佐賀県警、女性本部長が「突如異動」となった理由 太宰府主婦暴行死事件の対応で

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 九州で史上初の県警女性本部長が2月24日付で突然の異動。「体調不良」が理由だが、誰もその言を信じない。杉内由美子氏(51)は2019年8月、佐賀県警本部長に着任したが、その2カ月後、

「“太宰府主婦暴行死事件”が起きました」

 とは地元記者。

「主婦の高畑(こうはた)瑠美さんが無職の女らにつきまとわれ、金を無心されたうえ暴行を受け、死体遺棄された事件です。高畑さんの家族は住まい近くの佐賀県警鳥栖署に11回も瑠美さんの身の危険を訴えていたのに、警察は動きませんでした」

 警察への批判に杉内氏は、

「被害者に直ちに危害が及ぶとは認められなかった」

 として対応に不備はなかったと主張。だが、問題の大きさから昨年12月には県議会でも取り上げられた。

「県民が警察に安心して相談もできなくなると考え、質問しました。しかし、杉内本部長は従来の見解を繰り返すばかりでした」

 とは自民党の中倉政義県議。他方、共産党の武藤明美議員が言うには、

「議会では淡々と答えていた杉内本部長でしたが、閉会後に挨拶に来られまして。私が“県民に信頼される県警であってほしいですね”と言うと、しっかりと私の目を見て“そうあってほしい”とおっしゃっていたのが印象的です」

 杉内氏は東京大学農学部卒。1993年に警察庁に入り、96年、設置されたばかりの犯罪被害者対策室に配属となる。以後、犯罪被害者の支援に意を注いできたそうで、太宰府事件の手落ちは皮肉というほかないが、

「杉内氏は、警察庁が現場の対応に問題なしとした以上、自分もその線に従うしかない。組織と被害者との板挟みになり、悩んだ面もあったのでは」(先の記者)

 高畑さんの遺族に訊くと、

「報道関係の方から、本部長には遺族ときちんと話をする意思があったと聞きました。それは組織として許されなかったのかもしれませんが、そのことと真相は別。遺族が納得できるよう真実を話してほしかった」

 前出の武藤議員が言う。

「県警による退任発表前に、議会との窓口役の警察職員が異動の件を知らせに来てくれたのですが、やはりと納得しましたね。共産党は今会期中にも事件のことを質問する予定で、警察は彼女ではうまく乗り切れないと判断したのでしょう。女性初の本部長として期待していましたが、彼女が本庁の意向に沿ったのか、県警の体質が彼女に自由な判断を許さなかったのか……」

 いずれにせよ結果的に無力さを露呈した杉内氏。事件が起きてもうまく処理できないということで、佐賀県警はときに“さばけんけい”なる蔑称で呼ばれもするという。事態を捌けなかった挙句せっかくの女性登用をフイにした警察の罪は重い。

週刊新潮 2021年3月11日号掲載

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