DXで仕事がなくなる時代をいかに生き抜くか――新井紀子(国立情報学研究所教授)【佐藤優の頂上対決】

佐藤優 佐藤優の頂上対決 ビジネス 2021年04月13日

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 AIは人智を超えない。しかしながら、今後は確実にいまある仕事を人から奪っていく――。効率化が社会の隅々まで及ぶ時、私たちに必要となるのはどんな能力で、いかなる生き方なのか。AIロボットによる東大受験プロジェクトを率いてきた気鋭の数学者が語る大転換期の人生設計。

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佐藤 新井先生の『AIvs.教科書が読めない子どもたち』は、すっかり古典としての地位を確立しましたね。計算機の延長に過ぎないAIが人智を超えないことや、その技術によって生まれたロボット「東ロボくん」が東大に合格できないことは、広く共有されるに至ったと思います。

新井 2015~16年に見られたAIへの過剰な期待は、いまや「がっかり感」に変わっているように見えますね。

佐藤 シンギュラリティ(AIが人類を超える技術的特異点)は来ない。ただ問題はそこにあるのではなく、AI技術の進展で仕事が消えていく一方、AIでは替えの利かない「読解力」が日本人全体で落ちていることですね。その問題を新井先生は最近、「新文書主義」という言葉で説明されています。

新井 はい。21世紀はテクノロジーの世紀であるとともに、新文書主義の時代です。対面でのコミュニケーションよりもメールやマニュアルなど、文書によるやりとりの比率がどんどん上がっている。しかも高度な内容を読み解かなくてはいけませんし、そこでミスをすると大きな損害になったりします。

佐藤 新型コロナの感染拡大で定着したテレワークが、それに拍車をかけている。

新井 何でも一人で読んで理解しなくてはならなくなりましたね。テレワークだと、もう隣にいる先輩に「これ、どうするんですか?」とは聞けない。自分一人で理解できますよね、自力で読めて当然ですよね、という前提で、仕事が行われるようになります。

佐藤 しかし新井先生が開発されたリーディングスキルテスト(RST)の結果を見ると、自力で読める人ばかりではないことがわかる。

新井 現在、20万人以上にRSTを受けていただきましたが、一部上場企業の方でも中学生並みにしか読解力のない人がいます。

佐藤 芥川賞作家の藤原智美(ともみ)氏も読解力の低下を危惧しています。『ネットで「つながる」ことの耐えられない軽さ』というエッセイ集で、いまのSNSなどでやりとりされているのは、書き言葉でなく話し言葉で、このため日本人の読解力が急速に落ちている、と指摘しています。

新井 文字列によるコミュニケーションはあらゆるレベルで浸透していますが、SNSでのショートメッセージ的なやりとりしかしていない人と、業務的な文書を書かねばならず、かつ読まねばならない人とでは、どんどん読解力が乖離していきます。昔は新聞という共通のテキストがありましたが、いまはみなが読むものではなくなってしまいました。SNSには主語も述語もないような文章ばかりですが、一方に非常に高度な文章を速いスピードでやりとりする人たちがいて、彼らがどんどんビジネスを決めていってしまうのです。

佐藤 霞が関の官僚たちも大量の文章を読んで的確に処理することが得意ですが、ホワイトカラーの中でも二分されていくのでしょうね。

新井 これからは総務や経理といった部署がまずDX(デジタルトランスフォーメーション=変革)で縮小されます。だからホワイトカラーの大量雇用はなくなります。配属された部署に若手は自分一人という状態が生まれ、「このマニュアルでやってください」と言われる。それが読みこなせないと、鬱になってしまうでしょうね。

佐藤 それはもう起きつつある。

新井 かつての日本の会社は、3割の人が利潤を生んで、7割の人はサポートという名の定型処理をして回っていました。終身雇用神話もあった。でもこの7割をどうコストカットしていくかが、DXの目標のひとつになります。

