「医師会」が緊急事態宣言の延長にこだわる本当の理由 民間病院に患者が溢れてくることを懸念

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日本医師会の圧力

 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、

「新型コロナのワクチン接種で、副反応が生じる可能性はたしかにあります」

 と言うが、その内容は、

「ファイザー社製は20万分の1、モデルナ社製は36万分の1の確率で、急性アレルギー反応“アナフィラキシー”を起こすと報告されています。ただ、これは一般のワクチンでも100万分の1の確率で起きていることです。また、ファイザー社製も、接種開始直後の10万分の1が、いまは20万分の1にまで減った。今後、100万分の1という数字に近づく可能性もあると思います」

 具体的な副反応についても説明してもらおう。

「大別して3種類が想定されます。(1)が接種から30分程度で起こる副反応、(2)が1~2日で起こる副反応、(3)が長期的に起こる副反応です。(1)はアナフィラキシーショックと迷走神経反射が挙げられます。迷走神経は身体をリラックスさせる自律神経。ワクチンの筋肉注射で強い痛みを感じたり、恐怖心や不安感があったりすると、迷走神経反射で血圧が低下し、脈が遅くなり、眩暈(めまい)を感じたり意識が遠のいたりします。頭を低くして横になっていれば収まりますが、注射などに恐怖を感じる方は、接種後30分程度、人目の届く場所に待機しておくといい。またアナフィラキシーショックは、全身の皮膚の赤い腫れ、呼吸困難、唇やまぶた、舌の腫れ、腹痛や吐き気といった症状が出ます。ただ、そうした症状が出たのは、ファイザー製を接種した189万人中21人で、死者は報告されていません。激しい呼吸困難や血圧の急低下には、アドレナリン注射で血管を収縮させ、反応を抑える治療ができます。また21人中17人は、以前にほかのワクチンや薬、食品などでアレルギーを起こしたことがあり、さらに7人は過去にもアナフィラキシーを起こしていました」

 では、どういう人が反応しているのか。

「米CDC(疾病予防管理センター)などの分析では、ワクチンの中核mRNAを包むカプセル、ファイザーの場合はポリエチレングリコール、モデルナの場合はポリソルベートに対し、アレルギー反応を起こしているのではないかと示唆されています。これは歯磨き粉やシャンプー、化粧品などにも含まれる成分で、それらに敏感な方や、食物や薬、ほかのワクチンにアレルギーがある方は、接種前に医師に申告し、万一のときに治療してもらえるようにしておくといいでしょう」

 残り二つの副反応だが、

「(2)は、インフルエンザのワクチンなどでも見られる一般的な副反応で、接種部位の痛みや腫れ、発熱や倦怠感、頭痛などの症状が出ることがありますが、さほど心配要りません。最後に(3)。若い方を中心に心配されている方が多いと思います。ただ、長期的な副反応の詳細は明らかになってはいませんが、ワクチンの仕組みから起きにくいと思っています。現在、コロナワクチンにはファイザーとモデルナのmRNAワクチンと、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンがあります。前者はメッセンジャーRNAというタンパク質の設計図を細胞に取り込ませ、体内でウイルスの表面にあるSタンパクを形成し、抗体を生成する。後者もSタンパクの設計図となるDNAを組み込んだワクチンで、アデノウイルスなど人体に無害なウイルスが運び屋として使われる。いずれも細胞に取り込まれた後、分解されて長くは体内に残らないので、長期的に人体に影響を及ぼすとは考えにくいのです」

 まず、全国100の国立病院で、医師や看護師約4万人を対象に先行接種が始まる。続いて3月中旬、370万人の医療従事者への接種が始まり、寺嶋教授はそこに含まれるという。

 そして一般への接種が続き、その際、開業医や個人病院の協力も不可欠であるのは言うまでもない。そこで「ワクチン接種体制の構築に全力で取り組む」と強調し、同時に「感染者数が下がりきらない状態で対策を緩めるな」と圧力をかけているのが、日本医師会の中川会長である。

