インターネット革命は5Gであと数十年続く――熊谷正寿(GMOインターネット代表取締役会長兼社長・グループ代表)【佐藤優の頂上対決】

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 インターネットのドメインやサーバーなど、インフラ分野で日本のトップを走るGMOインターインターネット。わずか25年の間に上場会社10社、全体では103社を数える巨大グループに成長したが、そこにはどんな成長戦略があったのか。時代の風雲児が語った独自の経営哲学と今後のビジョン。

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佐藤 GMOインターネットは独立系ネットベンチャーとして日本で初めて上場し、今年創立25周年を迎えます。ドメインの約9割、サーバーでは5割強のシェアを持ち、いまや日本の一大ITインフラ産業です。これを一代で築き上げた熊谷さんがクリスチャンだというので、お目にかかるのを楽しみにしていました。

熊谷 私も、もしかしたらそのご縁でお話をいただいたのかな、と思っていました。

佐藤 教派はどちらですか。

熊谷 私はプロテスタントです。メソジスト系の日本基督教団広尾教会の教会員です。

佐藤 私も日本基督教団で、同志社(会衆派)系の賀茂教会です。もともと長老派系でしたが、いまは会衆派です。熊谷さんはご家庭がそうだったのですか。

熊谷 いえ、洗礼を受けたのは2007年です。当時、買収した信販会社の不良債権で、会社を潰しそうになったことがありました。400億円くらいの損失が出て、一時はもうダメかと思った。でも個人資産をつぎ込み、借金もして、何とか切り抜けましたが、その時なんです。

佐藤 買収した後に、利息の過払い金問題が浮上した一件ですね。

熊谷 ええ。当時、土曜日は毎週接待ゴルフで、終わったらお酒を飲むという生活でしたが、翌日の日曜日に教会に行ってお祈りをする習慣ができました。それがあったから、いまも生きていられるのだと思います。

佐藤 大きな転機が訪れた。

熊谷 自分の意思決定のミスで、それまで自分がやってきたことが水泡に帰しました。当時は練炭自殺する夢まで見ました。そんな時期を乗り越えられたのは、土日をそう過ごしてきたからです。いまはなかなか教会に行けず不真面目な信者ですが、あの時に洗礼を受けたのはほんとうに正しかったと思います。

佐藤 私も鈴木宗男問題で捕まった時、持ちこたえられたのは、やはり旧約聖書のヨブ記などを読んで、これは試練だ、何か必ず意味があるはずだから頑張り抜かないといけないと、自分に言い聞かせたからです。

熊谷 絶望的状況を救ってくれたのがプロテスタントで、今回、こうした機会もいただけた。ありがとうございます。

佐藤 熊谷さんはキリスト教とともに生活されていることが影響しているのか、非常に長いスパンで社会を見ておられますね。20代から100年単位で続く会社をどう作るかを考えてこられた。

熊谷 そうですね。それにはまず、100年以上続いている組織に学ぶべきだと考えました。

佐藤 そうした会社はめったにない。

熊谷 だいたい会社は作って5年で7割が消えます。10年で97・8%がなくなり、20年経てばわずか0・3%しか残っていません。昔、「日経ビジネス」誌が会社の寿命は30年と書いて大きな話題になったそうですが、ほんとにそのくらいだと思います。200年以上残っている会社は世界でも七、八千社です。

佐藤 日本はかなり残っているほうです。

熊谷 一番長く続いているのは、日本の神社仏閣を建てている金剛組で、1400年くらいですね。でも、宗教は千年単位で続いているところがいくつもあります。キリスト教は2千年以上です。しかも会社は社員にお金を払っていますが、宗教組織は逆にお金をもらっています。まったく逆のことをして、2千年続いている。そこには何か重要な仕組みがあるはずだと、20代の頃に研究してみたのです。