佐藤 そうなると、社会全体ではどんどん階級分化が進んでいきます。

新井 はい。ただ、いま企業の中のIT化はまだデジタイゼーションにとどまっていて、デジタライゼーションには至っていないんですね。ここを混同する人が多いのですが、デジタイゼーションはいままでの業務を前提として、その業務をデジタルにすることです。例えば、文書をPDFにしてタブレットで見られるようにするというものですね。

佐藤 それで何かをやった気になってしまう。

新井 デジタライゼーションは機械同士が協力できるよう規格を統一し、お互いで処理し合えるネットワークを作ることです。これまでの日本の会社は「うちの業務はこうですから」とか「私のクリニックはこうです」と言って、自社用にカスタマイズして業務システムや電子カルテを作ってきました。だからデジタイゼーションは終わっていますが、そこからデジタライゼーションに移行できないんです。

佐藤 規格が統一されていないから、メールで来たデータを手作業で転記しなくてはいけなくなる。

新井 コロナの感染者数の集計を保健所がそうやっていましたね。そんなわけのわからない作業が発生するのが日本のダメなところです。

佐藤 官にも民にもわかっている人がいない。

新井 日本のデジタル化は、文科省のGIGAスクール構想に代表されるように、ハードを学校に配ることだと考えられています。そうなると、デジタルは単にコストでしかない。つまり成長に繋がっていかないんですね。IT企業も同じです。彼らの利潤率は10%を超えるべきですが、日本のSIer(エスアイアー)(情報システム構築会社)のようなIT企業でも、なかなか10%を超えられないのは、そこに原因があるのだと思います。

佐藤 このデジタライゼーションが徹底されると、社会は大きく分断される。そうならないためには読解力が必要で、新井先生はそれが生産性の向上にもGDPの伸長にも寄与すると指摘されています。ただこの変化を前に、もう低成長社会でいいじゃないかという人たちも増えている。例えば『人(ひと)新世の「資本論」』の斎藤幸平・大阪市立大学准教授ですね。地球の生態系を考えると、環境負荷が少ないから、その方がいいという主張です。

新井 そうですね。イタリアみたいにしていく。そういう考えはあっていいと思いますが、低成長社会でまったり生きていくにも、そこそこお金は必要です。

佐藤 何かで稼がないといけない。

新井 自分がまったり過ごせる居場所をうまく作ることに、読解力は必要になります。

読解力も体力もない子供

佐藤 北関東のコンビニの店先でたむろしている子供たちはどうでしょう。彼らの近未来はあまり変わらない気もします。

新井 私たちの時代の不良たちというのは、体力がある子が多かった気がします。ケンカが強くて根性があって、ある特定の組織の規律には非常によく従う。そういう子たちは人手が足りない鳶(とび)職といった、機械化できない高度技術が必要な場所で働けました。でも最近の、オレオレ詐欺の出し子で捕まるような青少年は、すごく体力がない。少年院で「クーラーのある部屋じゃないと働けない」みたいなことを平気で言います。彼らに鳶職は無理です。

佐藤 確かにそうですね。私も埼玉の鳶職の親方を何人か知っていますが、若い鳶は減っているそうです。余談ですが、その原因の一つはライバル業種があるからで、それはホストクラブです。ホストの方が稼げる。その業界も上下関係がきっちりしていて、文化として似ている。

新井 なるほどねぇ。

佐藤 一方で開成や灘、あるいは桜蔭といった超難関中学校に合格する子は、中学受験の時点で大人に匹敵する読解力を身につけています。

新井 もう小学4年か5年の段階で高いですよ。

佐藤 中学受験の段階で、数学と英語を除けば、東大入試もある程度こなせます。

新井 この間、開成中入試の算数の問題を見ましたが、問題の条件となる部分を正確に読み取れるのは大人でも1割いないような設問でした。

佐藤 だからエリートたちのほうは変わらない。

新井 ええ。逆におうちでずっとゲームをして読解力もなければ体力もない、という子供たちは、これからほんとに難しいなと思います。

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