コロナ変異株、ワクチンの有効性は? インフルと比較して変異しにくい特徴も

国内 社会 週刊新潮 2021年4月1日号掲載

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 緊急事態宣言はようやく解除されたが、「時期尚早だ」という指摘もある。変異株が怖いからだという。たしかに従来型と違い、感染者数が指数関数的に増えるかのような報道も目立つが、実態はどうなのか。われわれは打ち勝てるのか。すべての疑問に答えよう。

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 ようやく緊急事態宣言が解除された。指摘された感染者数の下げ止まりは、宣言の効力が失われた証左であり、効果がない対策のために、倒産や失業のリスクを高めるほどの本末転倒もあるまい。

 ところが、弱者の味方であったはずの野党は、さらに弱者を苦しめたいらしい。宣言解除を「時期尚早」とし、菅義偉総理に「解除を強行して第4波を生じたら、内閣総辞職ではすまない大きな政治責任が生じる」と迫った立憲民主党の枝野幸男代表に至っては、ご乱心とでも言うほかない。規制を緩めれば多少のリバウンドは避けられない。それも受け入れられないなら、新型コロナが完全に収束するまで、緊急事態宣言を続けるしかないではないか。

 その一方、共同通信の最新の世論調査では、政府が緊急事態宣言の解除を決めたのは「早過ぎた」と答えた人が52・2%に達するなど、国民の不安は拭われていない。最大の要因は変異株だろう。事実、同じ調査では変異株に「不安を感じている」という回答が41・4%、「ある程度不安を感じている」が40・8%で、合わせて8割を超えていた。

 たしかにワイドショーなどを見るかぎり、変異株は感染力も死亡率も高く、これまでの対策が無効になり、ワクチンも効かない、という印象を抱きかねない。だが、敵が現れたときに肝要なのは、相手を知り尽くすことである。以下に変異株への疑問を解消し、われわれはどう向き合えばよいか、明らかにしていきたい。

 最初に、変異株は現在、日本でどれくらい広がっているのか、である。東京都感染症対策部に聞くと、

「昨年12月28日から3月19日までに検査した3035件から、18件の変異株を確認しています」

 と話す。まだ、かなり少ない印象だが、

「週単位の新規陽性者のうち、10%前後に対して変異株のスクリーニング検査を行っていて、そこで確認されたのが18件。スクリーニング検査は4月上旬までに25%、最終的に40%にまで増やしたい」

 とのこと。ごく一部しか検査していないのだ。ただ18件中5件は、3月15~19日に検査した73件から確認されており、変異株が増えつつあるのは間違いない。そこに3月19日、変異株の割合が50%を超えた、と発表したのは神戸市であった。その担当者は、

「昨年5月からPCR検査に力を入れ、陽性者の検体を環境保健研究所へ送って、ゲノム(遺伝情報)解析をしてきた流れで、いまも神戸市はゲノム解析、分析ができています。3月5日から11日の数字で言うと、PCR検査による陽性者158人のうち、105人について変異株の検査を行い、58人、約55%の検体から変異株が確認されました」

 と言い、こう加える。

「ほかの都市も神戸市と同様に検査をすれば、変異株の割合は同じような数字になるかもしれません」

 だが、そう言われて驚く医師や専門家はいない。浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師もこう話す。

「4月には日本でも英国株が主流になっていると思う。というのも1月15日、CDC(米疾病予防管理センター)が、現時点ではアメリカにおける英国株の割合は0・5%未満だが、4月には感染の主流になっている可能性がある、とシミュレーションしていたのです」

インフルより変異しにくい

 すると、現在1都3県で感染者数が下げ止まり、全国でも増加に転じた県があるのは、変異株の流行と関係があるのだろうか。

「変異株の流行で下げ止まりの状態になっている可能性もあるでしょう」

 と話すのは、免疫学やウイルス学を専門とする埼玉医科大学の松井政則准教授である。そして、

「下げ止まりの原因を解明することは最重要ポイントです。国民はこの1年、政府や自治体の要請に従ってきて、限界だという方もおられるでしょうから、政府や分科会にはぜひそこを解明してほしい」

 と求める。すでに変異株が主流になった可能性も否定できない以上、急いで解明してほしいが、そもそも、なぜウイルスは変異するのか。松井准教授が続ける。

「新型コロナは風邪やインフルエンザ、HIVなどのウイルスと同じRNAウイルスで、ヒトの細胞に感染したあと、細胞内でウイルスの設計図であるRNAを転写、つまりコピーして増殖していく。その過程で起こるミスコピーが変異です。約3万の塩基配列から成っている、新型コロナのゲノムの配列が変わってしまうのです。一般に、ウイルスは私たちの免疫機構から逃れて生き残るために変異しますが、それはアトランダムに起き、感染しやすくなることもあれば、しにくくなることもあります」

 一方、天然痘に代表されるDNAウイルスは、

「変異性が低い。だから5千万人の命を奪った天然痘も、ワクチンや免疫が備われば治るため、ジェンナーの種痘によって根絶することができたのです」

 と、松井准教授。それにくらべれば、RNAウイルスは一般に変異しやすいが、新型コロナウイルスは、

「HIVやインフルエンザのウイルスほど、激しい変異はしない傾向にある」

 というのである。

「理由は、ウイルス自身にRNAのミスコピーを校正する仕組みが備わっているから。一方、HIVは激しく変異を繰り返し、ヒトの免疫では追いつけないので、治すことも、ワクチンの開発もできていません。インフルエンザも高頻度で変異するため、変異を予測してもよいワクチンはなかなか作れず、毎年冬に流行します。A型、B型とはタイプの違いで変異ではありません。A型ならA型、B型ならB型のなかで変異が生じ、亜型が生まれる。それにくらべると、新型コロナは当初の武漢型から変異した欧米型のD614Gがいま従来型と呼ばれ、最近、英国株や南アフリカ株、ブラジル株などが出てきたわけで、その速度からも、HIVやインフルよりは変異しにくいと思います」

 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授も、

「新型コロナウイルスは遺伝情報の塩基が約3万個連なるうち、1年に平均24カ所、塩基の配列が変わって変異を起こします。しかし、それが必ずしも毒性や感染力に影響するわけでもありません。また変異速度はHIVウイルスの約3分の1、インフルエンザウイルスの約2分の1で、いくぶん緩慢と言えるでしょう」

 と説明する。むろん、変異に対しては注視すべきだろうが、インフルエンザよりも変異しにくいのは、朗報ではないだろうか。

 ここでそれぞれの変異株について、寺嶋教授に解説してもらおう。

「初期の患者が感染していた武漢型に対し、昨年2月下旬ごろ欧米型の変異株が生まれ、日本でも海外でも主流になった。いまでは従来型と呼ばれるこのウイルスは、表面のSタンパクがD614Gという変異をしています。新型コロナのSタンパクは約1270のアミノ酸配列から形成され、そのうち614番目のアスパラギン酸(D)がグリシン(G)に変わったという意味です。武漢型より増殖しやすいという報告はありますが、毒性が高まったというデータはありません」

 では、欧米で蔓延し、日本でも広がっている英国株はどういうものか。

「これはN501Yという変異をしています。Sタンパクの501番目のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に変わって、Sタンパクが細胞の受容体ACE2に結合しやすくなっています。英国の報告で感染力が1・7倍というデータがあり、英国公衆衛生庁は論文で、死亡率が従来株の1・64倍になると発表しています。従来株より毒性が強くなった可能性も否定はできません。しかし、致死率は従来型の0・26%程度に対して0・41%ほど。高い値で推移しているわけではありません」

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