宗教と財閥

佐藤 何が見つかりましたか。

熊谷 宗教は経済的ではなく精神的な充足をもたらしますが、それとともに五つの外形的な共通点があります。まず一つは「定期的に集う」。

佐藤 教会や寺ですね。

熊谷 そして「同じものを読み、歌う」。

佐藤 聖書に聖歌、経典です。

熊谷 さらに「同じものを身に付け」て「同じポーズをとる」。

佐藤 どの宗教も十字架や数珠などの決まったものがあり、祈りのポーズが決まっていますね。

熊谷 そして最後は「神話」です。

佐藤 なるほど。それを取り込んだ組織作りをされているのですか。

熊谷 「定期的に集う」は、グループの常務以上が集まる月曜会や経営会、取締役会、経営会議、グループ幹部会などがある。またコロナ以前は3カ月に1度、グループ本社のある渋谷のセルリアンタワー東急ホテルを貸し切りにして、グループ全体の数千人のパートナー(社員)が集まり、世界の拠点へも中継するイベントを行っていました。いまはZoomで配信する形でやっていますが、必ず定期的に集まります。

佐藤 それはすごい規模ですね。

熊谷 「同じものを読み、歌う」は、「GMOイズム」という冊子を全員が携帯し、唱和します。そして私たちは社員証を左胸に着け、ジャケットを羽織る時は社員徽章を着用します。また、写真を撮るときには同じポーズをとります。それは私たちが一番のサービスを提供してお客様に喜んでもらい、結果として私たちが一番になるという思いを込めて、人差し指を立てるナンバーワンのポーズです。

佐藤 同志社大学神学部に入って以来、神学をずっと学んできましたが、神学的な思考ができるようになったのは40代半ばを過ぎてからでした。中世の神学教育でも、入門過程が9年、専門課程が15年で、最低24年かかります。GMOはこうした取り組みの中で25年が過ぎ、それをインカーネート(肉体化)している人たちが出てきていると思います。そうなると会社は100年もつようになるでしょう。

熊谷 今日は毎年行っている永年勤続表彰の日で、10年勤続86名、20年勤続30名、資本業務提携で来ている人がいるので、40年勤続1名の合計117名を表彰し、感謝の会を開きました。その人たちの勤続年数を足してみたらピッタリ1500年でした(笑)。

佐藤 そうした時間軸で測って物事を考えているところがいいですね。

熊谷 100年単位の会社を作る上でもう一つ研究したのは、財閥です。事業領域は旧財閥に学びました。三菱でも住友でも、財閥はリアルなインフラ事業と金融事業を持っている。

佐藤 だから銀行や証券などに進出されたのですね。

熊谷 そうです。インターネットの会社は、鉄道財閥の会社に譬(たと)えるとわかりやすいかもしれない。鉄道会社はどこも中央と郊外に駅を作って線路で結びます。平日は家から会社までのトラフィック(交通。流れる情報の意も)で、週末は一番端に作った遊園地へのトラフィックになる。そして駅周辺に店を作ったり、宅地を開発したりして、事業領域を広げ、財閥化していきます。インターネット事業も同じで、プロバイダやサーバーが回線を結んで、その周辺でEC事業や決済や広告などさまざまな事業を展開していく。

佐藤 鉄道には軍用鉄道と巡礼鉄道と二つの系譜があります。軍用鉄道は基本的にまっすぐで、貨物が基礎です。一方、巡礼鉄道は街を縫ってくねくねしながら聖地に向かいます。日本で典型的なのは江ノ島電鉄で、京成電鉄も近鉄もそうです。

熊谷 へぇ、面白いですね。

佐藤 そうやってできた鉄道も、人々が世俗化して神社仏閣に行かなくなると、遊園地が必要になってくるのですが、大本のところで宗教と密接な関係があります。つまり宗教の組織論の中に、近代では鉄道が組み込まれている。だから熊谷さんの組織モデルに重なる話になってきます。

熊谷 非常に勉強になります。

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