韓国で「不倫ドラマ」が過激化、人気の理由を考えたら浮かんだ“文政権を皮肉る造語”

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自由度が高いケーブルテレビ

 韓国で不倫ドラマが流行る背景には、放送事業の変化も少なからず関係している。現在、地上波のテレビ局はKBS、MBC、SBSだけだが、この10年でケーブルテレビが次々と開局し、チャンネル数が増えた。

 韓国では有料のケーブルテレビやインターネットテレビに加入しなければ、地上波を受信できない地域が少なくない。そのためケーブルテレビの普及率が高く、現在は9割近くの世帯が加入している。

 当然のことながら、チャンネル数が増えたことで制作されるドラマの本数も増えた。地上波と違ってスポンサーに縛られることがないケーブルテレビのドラマは、自由度が高いと言われている。そのため様々なジャンルに挑戦しやすく、設定やストーリー展開も従来のドラマとは違ったものを生み出しやすい。多少の批判を浴びても、話題性のある「不倫ドラマ」を生み出し続けるのもそのためだ。

 昨年、韓国で『愛の不時着』以上に話題になったのが、先に触れた『夫婦の世界』である。原作は英ドラマ『女医フォスター 夫の情事、私の決断』で、ベッドシーンも暴力シーンも盛り込まれ、全16話のうち14話が19禁(日本でいうR-18)指定だ。このドラマもケーブルテレビで放送されていた。視聴者からは激しい暴力シーンに対して非難が殺到した。

特有の“中毒性”

 おかげで、地上波のドラマも過激化している。昨年放送された『ペントハウス』は『夫婦の世界』を上回るドロ沼の不倫が描かれた。

「このドラマ3人の女性が中心となって繰り広げられる愛憎劇です。人気が高く、今年に入ってシーズン2が放送され、夏にはシーズン3も放送予定です。人間関係も複雑で、1話でも見逃すと、相手が変わったりしているから気が抜けません(笑)」(前出・韓国人女性)

 もちろん、大ヒットの影で『夫婦の世界』も『ペントハウス』も、「興味がない」「見たくもない」という女性たちも少なからずいる。別の韓国女性も、「どちらも見ていません。最近の韓国ドラマは本当に不倫ばかりで見る気が失せます」と、ウンザリした様子だった。

 それでも、不倫ドラマが高視聴率になる理由を、ドラマ好きの韓国人女性が説明する。

「韓国の女性は出産すると『○○ちゃんのママ』と呼ばれ、家事や育児に追われるので、女性として自由恋愛への憧れがあったのではないでしょうか。しかも不倫というシチュエーションの中で進む緊張感あふれるストーリーには特有の“中毒性”がある。女性視聴者はよりスリルを求めるようになり、制作側も刺激的なシーンを演出するなどドラマの内容を過激化していったんです」

 また、韓国には「내로남불(ネロナムプル)」という言葉がある。

「自分が行えばロマンス、他人が行えば不倫」という意味で、現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権下で定着した造語だ。大統領は自分のことは棚に上げて他人を批判し、自分が同じことをしても知らん顔している現政権を皮肉っている。政権批判の例えとして使われているが、不倫ドラマに関してもヒロインに自己投影した視聴者が、「これは不倫ではなく、ロマンス」と思い込んでいるのではないか。社会では絶対NGの不倫も想像するのは自由であり、誰に批判されるいわれはないということだろう。

 韓国は日本以上に「不倫は決して許される行為ではない」と言われるが、不倫ドラマに対してはかなり寛容になった。誰かが「不倫は文化」なんて言い出す日も近いのでは。

児玉愛子/韓国コラムニスト

デイリー新潮取材班編集

2021年4月30日掲載

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