「医師会」が緊急事態宣言の延長にこだわる本当の理由 民間病院に患者が溢れてくることを懸念

国内 社会 週刊新潮 2021年2月25日号掲載

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 ワクチンの接種開始は朗報だ。菅総理は日本医師会の中川会長に協力を求め、快諾を得た。だが――。経営者として腕利きの中川会長は当然、取引で見返りを期待している。緊急事態宣言をできるだけ続け、経済を犠牲にして個人病院を救う、という見返りである。

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 先月7日、1都3県などで緊急事態宣言が再び出される際、西村康稔経済再生担当相は、解除の判断基準は「東京なら1日の新規感染者が500人まで低下すること」と明言した。それから約40日、今月12日に総理官邸で開かれた新型コロナウイルス対策本部の結論は、10都府県すべてで解除見送り、であった。

 新規感染者数が減らないならまだわかるが、2月16日時点で、都内の1日当たりの感染者数は、10日連続で500人を下回り、1日平均370人ほどにまで減少していた。ところが西村大臣はテレビ出演し、「公約」を反古にした理由は説明しないまま、「減少の度合いが鈍化している」などと言い出す始末である。

「国民は“500人を切ったからなんとかなる”と思って努力を重ね、明るい光が見えてきたところで、なぜ緊急事態宣言を解除しないのでしょうか。これでは国民への裏切りです」

 と、東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が意見する。

「政府の基本方針がぶれているのが問題です。コロナ対策と経済のバランスをとる、という筋が通っていればいいのですが、GoToのせいで第3波が起きたと批判された途端に、命が大事だという方向に一気に向きました。経済に振れたり医療に振れたりし、いまは2回目の緊急事態宣言にしがみつき、医療側に偏りすぎていますが、このぶれが一番悪い。骨太の方針があれば、一回言ったことは変わらないはずです」

 もっとも、政府に裏切られた世論も怒りを表明しない。たとえば、毎日新聞の最新の世論調査でも、緊急事態宣言を「3月7日の期限まで続けるべき」という回答が47%、「3月7日以降も延長すべき」が22%で、合わせると7割近い。だから、政府はラーメン店の倒産が過去最多、観光バスの倒産や廃業が過去最多、というニュースは無視して世論に迎合した、という見方もできよう。

 では、このような奇妙なほど萎縮した世論は、どうやって形成されたのか。

 日本医師会の中川俊男会長は会見などで再三、宣言解除の前倒しに慎重であれと訴え、「第4波が来ないレベルまで徹底的に感染者を抑え込むべきだ」と発言している。また、東京都医師会の尾崎治夫会長は、「いま解除すると、4月には1日に千人、2千人になり、第4波が来る可能性が高い」と指摘。「可能性」の算出根拠は明かさないまま、感染者数を、1日100人ほどまでに抑えるよう呼びかけている。

 こうした発言が連日、メディアを通して報じられれば、世論が緊急事態宣言の継続に導かれるのも自然に思われる。だが、医師で東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授は、

「私はかねてから、大手メディアが医師会の新型コロナに関する発言を取り上げること自体、大問題だと考えていました」

 と話す。なぜか。

「日本医師会は開業医と個人病院の団体です。しかし、日本で新型コロナ患者を受け入れているのは、病院全体の約2割にすぎない公的医療機関が中心で、開業医や個人病院ではなかなか患者の受け入れが進みません。医師会は彼らの利害にもとづいて動きます。コロナ患者を受け入れ、一般患者の足が遠のいたり、職員に感染者が出たりすれば、経営悪化にもつながりかねません。本音ではコロナ患者を受け入れたくない、しわ寄せを受けたくない、と考えているのではないかと疑う人も多いです。しかし、この有事に、中立とは言いがたい病院の経営者の“代表”の意見を報道していいものでしょうか」

 だが、いまのところ、事は医師会の思惑通りに進み、後述するが、ワクチン接種とからんで、彼らの発言力はさらに増している。一方で、医師会が拒む「しわ寄せ」は、ひとえに飲食店や観光産業、文化事業などが受け、ひいては経済全体に及ぼうとしている。

知事が好き勝手に命令を

 緊急事態宣言が解除されないまま、2月13日に施行されたのが、改正特別措置法である。休業や営業時間短縮の要請に応じない事業者に、都道府県知事が命令を下し、罰則も適用できるようになったわけだ。都内南部の居酒屋の店主は、

「いまも常連さん限定で、夜8時以降も営業していますが、今後も続けます。一番大きいのは僕のプライドです。何年もお金を貯めてようやくオープンできた店ですし、この店が好きで来てくれるお客がいるかぎり、罰金を支払うことになっても営業します。アルバイトの子の収入のこともありますね。本業と掛け持ちで働いている子が多く、みなコロナのせいで本業の稼ぎが減っていて、ここのアルバイトまでできなくなったら、本当に生活が立ち行かなくなってしまいそうです」

 と語る。営業することが法を犯すことになるのであれば、それを是としがたいのは言うまでもない。しかし、法に従うことが、すなわち破滅につながる人が少なからずいることも、また事実なのである。

 たとえば、和食レストラン「権八」やカフェ「ラ・ボエム」などを運営するグローバルダイニングは、これまで一部店舗を除き、時短要請に従っていなかった。が、長谷川耕造社長は、12日に行われた決算発表の会見で「法律ができたら守るのは納税と同じですから」と発言。不本意ながらも法の施行後、時短営業を命じられた場合は、それに従う姿勢を明らかにした。

 だが、米村教授は、そもそもこの改正特措法に問題があると、こう指摘する。

「一般的な法律には、国や自治体がどんなときに、どんな手続きで、どんな内容の命令を発することができるのか、明記されています。法律には基本的に、権力を行使できる場面を絞っておく、という考えがあるからです。ところが特措法には、そうしたことが改正前から明記されていません。“緊急事態だから、都道府県知事に特別な権限を白紙委任してもよい”という考えが基本にあり、事実、知事たちは緊急事態宣言下で権限を行使できます。そのうえ知事たちは、まん延防止等重点措置を、6カ月という期限つきで発動できるようになった。要は、今後は緊急事態下でなくても、総理が必要と判断すれば、知事たちは時短営業などの命令ができるようになったのですが、具体的にどういう必要に迫られたとき、と限定されていないのです」

 飲食店などは、生殺与奪の権を知事にすっかり握られてしまったわけだが、それに止まらないという。

「命令の対象を飲食店に限定するとも書かれておらず、都道府県知事の権限で県境を封鎖するなど、ロックダウンに近い措置も可能なはずです。また飲食店については、3密状態で接待を伴う店から、30分に1度は店内の空気を入れ換えられる設備が整った店まで、十把一絡げに規制するのは問題です。重要なのは、危険な行動を慎んでもらうことに尽きます。それなのに、期限つきで緊急事態宣言と同様のことができるようにするだけなのは、思考停止も同然。独裁国家ではないのに、知事が好き勝手に命令できる状況など、あってはなりません」

 こうして飲食店等には八方ふさがりの状況下、米製薬大手ファイザーが開発したワクチンが、14日に承認されたのは、せめてもの朗報だろう。そんなワクチンに不安があっては、九方も十方もふさがってしまうので、ここでワクチンのリスクを子細に検討したい。

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