女優「原日出子」が語る更年期障害 うつ状態になり、夫婦の危機も

ライフ 週刊新潮 2021年4月1日号掲載

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「原日出子」が語る「鬱」「夫婦の危機」

 女性なら誰もが通る更年期。そこに聳(そび)える大きな壁。9割に発症し、甘く見れば離婚や自殺を招きうる。症状悪化の要因の一つは夫――となれば、男性にとっても対岸の火事では済まない病気だ。女と男の病、更年期障害。今号は症状そのものの解説をお届けする。

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〈解説に入る前に、まずはその症状に苦しめられた方の体験談をご紹介しよう。女優の原日出子さん(61)。身体と心の異変に気付いたのは、今から15年程前だったという。〉

 あれは45歳になるちょっと手前のことですね。だるくて動けないとか、やる気が起きないとか。私の更年期障害はそうした倦怠感から始まりました。一番酷かったのは貧血。もともと低血圧なんですけど、医者に行ったら、「あなただけチベットにいるような酸素量ですよ」って。酸欠状態だから造血剤を飲みなさいと言われました。パッと起きたり走ったりすると危ないくらいの量だよ、と。確かに道を歩いていてもすぐ息があがるし、坂道を上ると途中で足が止まるくらいハアハアする。知り合いのママに「大丈夫?」と言われるほど、うぐいす色で血の気のない表情をしていたらしいです。お化粧していても下の色が透けて見えるくらい。白目も真っ青、歯茎も真っ白で。

 もともと私、子宮筋腫があり、それで生理が重く貧血が酷かったんです。でも、そこまで具合が悪くなったことはありませんでした。

 そうこうしているうちに、どんどん症状は悪化していった。運動もしたくない。そもそも動きたくない。当時、子どもがまだ学校に通っていたんですが、朝ご飯を食べさせて送り出したら午後の2時くらいまでは寝ていたんですよ。寝室に内鍵をかけて寝て、そろそろ帰ってくるという時間になったら動き出していましたね。

 更年期障害はほてりが出るなんてよく言いますよね。でも私はそれがなくて、逆に手足が冷えたりすることはよくありました。それも、夜中に目が覚めてがたがた震えるくらいの。冷や汗が止まらなくなり、月に1回くらいはトイレで動けなくなることもあったほど。3年間くらいはそんな苦しい日々が続きました。

〈いずれも更年期障害の典型的な症状である。そして、これも典型的な例だが、身体の不調は精神の不調に繋がっていく。〉

 落ち込んで鬱っぽくなりました。事務所から「泊まりのロケで」という電話が来ると、「はいはい」と言いながら行きたくなくて涙が出てしまうんです。事務所の人からはさぼっているように見えてしまいますよね。だからロケの前の日にテンションを上げておくんです。で、無理すると翌日はまたドーンと気分が落ちる。家にいて引きこもっている時は、話し掛けられるのも嫌。近くに住んでいる母が見に来てくれた時には、「死人みたいな顔してる」と言われたくらい。ある時、朝起きて洗面所に行って自分の顔を見たら、全然口角が上がっていないんです。笑おうと思っても、んーんと口角を上げようとしてもうまくいかないわけです。このまま仕事もできなくなるんじゃないかとまで考えた瞬間でした。

“治ったのか”

〈後述するが、更年期障害には重症化を招きやすい因子がある。原さんはそれにぴたりと当てはまるタイプであった。〉

 昔から自分は後回しで家族が先で、というタイプでした。家族のことをやって、ようやく台本を読む。当時、睡眠時間が5時間を超えることなんてありませんでしたね。子どもたちにコンビニ弁当を食べさせるというのも嫌なんです。何でもきちんとやらなきゃという性格で。先輩の女優さんに「こんな状態なんですけど」と相談したら、「日出子ちゃん、頑張り過ぎなのよ」と言われて。その方も更年期障害に苦しんだそうですが、「何でも人任せにできなくて自分でやり過ぎたわ」と言っていました。

〈更年期障害が悪化するか否かは、夫の対応も大きな影響を与える。原さんの夫といえば、やはり俳優として活躍する渡辺裕之さん(65)だが、〉

 はじめは戸惑っていましたよ。家に帰ってくると、洗い物が溜まっていて私がソファーでゴロゴロしていたりする。そんなことはこれまでなかったので、夫も機嫌が悪くなったり。更年期だからと言っても、「医者行けよ」。で、行ってきたら「治ったのか」。風邪じゃないんだから(笑)。

