広島「中村奨成」はレフトで1番先発、2軍でもサードで起用、捕手は“卒業”へ

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古田敦也の“意地”

 俊足の飯田を除き、基本は長打力に秀でた選手が目立つ。中でも和田一浩(48)と石嶺和彦(60)両氏のパワーヒッターとしての活躍は傑出していた。

「中村くんは甲子園で、あれだけの打撃センスを見せた選手です。捕手としてじっくり育成すると、打者として1軍で活躍するチャンスが減ってしまいます。広島の首脳陣は、それを不安視した可能性はあるでしょう。私は首脳陣も中村くんも前向きに捉えたコンバートではないかと考えています」(同・広澤氏)

 言うまでもなく、捕手には頭脳も求められる。そのため、捕手は自分の役割を冷静に考えているという。

「私がヤクルトの選手だった時、監督だった野村克也さん(1935〜2020)が、古田敦也(55)に『今度のキャンプで外野用のグローブを持ってこい』と命じたことがあります。古田の憮然とした顔は今でも忘れられません。彼は『自分はどう考えても捕手に向いているはずだ』と、全力で野村監督にアピールしました。そして名捕手として評価されるまでになったのです」

佐野恵太の“拒否”

 自分から「捕手を辞めます」と言った選手もいるという。DeNAの佐野恵太(26)だ。面白いことに佐野も中村と同じ広陵高校のキャッチャーだった。

「佐野くんは明治大学の野球部に入部しました。すると監督から『プロ野球は捕手が不足している。お前は打撃力が秀でているから、4年間は捕手として成長しろ。そうすれば12球団からドラフトで指名されるぞ』とハッパをかけられたのです。ところが佐野くんは3年生の時、監督に捕手はやりたくないと直訴しました」(同・広澤氏)

 広澤氏は「捕手がこういうことを言った場合、単なるワガママではないことが多いのです」と理解を示す。

「彼は捕手らしくクレバーに、客観的に自分のことを見つめ、捕手という負担の大きなポジションから自由になり、打者として専念したほうがいいと判断したのでしょう」

 佐野は通算4年で、打率2割9分6厘。ホームランは30本だが、出塁率3割5分2厘と、長打率4割6分6厘が目を惹く。キャッチャーでスタメンになったとしたら、これだけの打率を残しただろうか。

 投手と並び、捕手は「打撃力は不問」と言われるポジションだ。古田氏は終身打率2割9分4厘を残したが、広島が誇る名捕手、達川光男氏(65)は2割4分6厘。かつてロッテで活躍し今は解説者として人気の里崎智也氏(44)も2割5分6厘だ。

 現役に転じれば、會澤も通算12年で平均打率は2割6分5厘。阪神の梅野隆太郎(29)も捕手として評価する声は多いが、通算7年で2割3分7厘。ソフトバンクの“甲斐キャノン”甲斐拓也(28)も同じ通算7年で2割3分1厘という具合だ。

礒部の“打撃開眼”

 見えてくるのは、「守備で一杯一杯」になるという捕手の実情だ。

 表で紹介した礒部公一氏(47)の場合、捕手として起用されていた1999年は打率2割3分2厘、本塁打は4本だった。

 ところが外野手に専念した2001年は打率3割2分、本塁打17本と“打撃開眼”を果たしている。

 広島ファンにとっては、中村の理想的な“未来像”かもしれない。

デイリー新潮取材班

2021年5月8日掲載

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