 菅義偉総理は10日、中川会長と官邸で会談し、「ワクチン接種体制整備への格段の支援」を求めたが、お願いすれば、相手の言い分を聞かざるをえなくなるのは、世の道理。中川会長の術中にはまった感もある。

過剰なメディア発信

 問題は、なぜ医師会は緊急事態宣言の延長をこうも訴えるのか、である。

「医師会は、感染者が増えて公的病院から医師会会員の民間病院にまで患者があふれてくるのを、できれば避けたいと思っているのでしょう。そのため緊急事態宣言の延長にも、ワクチン接種への協力にも、積極的になっているのです」

 と言うのは東京脳神経センター整形外科、脊椎外科部長の川口浩氏。医師会が重ねて訴えるのは、「命のため」ではなく、「自分たちのため」だというわけだ。

「緊急事態宣言解除の六つの指標のうち、なお目に見えて減少に転じていないのは“病床の逼迫具合”です。原因は、重症もしくは中等症から回復しても辛さが残る患者さん、退院できるまで体力が戻るのに時間がかかる高齢者を、受け入れてくれる後方病院の不足。コロナ患者を受け入れる指定病院と、その後方病院が連携し、回転率を上げられれば解決に近づきます。後方病院は急性期の患者の治療には当たらないので、有床の開業医や個人病院が担うこともできるはず。医師会会員には使命感の強い先生は多くおられます。医師会がすべきは、政府や分科会の対策への根拠のない介入や批判ではなく、エビデンスにもとづき、コロナ患者への医療提供体制の再構築策を提示することです」

 そのために提案する。

「新型コロナの扱いを指定感染症2類相当から格下げする。インフルエンザと同程度のウイルスという認識が広がれば、一般患者もコロナ患者の受け入れ病院を避けなくなるでしょう。喫緊の課題としては、どうすれば後方病院になってくれるか、会員から聞き取るのもいい。後方病院になった結果、ほかの患者が怖がって来院しなくなるなら、金銭的補償をするなど、やり方はある。エビデンスにもとづいて政府と相談していくことが、医師会の本分でしょう。“影響力があります”“国民の健康を考えています”という自己存在感アピール、過剰なメディア発信は、同業者から見ても目に余ります」

 国際政治学者の三浦瑠麗さんも言う。

「日本医師会は業界団体ですが、現に政府の政策を縛っている以上、その主張を精査する必要があります。いま医師会は“緊急事態宣言を再び出さなくていいように、感染者を十分に減らそう”と主張していますが、それは、病床数を一切増やさない前提でのシミュレーションにもとづいていると思われます。法律があっても飲食店の営業を制限できるのは、実効再生産数の上昇局面で病床が逼迫するなど、緊急性がある場合に限られるでしょう。感染対策をし、人に危害を加えていない営業活動を引き続き制限する権利は、医師会には認められず、認めれば自由主義の根幹に抵触します」

 前出の唐木氏は、

「日本医師会も東京都医師会も、自分たちの担当は地域医療で、新型コロナには手を出したくないという姿勢で、一貫しています。中川会長の、コロナは国立病院が対処してくれ、感染者が増えると迷惑なので減らしてくれ、国民は努力してくれ、と評論家的な言動もそこからきています。医師会としては、人の命が大切だという、だれも反対できない建前が大事。一方、社会が混乱し、それによって失われる命があることには、彼らは触れません」

 と、医師会の本質をあぶり出したうえで言う。

「一番の問題は、医療体制を充実させると言いながら、させてこなかったこと。それなのに責任を国民に押しつけ、自粛を呼びかけている。そろそろ国民も怒らなければいけません」

 中川会長、経営者の鑑だが、残念ながらコロナで苦境の経営者に見習う余裕はなく、国民の多くはその“手腕”に気づいていない。だが、時間はあったのに医療体制を整えず、彼らの付け入る隙を作った菅政権の責任も重い。医療を拡充し、エビデンスを基本に新型コロナの扱いを見直すまで、コロナ禍は人災である。

週刊新潮 2021年2月25日号掲載

特集「『ワクチン接種』協力の見返りは『コロナ受け入れ』免除 取引上手『医師会』中川会長は『経営者の鑑』」より

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