なぜ日本でワクチン接種が進まないのか 厚労省と利権を手放さない医師会が障壁

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歯科医の参画には医師会が反対

 老年精神医学が専門の精神科医で、国際医療福祉大学教授の和田秀樹氏が言う。

「高齢者向けのワクチンを医療従事者に転用するだけならまだしも、八王子市では、未接種の医師が高齢者接種に臨んだそうです。ワクチンを接種していない医師が高齢者にワクチンを接種するとは、珍事です。たがいにマスクをしているとはいえ、接種の場で感染する可能性はゼロではありません。また、政府や自治体は“病床を増やせ”と言いますが、医療従事者は、自分は感染したくないと思うし、入院患者にクラスターが起きたら大変だと考えます。だからこそ、医療従事者480万人と入院患者120万人への接種を最優先にすべきなのです。両者に打たないかぎり病床は増えません。分科会にいるのは臨床や現場を知らない学者ばかりで、現場の本当の声がわからないのです」

 そんななか、菅義偉総理は訪米中にファイザー社のCEOと電話会談し、追加のワクチン供給を受けることで合意、9月末までに16歳以上とされている対象者への接種を完了できる、と発表された。朗報だが、厚労省担当記者によれば、前途多難のようである。

「日本政府はファイザー社と、年内に1億4400万回分のワクチン供給を受ける契約を結んでいます。さらに供給を受ける必要が生じたのは、1億2千万回分の供給を受ける予定のアストラゼネカのワクチンの、日本における認可が難航しているからです。生産拠点がベルギーにあり、EU次第で供給がストップしかねないファイザー製と違い、アストラゼネカ製は国内で受託生産が始まっていて、数量確保も供給も容易です。副反応で血栓ができるのが問題で、欧州の多くの国で接種が一時中断し、デンマークは中止を決めました。コロナに感染して血栓ができる可能性のほうがずっと高いのだから、希望者には接種するべきなのですが、治験の壁が高くなってしまったのです」

 それでも、ファイザー製を速やかに打てればいいが、そうはいかないという。

「イギリスのように2回目の接種は後回しにし、1回目の接種を受けた人数を増やすべきだ、という専門家の提言があっても、厚労省は治験同様の、間を空けず2回打つという手順以外でワクチン接種を進めることに否定的です。立ちはだかるのは厚労省だけではありません。歯科医にも注射を打つのを手伝ってもらうという政府の提言には、ワクチン接種が利権である日本医師会が反対しています。厚労省は、5月半ばには全医療従事者にワクチンが行き渡ると説明していますが、実態と乖離しています」

週刊新潮 2021年4月29日号掲載

特集「兵站なき『コロナ戦線』総崩れ」より

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