こって具合が悪くなり、それから電車に乗れなくなってしまった〉

 こうした精神的な症状が悪化すれば、時に離婚や自殺といった深刻なトラブルを招く。だからこそ、治療法は是非知っておきたいところである。

「カウンセリングのみで治ったり、漢方治療が有効なケースもありますが……」

 と述べるのは、よしかた産婦人科の善方裕美院長。

「それでも改善しない患者さんも多い。その場合、最も有益性が高く、副作用も少ない治療法は、ホルモン補充療法です」

 この療法は「HRT」と呼ばれるが、一体どんな治療法なのか知る前に、改めて更年期障害が起きる原理について振り返っておく。

 女性の身体は思春期を迎えるに当たり、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が増え、月経が始まる。エストロゲンには体つきや肌や髪に影響したり、気分を明るくし、元気を出す作用もあるが、更年期に差し掛かると、ゆらぎながら減少。やがて閉経を迎える。これにより、そのもたらす効能も減るばかりか、身体のホルモンバランスが崩れ、自律神経が乱れて心身に不調を来す――これが大本となる仕組みである。

 すなわち、加齢から来る女性ホルモンのゆらぎと減少が更年期障害の原因なのだ。

「ならば、ゆらぎと減少を和らげればよい。これがホルモン補充療法です(掲載の図参照)」

 と善方院長。

「仕組みは単純で、少なくなったエストロゲンを薬で補充する。薬には飲み薬、貼り薬、ゲル状の塗り薬の3タイプがあります。医師の診察を受けて処方されれば、もちろん保険適用となります」

 症状にもよるが、大抵のケースは、月2千~3千円レベルの出費で収まってしまうという。

「これをまずは2~5年間続けることが基本。閉経後の女性ホルモンの環境に身体が慣れれば症状は治まりますので、そこまでの期間でソフトランディングさせるのです。補充に対する身体の反応として、性器出血や、乳房の張り、吐き気といった副作用が出る場合がありますが、3カ月以内に落ち着くことがほとんどです」(同)

 使用を避けるべきケースもそれほど多くなく、乳がんや子宮内膜がんの患者、あるいは乳がんの既往歴がある人などが当たる。

「私も、HRTは最も効果の大きい治療法だと思います」

 と述べるのは、小山嵩夫クリニックの小山嵩夫院長である。

「加えて、HRTの利点は、更年期障害以外に、女性特有の症状にも効果を生むこと。その代表が骨粗鬆症(こつそしょうしょう)です。エストロゲンには、骨からカルシウムが溶出するのを防ぎ、骨量を増加させる働きがある。だから閉経後、エストロゲンがほとんど出なくなると悩む女性が増えるのです。HRTはその予防になる。また、動脈硬化予防や悪玉コレステロールの低下、認知症のリスク低下などの効果も指摘されています」(同)

 ローリスク・ハイリターンの治療法との評価が確立しているのだという。

“ナチュラル信仰”

 ところが、だ。

 掲載のグラフを見てほしい。この治療法の、45~49歳の患者における日本での普及率はわずか2%程度。対して諸外国は、オーストラリアの55%を筆頭に、カナダ53%、フランス49%、ドイツ47%と高い。どうしてこれほど差があるのか。

 小山院長は言う。

「私が更年期医療に関心を持ち始めた40年程前も1%。それだけ経ってわずかしか上がっていないのは残念なことです。理由は二つ。ひとつは、日本には“ナチュラル信仰”とでも呼ぶべき考えがある。ホルモンを身体に入れるなんて自然に反しているという考え方です。もうひとつは乳がんのリスクについての誤解。こちらの方が深刻ですね」

 今から20年程前、アメリカで行われた試験で、HRTを5年受けた人は乳がんの発症率が3割高まったという結果が発表され、大きく報道された。これによって敬遠する患者も多いという。

「しかし、これは数字のトリックなんです。3割増えたといっても、薬を摂取しない場合、発症者が1万人当たり30人出たのに対し、摂取したケースでは38人出たということ。言い換えれば1万人のうち8人のリスク増ということです。また、実験の対象群にも問題がありました。最近のシステマティックレビューでもそれ程の有意差はないという結果が出ています」(同)

 ただ、子宮内膜がんについてはリスクが高まる。そのためHRTでは、がんなどで子宮を摘出した女性を除けば、エストロゲンに加えてがん防止効果を持つ女性ホルモンのプロゲステロンも同時に投与するのが通例だ。

 北欧では、父母会などで母親たちが集まると「ホルモン療法受けた?」と話題に上るほどポピュラーな治療法になっているというが、

「日本では、HRTへの理解が低いがゆえに、適切な治療を受けられず、長いトンネルに入り込んでしまう患者さんもいる」(同)

 無闇に敬遠せず、きちんと医師に相談してみることが肝要である。

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