 だんだんわかってきて家事をやってくれるようになったのはいいけど、これまでやってないからさっぱりできない。私にいちいち聞かなきゃ駄目なので、ついに「もういいです!」ってキレてしまったこともありました。

 これまでとても仲の良い、ベタベタした夫婦だったからかしら。余計にビックリして、「僕のこと、もう嫌いになってしまったのかな」と、まるで愛情がなくなってしまったように感じたみたいですね。

〈結婚して初めて訪れた夫婦の危機。やがて治療の効果もあって症状は治まり、夫婦の仲も元通りになる。

 しかし、辛い日々だったと改めて原さんは振り返るのである。〉

スプーン1杯「女性ホルモン」が「離婚」「自殺」の原因に

 更年期障害という言葉自体は誰でも知っているが、それをきちんと説明できる人は多くはないだろう。

「日本の女性の閉経平均年齢は約50歳。その前後の45歳から55歳までを更年期と呼びます」

 と解説するのは、よしかた産婦人科の善方裕美院長である。

「この周辺の時期に女性ホルモンの分泌はゆらぎを繰り返しながら減っていく(掲載の図参照)。それを原因としてさまざまな不快症状が表れる。これを『更年期症状』と言います。このうち生活に支障を来すほど辛く、治療の必要がある状態のことを『更年期障害』と呼ぶのです」

 更年期「症状」は、更年期女性の約9割に表れるという。そして、「障害」にまで進む人も約5割に上るというから、これはもう、女性は誰でも覚悟すべき病だ。

 その症状は200種類と言われるほど多岐に亘る。いくつか挙げれば、のぼせ、ほてり、発汗、冷え、だるさ、疲れやすさ、不眠、憂鬱、記憶力の低下、めまい、耳鳴り、肩こり、関節痛、頭痛、動悸など。

「こうした症状を、単なる一時的な心身の不調だと捉えてしまう人も多い」

 と述べるのは、小山嵩夫クリニックの小山嵩夫院長である。

「だから病気ではないと軽視し、病院に行くなどの対処が遅れて悪化させることも少なくないんです」

 小山院長は簡易的なチェック表を考案。それが「簡略更年期指数(SMI)」と題する、掲載の表である。

「このチェック表で51点以上の人は更年期障害の疑いがある。医師の診察を受けた方がいいと思います」(同)

 ここに挙げられたような症状が強く該当すれば、個別の器官の不調ではない可能性が高いというわけである。

 そもそも、なぜ女性ホルモンのゆらぎが心身状態の悪化を招くのか。

「卵巣から出る女性ホルモンには2種類あります。エストロゲンとプロゲステロンです」

 と善方院長が言う。

「この二つは卵巣から周期的に分泌され、子宮内膜を厚くしたり整えたりしています。妊娠に至らないと二つのホルモンが減少して内膜がはがれ落ちるのですが、これが月経です。エストロゲンは美容健康ホルモンとも呼ばれ、体つきや肌や髪に影響します。また、気分を明るくしたり、元気を出す作用もある。プロゲステロンはわかりやすく言うと妊娠維持ホルモンです。このうち更年期障害に影響するのは、エストロゲン。エストロゲンは思春期に増加し、性成熟期にたくさん出て、更年期になると急激に下がり、閉経を迎え、老年期にはほぼ出なくなります。この分泌量がゆらぎながら全体として急激に下がっていく時期が更年期なのです」

 分泌量の低下に伴い、エストロゲンがもたらす効能が薄れ心身の不調が起こる。そして、

「これに加えて自律神経が乱れます。卵巣がエストロゲンを出すためには、まず脳の視床下部が刺激ホルモンを出す。これを受けて脳下垂体がまた別の刺激ホルモンを出す。それを受けた卵巣がエストロゲンを放出するという仕組みです。卵巣が寿命を迎えて働けなくなるのが更年期。いくら刺激ホルモンを受けても、エストロゲンが出なくなる。脳はおかしいと感じて“頑張れ頑張れ”と、過剰に刺激ホルモンを出すことになる(掲載の図参照)。脳下垂体の周辺には自律神経の中枢があるので、これによって自律神経がアンバランスになるのです」(同)

 こうして症状はより重くなるのだ。

 ちなみに、一生の間で女性の身体が分泌する女性ホルモンの量は、合計でもティースプーン1杯ほどしかないという。血液中の女性ホルモンの量を調べる時の単位はピコグラム。1兆分の1グラムだ。たったそれだけの量の増減で深刻な変調をもたらす。人体のバランスはかように繊細なのである。

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